第29話 美人とデート
ボクは相原さんへの気持ちを抱えながらも、ツバキ姉さんに言われた言葉に従って、メッセージを待つことにした。
もしも、相原さんが彼と別れるにしても、僕には伝えてくれると思う。
別れないなら、また相談に乗ればいい。
今日は気持ち切り替えて、黒鬼姫さんとの約束に全力を注ぐことにした。
相原さんとの関係は僕の独りよがり。
その事実を理解して、僕は自分を始めなければいけない。
「ふぅ、結構辛いけど。相沢さんの問題に僕が立ち入ることじゃないんだ。彼女から話してくれたら、その時は」
朝早くに目が覚めた僕はいつもしている洗顔をいつも以上に丁寧に行なった。
髪の毛のセットも時間をかけた。
鏡の中には時間をかけただけ、思った通りにキマッている髪型が出来上がった。
「ふぅ、あとは服だね」
雑誌やネットでも男性の春ファッションを調べて、色合いを注意した。
チナちゃんとのデートは運動後の食事だったから、チナちゃんの運動衣装に合わせるコーディネートだった。
だけど、今回のヒメさんはどんな服装で来るのかわからない。どんな服装で着ても、ヒメさんは着こなしてくると予想はできる。
だから、隣に並んでも恥ずかしくない服装を選んだ。
「ふぅ、ヒメさんのレベルに合わせるのは無理だね。自分にできる最高点で頑張るしかないよね」
これ以上を求められても無理がある。
そして、待ち合わせ場所に着くと一際目を引く女性が立っていた。
芸能人やモデルさんが、お忍びで出かけているような雰囲気を放っている。
黒鬼姫さんの周りだけ空気が違う感じがした。
話しかけるのを躊躇っていると、別の男性が声をかけた。僕は助けなけばと思っている間に、ヒメさんがあっさりと撃退してしまう。
困っていたら助けようと思ったけど、僕の助けはいらないみたい。
「ごめんね。お待たせ」
気軽に声をかけたけど、口の中はパサパサで乾燥している。ヒメさんといると緊張する。
すごく綺麗だから、僕なんかじゃ釣り合わないんじゃないかな? だから、褒めることは忘れない。話題が尽きるのが辛い。
「それでどこに行くの?」
「原宿よ」
原宿はヒメさんイメージにはなかった。
どちらかと言えば清楚な印象を受けるヒメさんは、表参道や銀座を歩いている雰囲気をしている。
「行ったことがないの」
理由を聞いて、僕は少しだけ親近感を持つことが出来た。
可愛い。
理由は友達がいないからということに少しだけ悲しい。初めて行く場所に言ってみたいと思うのは、可愛いと思う。
見た目や雰囲気とのギャップで、僕は楽しくなった。
だから、手をとって歩き出す。
今日は僕がエスコートしよう。
彼女の雰囲気に合うかどうかは関係ない。
楽しませることが僕の仕事なんだ。
僕らは表参道から原宿に向かって歩き、竹下通りでクレープを食べてカワウソ喫茶に入った。
カワウソが可愛すぎて、黒鬼姫さんに群がるカワウソたちに戸惑っている顔が、なんとも言えないほど面白かった。
「どっ、どうしたら?」
「かまってあげたらいいよ。ほら」
僕は彼女の横に座って一緒にカワウソの相手をする。
竹下通りを抜けるとオシャレなお店が並んでいて、明治神宮へ向かって歩く。
広い広い明治神宮の中は、観光客の人がたくさんいて僕らもそこに混じって本宮に向かって歩いていく。
「ごめんなさい」
「えっ? どうしたの?」
「結局、レン君に全て任せてしまって、私はずっと手を引かれているだけだわ」
「そんなことないよ。ヒメさんの困った顔も、笑った顔も、戸惑った顔もたくさん見れたからね。僕として結構面白かったよ」
「む〜、全然可愛くないわ」
「はは、そうかな? 僕としては十分に可愛かったし、笑顔でいるだけよりも、ヒメさんの色々な表情が見れて楽しいよ」
僕が手を引いて歩いていると、ヒメさんにグッと手を引かれる。
「あの」
「うん?」
「ちょっとだけ休憩しない?」
人通りから少し離れた藪の中。
ベンチが置かれているから、ちゃんとした休憩スペースが隠れている。
「よく見つけたね」
「ええ、隠れていたから、ちょうどいいと思って」
「丁度いい?」
林の中に作られた休憩スペースは、人通りから外れて木々の間から風が抜ける音がしました。
雰囲気が良い場所だ。春だから風も気持ちいい。
「確かに丁度いいね。雰囲気もあって気持ちいいや」
「ええ。ねぇ、レン君」
「何かな?」
僕がヒメさんの顔を見るために顔を向けると、キスをされる。それはツバキ姉さんのように導くキスではなくて、歯がぶつかってしまうような不器用なキス。
「あなたが好きよ。誰よりも好き。あなたに好きな人がいるのも知ってる。だから、今は勝手に好きでいることを許してほしい」
早口で話すヒメさんは好きだと言ってくれる。
だけど、僕の心には相沢さんがいて、気持ちを受け止めることは出来ない。
「ボクは」
「わかってる。レン君には好きな人がいる。だから、今は好きでいることを知ってもらうだけでいい。レン君は私が嫌いかしら?」
彼女は勝手に僕を好き。
それを今の僕に否定することはできない。
僕だって、相原さんを勝手に好きだから。
「ヒメさんを嫌いじゃないよ。だけど、やっぱり好きな人がいる」
「ええ、今はそれでいいわ」
ヒメさんからの告白は素直に嬉しい。
でも、断ってしまうと気まずい。
「ねぇ、レン君」
「何かな?」
「難しく考えないでほしいの。今の私は付き合いたいとは言っていないわ」
「えっ?」
「本当に好きだということを知って欲しいだけなの。あなたを好きな人がいる。それが事実だとわかって欲しいの」
「うん。ありがとう」
「ただね」
ヒメさんは、僕の耳元で囁くように小さな声で。
「もしも、レンくんが私のことを欲しいと思うなら、私には受け入れる準備ができていることをしっていて欲しいの」
そう言って頬にもう一度キスをしてくれました。\
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