第24話 サッカー少女は応援で元気を得る

《side小金井千奈》


 私は自分でも驚くぐらい勉強を頑張った。

 別に勉強が嫌いというわけじゃないけど、サッカーに夢中でやるようになってから、どうしても勉強に時間を取ることが難しくなって。

 やらなくなると勉強がわからなくなってしまった。

 そうしたら、もういいかなって思えてしまう。


 家にはパグを買っていて、パグ蔵と名前をつている。


「パク蔵。私ね。先輩に褒めてもらいたいんだ」


 鼻ぺちゃなパク蔵は「ふがふが」と鼻息を荒くして、私の応援をしてくれる。

 そこが可愛くて、休みの日は服を買いに行く以外はパク蔵の散歩に行ったり、パク蔵を洗ってあげたりとお世話をして過ごしていた。


「がんばるね」


 でも、今回はパク蔵には我慢してもらってテスト勉強を頑張った。

 得意不得意はあるけど、先輩が教えてくれた問題は必ず解けるようにしたい。


 五教科でも、先輩がしてくれたって思うだけで覚えられるような気がする。

 レン先輩が言った言葉に、私スゴく納得ができた。

 サッカーも練習が大事、勉強も繰り返す練習が大事。


 覚えたと思っても、もう一度振り返って同じ場所を見れば言葉を忘れていたり、前後の話を忘れている。


「確かに何度もやると忘れている箇所が減ってくる」


 先輩は正しい。久しぶりに勉強が楽しいと思えた。

 

 テスト本番。


 自分でもビックリするぐらい問題が解けた。

 レン先輩が教えてくたところがほとんどだ。

 そして、私やレン先輩が知らなかった範囲はどうすることもできない。

 やっぱりしてないところはわからない。


「ふぅ、スゴいかも結構解けた」

「チナ、どうだった?」

「トモコちゃん。私結構できたかも」

「マジ? む〜自分だけズルいぞ」

「ふふふ、自分史上一番いいかも」

「おっ言うね〜何か秘訣でもあるの?」

「内緒」

「へっ?」

「内緒だよ。教えてあげない」


 私は嬉しくて全ての答案が返ってきた時には平均点が80点を超えていた。


「本当に凄いじゃん」

「でしょ。結構できたと思うんだ」


 スポーツ推薦組は赤点を取らなければいいので、30点が取れれば怒られることはない。だけど、80点も取れてスポーツ推薦組の中では上位に入れた。


「む〜ますます、いい点とれる秘訣が知りたい。本当にどうやったのよ」

「コツコツやるんだよ」

「はっ?」

「近道なんてない。コツコツと頑張るだけ」


 レン先輩が教えてくれた。

 地道に一歩ずつコツコツやった方が成功する。


「ハァ〜そりゃそうか」


 トモコちゃんが盛大にため息を吐いた。

 私は、校門で先輩を待つことにした。

 報告して、サッカーの試合を見にきてもらうんだ。


「あっ! 先輩! 見てください!」


 先輩の姿を見つけて呼び止める。

 まだ他の生徒もいるから恥ずかしいけど、今は見てもらって約束を取り付けることが大事。


「えっ? 80点、凄い!」

「へへ、どうせなら先輩にいい点をとって褒めて欲しいって思ったんです」

「本当に凄いね。ちゃんと勉強も頑張ってるんだ」


 私が答案を見せると先輩が褒めてくれて、頭を撫でてくれる。

 ハゥ、嬉しいけど。

 他の人がいて恥ずかしい。


「あっ! こっこれで、約束守ってくれますよね?」


 私が誤魔化そうとしても先輩は頭を撫で続けて、顔がだんだん熱くなってくる。


「うん。週末は必ず応援に行くよ」

「絶対ですよ。私、レン先輩が来るから絶対頑張りますから」

「ああ、約束だからね。絶対に行くよ」


 たくさん注目されているのがわかる。

 それに優しくてカッコいい先輩だから、女子から羨ましい目で見られているのも伝わってくる。


「レン先輩って無意識タラシだと思います」

「えっ?」

「失礼します」


 その場にいられなくて、走って逃げ出した。

 優しくてかっこいいなんて反則だよ。


 約束ができた私は浮かれていた。


 週末になって試合表が発表された。


「ウイング小金井」

「はい!」


 レン先輩に会ってから、私はサッカーの調子がいい。

 だから、かっこいい姿を見せられると思っていた。


 そのはずなのに、高校に入って初めての試合。

 私は上手く体を使うことができなかった。


 ボールを持てば動ける。

 だけど、他の仲間との連携がうまくいかない。

 私がパスをしても、誰もいない。

 パスをしてもらおうと思っても、パスをもらえない。


 まるで一人でサッカーをしているような、空回りしている自分がいる。

 練習の時は上手くできていた。

 

 前半戦が終わって同点のままだけど、私の中で噛み合わない歯車がもどかしい。


「小金井」

「はい!」


 先輩が私の名を呼んだ。


「落ち着いて。大丈夫だから。私たちを信じて」


 何を言われているのかわからない。


「思いっきりやればいいから」

「はい!」


 わからないけど、私は私で全力を尽くすんだ。


 フィールドに出ていくと私の見える位置にレン先輩の姿が見えた。

 

 あっ! イケる!


 体と心がマッチした。


「ボールください!」


 さっきまで来なかったボールが私の元に来る。


 今ならなんでもできる。


「イケ! 小金井!」

「はい!」

「ガンバレ!」


 レン先輩の声が私の背中を押してくれる。

 ドリブルで相手のフィールドを駆け上がる。

 今まで感じていた気持ち悪さが取れて、歯車が噛み合っていく。


「気持ちいい!」


 あとはゴールキーパーだけ。


「ゴール!!!!」


 ピーーー!!!!


 ゴールを知らせるホイッスルが鳴り響く。


 結局、私たちは5−1で勝利した。

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