第20話 可愛い後輩はアピールしたい

《side小金井千奈》


 高校生活が始まると、部活の朝練、昼練、夜練とハードな練習が続いている。

 朝練が始まると、どうしてもスケボーの練習ができなくて、レン先輩に会えていない。

 たまにメッセージを送っているけど、レン先輩から見て、私は可愛い後輩でしかない。もしくは妹的なボジションだと思う。


 だけど、それじゃダメ。


 先輩は好きな人がいて、私を女とは見てくれない。

 だから、積極的にアピールをしないとレン先輩に気づかれない。


 胸は……、小柄な体が恨めしい。

 ずっとサッカーをやってきたから筋肉はあるからだ。

 ムゥ〜それほど大きくない。


「チナ〜何を膨れてるの〜」

「トモコちゃん。いいなぁ〜この胸が恨めしい」


 メガネに巨乳! 中学時代から仲がいい藤原朋子ちゃんは、メガネ美人で高校一年生にしてFカップの巨乳さんだ。

 ダンス部に入っていて、腰も引き締まっていてスタイルもいい。


「なっ! 何よ急に」


 私は目の前に差し出された巨大な胸を揉んでやる。

 これだけの武器を持っていれば、先輩を誘惑できたのに。


「トモコちゃん、もぎとって私に頂戴!」

「バカなこと言ってんじゃないの。あんたはサッカーするのに邪魔でしょうが」

「う〜、トモコちゃんだって、ダンスするのに邪魔なくせに」

「あれば迫力になるのよ。男の目を釘付けにできるでしょ」

「うう、ズルい」

「どこに目をつけているのよ」


 トモコちゃんと楽しく会話をしながらも、私の視線は外へと向けられる。

 三年生が体育をして、先輩が走っている姿が見える。


「ハァー、やっぱりいいわ」

「えっ? ダレ? ああ、橘先輩?」

「ダレ?」

「いや、むしろ、橘先輩知らんのかい!」


 トモコちゃんが説明してくれる三年生の先輩は、レン先輩と仲良く走っている人だった。

 確かに見た目はかっこいい。だけど、レン先輩の方が優しそうんで私は好き。


「まぁ、確かに橘先輩の横で走っている先輩もいいとは思うよ。子犬系?可愛いよね」

「ダメ?」

「えっ?」

「先輩をそんな目で見ちゃダメ」

「おいおい、あんたのものじゃないでしょうが」

「む〜、そうだけど」

「はいはい。応援してあげるから、むくれないの」

「本当?」

「まぁ私はワイルド系が好きだから、タイプじゃないしね」

「ならいい」


 私は走っているレン先輩を眺めて幸せな気持ちになる。

 最近はゆっくり先輩と話せてない。

 今日は昼練がないから、昼休みに先輩を探してに行ってみよう。


 昼休みに先輩がご飯をどこで食べているのかなんて知らない。

 もしかしたら教室で食べて、教室から出ないかもしれない。

 でも、偶然でも先輩に出会えるかもって思うことが楽しいから、探しにいくのはアリだと思う。


 今日は、人気が少ない場所を重点的に探してみようと思って別館や校庭を探してみたけど、やっぱり出会えない。

 王道の食堂や教室を避けたのは、先輩がそう言うところを好みそうにないって思ったから。


「レン先輩!」


 やっぱり私と先輩は、縁があるんだ。

 体育館の裏にある花壇があるベンチに先輩が座っていた。


「チナちゃん? あれ? こんなところでどうしたの?」

「へへへ、先輩を探してました」

「えっ? 僕を? 何か用事?」

「一緒にお昼を食べようと思ったんです」


 私は、言い訳をするために用意しておいた菓子パンを見せる。

 お母さんに作ってもらったお弁当は昼休憩よりも早く食べてしまう。

 もう一つお弁当を持ってきているけど、それは放課後の練習前に食べないとすぐにお腹が空いちゃうので、この時間は菓子パンを二個食べて誤魔化すんだ。


「そっか、僕も今から食べようと思っていたんだ」


 先輩の手にはコンビニで売っている生コッペパンの焼きそばパンと、コーヒー牛乳が置かれている。


「なら、一緒に食べましょう」


 私は隣に座って袋を開ける。

 実は、お腹がペコペコですぐにでも食べたかった。


「ふふ、そんなに慌てたら喉が詰まるよ」


 先輩は私を見て笑っている。

 ちょっと恥ずかしい。


「だっ、大丈夫です! いつも食べてて大好きなんで」

「じゃ、口にクリームが付いているのもわざとかな?」


 先輩が私の口元についたクリームを拭いてくれる。

 先輩の指が私の口に触れて恥ずかしい。

 顔が熱くなっていくのを感じる。


「あっ、ごめんね。女の子の顔に触るのはダメだよね」

「いえ、大丈夫です! でも、先輩ってなんだか手慣れているんですね」

「えっ? そうかな?」

「はい。なんだか落ちついているっていうか、先輩は誰かと付き合ったことがあるんですか?」

「ううん。僕は誰とも付き合ったことないよ。前にチナちゃんにも言ったけど、好きな人には彼氏がいるからね」


 新学期に入る前に話をしていた先輩よりも、なぜか大人っぽく見える先輩にはきっと何かあったんだ。


「レン先輩」

「うん?」

「レン先輩は、キスをしたことがありますか?」

「ふぇ!? いきなりどうしたの?」

「なんだか気になったんです」


 これは怪しい!!!


「経験はあるよ。従姉妹だけど」

「従姉妹?」

「うん。二つ上に従姉妹がいて、その人とね」


 なんだろう? 子供頃の遊びなんだろうけど、胸騒ぎがする。


「私としたいって思いますか?」

「えっ! ええええ! いや、僕は好きな人がいるから」

「そっ、そうですよね。ふふ、冗談です」

「そうだよね。もう、チナちゃんは小悪魔だな。美少女なんだから、そんなこといったら勘違いする人もいると思うよ」

「ふふ」


 先輩が去っていく後ろ姿を見て、私は思う。


「勘違いじゃなくて、本気でして欲しいのに。でも、先輩が美少女って言ってくれた」


 今日はこれで満足かな?

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