第43話 ルート1 黒鬼姫 2
ツバキ姉さんに紹介してもらった夕日の見える公園。
ベンチに座り、告白をする。
少し雰囲氣を狙いすぎたかもしれない。
それでも、ヒメさんが二人きりになることを望んでくれたから言うことができた。そういうことは恋人同士になってからがいい。
「どうかな?」
ボクは固まってしまって、答えをくれないヒメさんに問いかける。
こういうことは急かしてはいけないと思いながらも、答えが知りたくて問いかけてしまう。
もしも降られたらどうしよう?
ツバキ姉さんは恋愛は難しいと言っていた。
ボクの気持ちがヒメさんに向いても、ヒメさんの気持ちは変わってしまっているかもしれない。
百年の恋が覚めるという話を聞く。
好きだと言っていた人の幻滅する姿を見て、恋愛感情がなくなってしまうそうだ。ボクがヒメさんを好きだと思っていても、ヒメさんの恋心がなくなっていれば仕方ない。
待たせてしまったのはボクだから。
「……ごめんなさい」
「えっ!」
まさか謝られるとは思わなくて、一気に胸が痛くなる。
相原さんの時にも感じた痛み。
そうか、僕はまたフラれるのか……。
「頭が追いつかなくて」
「えっ?」
「もちろん、レン君が私を好きだと言ってくれたのは凄く嬉しい。だけど、付き合えるなんて思っていなかったから。あなたは別の人のことが好きで。私のことは好きじゃないって」
同じクラスになってからはいつも自信満々だったヒメさん。
そんな彼女が気弱に震えて戸惑っている
これは? もしかして拒否するためのごめんなさいじゃないのかな?
「ヒメさんは僕のことを好きではなくなった?」
「それはないわ! 今でもレン君を好きよ。ただ、付き合えるなんて思ってもいなかったから、戸惑ってしまって」
これは僕が悪い。
他の女性が好きだと一度断っていることで、ヒメさんに不安を持たせてしまった。
「ヒメさんは、ずっと僕の側にいてくれた」
「えっ?」
「僕が悲しくて変わろうとした時、ヒメさんと挨拶をして、君は受け止めてくれた。それから何度も挨拶をして、同じクラスになったら、率先して僕を支えようとしてくれた。好きだと告白もしてくれて、好意的な態度をずっと向けてくれた」
僕は自分でも顔が熱くなっていくのがわかる。
「いつの間にか、僕は好きな人が変わってしまっていて、ヒメさんのことが好きなんだ!」
恥ずかしい! 全部、自分の気持ちを伝えるって本当に恥ずかしい。
「……」
僕は黙ってしまったヒメさんの顔を見た。
彼女は涙を流していた。
「えっ? ごめん。泣かせるつもりじゃ」
「ううん。嬉しいの。あなたが私のことをずっと考えてくれていた。私はあなたの側に女性がたくさんいて、きっと私は選ばれないって思っていたから」
「そんなことないよ! ヒメさんは凄く優しくて、僕を想ってくれて、それに僕の方こそ綺麗過ぎるヒメさんと釣り合うのか不安なぐらいだよ」
ハンカチを出して、彼女に差し出す。
「ありがとう」
彼女はそっと当てるように涙を拭き、僕らはしばらく無言の時を過ごした。
「……私の心は醜いの」
「えっ? 醜い? ヒメさんが?」
「そうよ。たくさん色々な人に告白された」
「うん」
「その度に、男子からも女子からも嫌われていった」
これはヒメさんが語る。ヒメさん自身が体験して、感じた本心?
「うん」
「だから、人が嫌いになった。ホノカちゃんは、それでも離れていかなかったけど、私は怖くてホノカちゃんにも近づけなかった」
「そうだったんだね」
「そんな時にあなたが現れた。挨拶をして、私を変な目で見ないで、真っ直ぐに私を見てくれる」
僕はそんな良い物じゃない。
相原さんを好きで、綺麗だと想ったけど関係ない女子だと思っていた。
「それは私の救いだった。友人と呼んでくれて、楽しく話をして、あなたのために変わりたいと思った」
彼女が抱える悩みを知る。
「だけど、あなたが他の女性とお話をしている姿を見るたびに嫉妬して、私の心は醜く歪んでいく」
「えっ?」
それは他の女子に嫉妬してるってことかな? ちょっとだけ嬉しい。
「こんな醜い私が本当にレン君に選ばれていいのかわからないの」
「いいんじゃないかな?」
「えっ?」
「さっき、ヒメさんが告白された時、女子に嫌われたって言っていたけど、きっと告白をした男子を好きだった女子がいて、ヒメさんが抱えているような感情を、その女子も抱いたから、ヒメさんを嫌いになった。きっとね。誰もが持っている感情で、それは醜いんじゃなくて、相手を思うからこそ生まれる感情なんじゃないかな?」
僕は相原さんに振り向いて欲しくて、自分磨きを頑張った。
だけど、彼氏と仲良くしていると聞いて、嫉妬したことは何度もある。
それにキスをしたと聞いた時、どこかで僕の胸にあった恋心は終わりを迎えたんだと思う。
僕の初めてはツバキ姉さんだったけど、もしかしたら相原さんはキスもしないで別れるかもしれない。
そんな勝手な思いが僕の中にもあった。
「今、僕はヒメさんが他の男子から視線を受けるのも嫌だよ」
今日のヒメさんは露出度が高く。
元々、プロポーションが良かったので、街行く男性からの視線が彼女に向けられる。それだけで嫉妬してしまう。
「わっ、私」
今更恥ずかしくなったのか、ヒメさんは身を縮めてしまう。
弱っている彼女の肩に手を回して引き寄せた。
「だからね。ヒメさんは醜くなんてないんだよ。僕と付き合ってくれませんか?」
「はい」
彼女から返事をもらって、キスをした。
初めてではないから、上手くできたと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます