第34話 後輩の美少女は焦りを感じる。

《side小金井千奈》


 体育祭の準備が始まって、部活の練習が短くなり朝練がなくなりました。

 やっとレン先輩とスケボーができると喜んでいたのに、ある日の部活終わりに先輩が凄く美人な先輩と話しているのを見ました。


 足を紐で結んで、グラウンドで練習する姿は二人三脚のペアなのはわかります。

 ただ、二人の雰囲気は遠くから見ていても、凄く仲が良くてなんだか邪魔してはいけないように感じました。


「何あれ?」


 先輩が楽しそうに話をしている。

 それを見るだけで嫌だ。


 なんで? なんでそんな綺麗な人が先輩の横にいるんですか? 先輩が言っていた好きな人ですか? そんな綺麗な人が先輩は好きなんですか?


 勝てない。


 遠目に見ても、先輩の隣にいる女性は、凄く美人でスタイルがよくて、男性なら絶対に好きになるような女性だった。


「わっ、私だって頑張れば」


 その日、私は先輩に声をかけることなく家に帰った。

 いつも鑑を見るたとき、運動をしているから色黒なのも髪がバシバシになっているのも仕方ないって思ってきた。


 だけど、それじゃダメ。


 先輩が好きな女性はとても綺麗で、女性としてレベルが高い。

 そんな人が好きな先輩だから、私がいくら好き好きって感情を見せても子供を見るような視線しか向けてくれないんだ。


 私は自分で見ても子供っぽい。


 髪は運動がしやすいようにショートにしている。

 化粧もしたことがない顔は、日に焼けてマダラな肌をして色。

 両親や、友達からは可愛いって言ってもらえるけど。

 可愛いだけ。

 綺麗と言われたことはない。


 だけど、先輩が好きな人は綺麗な人。


「今のままじゃダメ」


 私はお姉ちゃんとお母さんに相談して自分を変えることを始める。


「ふ〜ん。チナちゃんがねぇ〜。いいよいいよ。お姉ちゃんが化粧の仕方と、美容方法を教えてあげるよ」

「お母さんとは一緒に服を買いに行きましょうね。ふふふ、女は負けてはいけないのよ」


 二人は私が見ても美人だと思う。

 お姉ちゃんは華やかな顔立ちをしている美人で、レン先輩の隣にいたような美人に負けない。

 お母さんは誰から見ても美人と評判だけど、お父さんを落とす頃に色々と工夫した話をしてくれた。


「お願いします!」


 私は二人の力を借りて一日で出来ることを全てやった。


 そんなにすぐには下地は変えられない。

 だから、美容室で髪の毛の艶が出るトリートメントをしてもらって、服を買いに行った。朝早くに起きてバッチリなメイクはおかしいと姉に言われたから、自然に見えるナチュラルメイクを伝授してもらった。


 朝の早い時間。


 私は新しく購入したスポーツウェアにナチュラルメイクをした顔を鏡に写して確認する。


「よし!」


 昨日の自分よりも色々と整っている顔は自分で見ても可愛いと思う。


「レン先輩! おはようございます!」


 いつもの公園、いつもの場所に先輩の姿を見つける。


「うん? やぁチナちゃん。おはよう」


 先輩は、私に声をかけられて振り返り固まった。

 

 どうなのかな? 先輩は私を褒めてくれるかな?


「えっと、今日はいつものウェアと違うんだね」


 今日の私はスカートにスパッツ、体にピタッとしたトップスにパーカーを羽織っている。いつものジャージと違って可愛くて女性らしい体のラインがはっきりと出てしまう。

 胸元は心許ないけど、お姉ちゃんの助言には女性の肌が見えているだけで男性はドキドキするって教えてもらった。

 だから、先輩にしか見えないように前だけを開いて肌を露出している。


「はい。新しく買い替えたんです。可愛いでしょ?」

「うん。すごく似合ってて可愛いと思うよ。それにメイクをしているの?」

「はい! ちょっと最近日焼けが気になっていて」


 本当は先輩に綺麗に見られたいから。

 どうですか? 変じゃないですか?


「うん。日焼けって肌によくないもんね。自然なメイクだから、チナちゃんの魅力が凄くアップしていると思う! 可愛いね」


 かっ! 可愛いって、もうレン先輩! どうしてそんなに簡単に褒められるんですか? なんだか手慣れていませんか?


「チナちゃんもやっぱり女の子だね。元々美少女だって思っていたけど。今日はいつにも増して輝いて見えるから、外を歩くときは気をつけてね」

「なっ!」


 私の反応を見て、先輩がさらに褒めてくれる。

 だけど、褒められるたびに恥ずかしくなる。


「せっ、先輩は綺麗な人が好きなんですね!」


 だから、ついこの間見たことを言ってしまう。


「綺麗な人? 高校で見ていたのかな?」

「そっそうです。放課後に仲良さそうに練習してました」

「黒鬼さんは友達だよ」

「友達? でも前に好きな人がいるって言ってたのがその人なんじゃ?」

「ううん。彼女は違うよ。でも、彼女から好意を持っていると言われているんだ」


 えっ? 綺麗な先輩の方がレン先輩を好き? だけど、レン先輩の好きな人は別? なっ、ならまだチャンスはある?


「せっ先輩じゃ、あの綺麗な先輩と釣り合いませんからね」

「え〜! ヒドイよ。そんなに僕はダメ?」

「ダメです。先輩は優しいから、同い年とか、年上の人なら振り回されてしまうので、年下を可愛がるぐらいがいいと思います」

「そっか。なら僕の知っている年下はチナちゃんだけだから、チナちゃんを可愛がっておくよ」


 そう言って先輩は私の頭を優しく撫でてくれたけど、なんだか恥ずかしくなって、スケボーの練習に逃げました。

 

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