第25話 女子サッカー観戦

 僕は初めて女子サッカーというものを見る。

 運動公園と呼ばれるサッカー場では大勢の女子高校生たちが、試合のために集まって練習をしてアップをしていた。 


 広い運動場で我が校のチームを探して歩き回る。

 なんとか高校の名前を見つけて、試合を見ることができた。前半は人が多くて前にいくことができなかったけど、ハーフタイムの休憩で人が空いた。

 僕は場所を取られないように、前の方に行って片手に持った缶コーヒーを飲みながら後半が開始されるのをまった。


 午前中はあまり天気が良くなかったけど、午後からは天気が良くなっていくと言っていた。

 だから、少しでもチナちゃんが元気になってくれたら嬉しいな。


 今日の彼女は頑張っているのに上手くいかなくて、もどかしい場面が多かった


 だから応援したい。


 僕は後半が開始されると、僕の姿がチナちゃんに気づいてもらえるように大きく手を振った。


「ちょっと見てくれた? 多分、見てくれたよね」


 開始早々、チナちゃんはボールを持って走り出した。

 

「ガンバレ!」


 僕はいつの間にか声を出して応援していた。

 スポーツ観戦なんて、それほどしたことがないけど、知っている人ができているだけで、活躍しているだけで胸が熱くなる。


 チナちゃんは、自分でゴールを決めて、他にもパスやドリブルで、どんどん相手を置き去りにしていく。


 気づけば、1−1だった戦いは、5−1で決着がついていた。


 試合後に女子たちが頭を観客に頭を下げている姿を見ることができた。


 チナちゃんも小さな体をめいいっぱい使って、お辞儀をしていた。


 ふふ、やっぱり可愛い。


 このあとは片付けやミーティングが行われて一時間ほどで出てくると言っていたから、僕はせっかくの運動公園に少しだけスケボーの練習を開始する。

 スケボーをやるためのスペースもあるけど、人がいっぱいだったから、誰もいない石の階段でトリックを決めていく。


「ふぅ、最近はどこでもジャンプができるようになってきたな」


 体が疲れたら、本を読もうと思ってきたけど一時間はあっという間に過ぎてしまう。この場所を見つけたときにチナちゃんに場所をメッセージしていたから、チナちゃんがやってきた。


「やぁ、チナちゃん。お疲れ様」

「お疲れ様です。レン先輩。む〜スケボーズルイです」

「えっ? ズルい?」

「はい! 私は今日はサッカーの荷物がたくさんあるので、スケボーまで持って来れません」


 言われてチナちゃんの後ろを見れば、チナちゃんの背中に大きなリュックがあり、10キロほどの重さがあるそうだ。


「はは、あれだけ活躍してすごかったのに、まだ動くの?」

「活躍見てくれましたか?」

「うん。後半のチナちゃんはすごかったね。前半は他の人と連携が難しいのかなって思ってたけど」

「う〜ん、私も全てはわからないんですが、今日は先輩たちに甘えました」

「先輩たちに甘えた?」

「はい。先輩が好きに動きなさいって、言ってくれて」


 もしかしたらチナちゃんは一人だけハイスペックなのかもしれない。

 他が合わすことが大変な選手なのかな?


「そうか、とにかく勝利おめでとう」

「ありがとうございます!」

「ふふ、早速だけど、ランチを奢らせてくれるかな?」

「えっ?」

「ただ、一緒に過ごすだけじゃお祝いじゃないからね。テストの点が良くて、サッカーの試合にも勝利した記念にご飯に行こう」

「あっ、ありがとうございます」


 戸惑ってはいるけど、受け入れてくれたチナちゃんは連れて、僕はハンバーグが有名なチェーン店に入っていく。

 高校生男子の金銭事情にも優しいお店で、お肉がたくさん食べられるところとなると、焼肉食べ放題か、ハンバーグのお店になっちゃうよね。


「ここのハンバーグ大好きです」

「意外にね。カレーも美味しいんだよ」

「へぇーそうなんですか?」

「うん。サイドメニューも充実しているしね。ご飯を食べた後hパフェでも食べよう」


 結構大きめのパフェも出してくれるので、僕は苦手だけどチナちゃんが食べている姿を見るのは可愛い。


「なっ、なんだか悪いです。それに私だけこんなにいっぱい食べて」

「そんなことないよ。僕はサイコロステーキもついてるからね。あっ、一つ食べる? あ〜ん」

「ふぇ! じっ自分で」

「いいから、どうぞ」


 チナちゃんが慌ててるから、逆に面白くてからかいたくなる。


「む〜はむ」


 僕が食べていたフォークをチナちゃんの口に収まる。

 美少女が食べる姿って、すごく可愛い。

 それになんだか小動物みたいで、もっと食べさせたくなる。


 だけど、流石に怒られるよね。


「せっ、先輩もどうぞ」


 そう言って、自分のチーズバーグを僕へ切り分けて差し出してくれる。

 

 あ〜これは断りづらい。

 

 だけど、実際にやられるとこんなにも恥ずいんだ。


「うっうん」


 僕は恐る恐る。チナちゃんのフォークからハンバーグだけを齧って食べた。


「あっ! ズルい」

「ふふ、ごめんね。恥ずかしいや」

「でしょ」

「はは」

「ふふ」


 僕らは二人で料理の話をしながら笑いながらランチを共にした。

 なるべくチナちゃんの話を聞くようにして、彼女がパフェを食べている間もコーヒーを飲んで見守る。


「先輩?」

「うん? どうかした?」

「先輩は、私の話を聞いてて楽しいですか?」

「うん。先輩の優しい話とか、怖い人、面白い人、優しい人。今日、声をかけてくれた責任感のある人も、チナちゃんがその人たちをどう思ってるのかわかって楽しいよ」

「そっ、そうですか」


 ちゃんと聞いていたことが嬉しかったのか、チナちゃんは顔を赤くして黙々とパフェを食べ出した。


 その後は、チナちゃんの荷物もあるので、ご自宅まで送って解散した。

 気づけば日が暮れかけていたので、時間が経つって早いなぁ。


「レン先輩!」

「うん?」

「また、応援来てくれますか?」

「もちろん、今日見ていてすごく面白いって思っちゃった」

「ありがとうございます! また」

「うん。またね」


 チナちゃんの家の近くまで送り届けて、僕らは別れた。


 彼女が家に入る姿を見送って背中を向ける。


 僕が背中を向けるとすぐにメッセージが送られてきた。


『今日はありがとうございました! レン先輩が応援してくれたから調子が元に戻って上手くいきました! 奢ってくれて、送ってくれて、いっぱいありがとうございます』



 可愛い文章に僕の口元も綻んでしまう。


 だから、チナちゃんの家に向かってお辞儀をしてから僕は家に帰った。

 

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