第30話 思われる? 思いたい?
ヒメさんとのデートは、彼女を家に送り届けて終わりを告げた。
明治神宮での告白の後は、気恥ずかしくなって口数が減ってしまう。
彼女が家に入ると、深々とため息を吐いて緊張をといた。
最後まで楽しく別れられたと思う。
「ねぇ。ツバキ姉さん。恋愛って難しいね」
「何? 急に? そうよ。だから最初から言っているじゃない」
「うん。人って、好きな人を追いかけるのと、好きだと言ってくれる人と付き合うの、どっちが正解なのかな?」
僕はヒメさんから告白された話をツバキ姉さんに相談した。
相沢さんが好きな気持ちは変わっていない。
だけど、自分が相原さんの恋愛物語に登場していない事実を知り、ヒメさんは僕を好きだと言ってくれる。
ヒメさんと付き合った方が僕は幸せなんじゃないだろうか? 美人で優しくて、僕を好き。頭も良くて、非の打ち所がない。
ヒメさんがダメな理由が浮かんでこない。
「ねぇ、レン」
「何?」
「このバカチンが!!!!」
僕はツバキ姉さんにぶん殴られた。
「えええええ!!!!!! なっ、なんで殴るの?!」
「いい? 男なら好いてくれた女をキープできるぐらい、いい男になりなさい。あなたがいい男になれば、あなたを好きだという女性は増えていくわ」
キープ?
いきなり凄い発言をされている! 女性をキープ? それって失礼じゃないの? 僕は真剣に相手のことを考えてるんだよ。
「あのね、レン」
「うん」
「男は度胸、女は愛嬌なんて言っていた時代は終わったのよ。今は男は愛嬌、女は度胸の世の中なの。男は己を磨き、人の気持ちを理解して、その上でお金を稼ぐ必要があるの」
なんだかすごく大変だ! 昔のお父さんはお金を稼いでくるだけでいいって聞いたことがあるよ。
「……女性の度胸は?」
「女はね。男が愛嬌を磨かなければならないと知る前から、恋愛の戦場を学び終えているの。世の中を見てみなさい。化粧品やファッション雑誌は女性の物が圧倒的に多いでしょ?」
「うん」
「女は男と会う二時間前から男を落とすための用意をしているの。その上で他のことも全てを行なっている。家族がいるのであれば家事をして、仕事や学校があれば男性と変わらない仕事や勉強をしている。男が愛嬌を学び出すずっと前。紀元前2800頃から女性は鏡を見て美を追求していたのよ」
歴史が違いすぎる!
「あなたが悩んだ悩みは、すでに多くの女性が悩んできた永遠のテーマなのよ。その中で自分が好きで、甲斐性もあって、好いてくれる。完璧な男性を女性は求めてきたの。その相手が見つかる人が少数だなの。そして、自分が好いた人を育てるのも恋愛の醍醐味なのよ」
ツバキ姉さん。
凄くありがたい話をしてくれるのはわかるんですが、どうして殴ったの?
「僕の悩みは?」
「あなたが黒鬼姫さんを好きになったと思うまではキープしなさい。そして、自分を好いてくれる子がいるという余裕と自信を持ちなさい。そうすれば女はいい男を狩り合う戦場に自ら飛び込んでくるのよ」
物凄くクズ男に聞こえるのは僕だけなのかな? 女性に取りあわれる男性になる? そうすればいいってこと?
「今、あなたは納得できない顔をしたわね。だけど、凄く贅沢な悩みなのを自覚しなさい」
「贅沢な悩み?」
「そうよ。世の中には恋愛しても敗北する人が99%なのよ」
「えっ?!」
「初恋が実らないと聞いたことはないかしら?」
「あるよ」
僕だって本をたくさん読むからね。
恋愛小説には、初恋に敗れる描写がよく使われる。
メインヒロインの裏で、彼を取られて泣くライバルヒロイン。
主人公とヒロインを祝福して身を引く親友キャラ。
僕は彼らの心情を見て悲しくあったり、かっこいいと思うことがある。
「恋愛は結ばれればハッピーエンドだけど、イケメン男子や美少女に恋をする思春期に全ての人が成功することはないの。クラスでイケメンや美少女と付き合えるのは一人だけ。しかも彼らが結ばれてしまえば他の全ては敗北者なの」
恋愛の敗北者。
今の僕は相原さんを好きでいる敗北者。
「だからこそ、美女から好かれるあなたは贅沢なのよ。自分の価値を上げなさい!」
「自分の価値を上げる?」
「そうよ。ヒメさんはキープだけど、ずっと好きでいられる素晴らしい男性でいなさい。最低なのは、好きなら俺のいうことを聞けというクズ化よ」
「クズ化!!!」
「そうよ。好かれていることにふんぞり返って、好きなら何をしてもいいと誤解してしまうこと。そんな男をずっと好きでいる女性は、好きから冷めた時、あなたは失った後悔をすることになる」
ヒメさんに好かれている。
だけど、増長することなく、ヒメさんがもっと好きになってくれる努力をする。
「そうすれば、よりあなたの価値は上がって勝手に女性が寄ってくるわ。だから、好きだと言った女を追ってはダメ。自分を磨いて追ってこいぐらいに思っていなさい」
むっ難しいよ。
ツバキ姉さん。
「いい男になりなさい。レン」
ツバキ姉さんは僕を殴った頬を優しく撫でてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます