第19話 相談の答えは?

 ぼっ、僕はなんて答えれば、もちろん僕が彼氏なら相原さんに拒否されるのは悲しい。

 だけど、彼女が拒否していることを無理やりするのも嫌だ。

 いくら付き合っていても彼女が嫌がることをしたくない。


「ぼっ、僕ならだけど」

「うん。男の子はどう思うのかな?」

「色々と焦っちゃうんだと思うんだけど、でも彼女が嫌がることは無理にはしたくないって思うよ。だからさ、相原さん。きっと彼氏のタイミングと相原さんのタイミングが合う時が来るんじゃないかな?」

「そうなのかな? まだ、やっぱり怖いって思っちゃうんだよね」

「うん。だから、今はそのタイミングじゃないんだよ」

「そっか、ありがとう。彼氏ともう少し話し合ってみるね」


 相原さんが図書室を出て、僕は膝を折った。


「どっちだ? 今のは正解なのか? それとも失敗? 僕は彼女の相談に乗れたけど、もっと別れさせるように言えばよかったんじゃないのか?」


 自分の中で全く答えが出ないから、僕は家に帰って……。


「ツバキ姉さん!!!」

「どうしたのよ。レン」


 困った時のツバキ姉さん。

 僕は自分磨きを頑張ったけど、女性の気持ちは全くわからないよ。


「なるほどね。最初のキスは緊張するわよね」

「そっ、そうなんだよ。やっぱり初キッスって夢があるっていうか、フルーツの味がするって本当かな?」

「……レン」

「なっ、何? んんん!!!!」


 僕の目の前にツバキ姉さんの顔が!!!!


「えっ?」

「どう?」

「えっ?」

「だから、どう?」

「えっ? キス? えっ? キス?」

「そうよ。 従姉弟は結婚できるから、今のは初キッスでカウントできるわよ」


 僕は頭が真っ白になっていく。

 今起きた現象が信じられない。


 僕は、相原さんのキスの話をツバキ姉さんに相談して、そして今僕はツバキ姉さんのキスを体験して……柔らかかった。


 つい、ツバキ姉さんの唇に視線が言ってしまう。


「ふふ、最近流行りのぷるん唇だよ」


 確かにいつもよりもふっくらとしたツバキ姉さんの唇。潤っているようなテカリがある唇。


 あの唇とキスをした。


 僕は一気に体が熱くなるのを感じる。


「唐辛子成分を唇に塗って、ふっくらとした口を演出するんだって。ちょうど試したいって思ってたんだ」


 唐辛子? でも、辛くはない。

 いや、そんなことよりも。


「姉さん! どうしてキスを! 僕の初めて!!!」

「あのね。女の子は、確かに初めては大切にした方がいいことなの、だけど、男は逆」

「えっ? 逆?」

「そうよ。全く経験がなくて情けない男と、経験豊富で頼り甲斐のある男なら、頼り甲斐になる男の方がいいじゃない。だから、相原さんも大学生の彼氏と付き合ったんでしょ」

「あっ」


 僕は完膚なきまでに言い返されて、本日二度目の膝を折った。


「レン、あなたは甘いわよ」

「甘い?」

「髪型を整えて、美容を頑張って、運動をして、勉強もいい成績を取って、自分ができる男磨きを頑張ったつもりかもしれないけど。男の価値は自信よ」

「自信? そっ、それなら僕が今までしてきたことは?」

「バカね。最初に説明してあげたじゃない。あなたが積み上げてきたことが全て自信になるの。人はね、練習したことしかできないの」


 ツバキ姉さんが優しく僕の頭を撫でてくれる。


「男は経験を積むことで自信を持つことができる生き物なのよ。まるでレベルアップしているみたいだと思わない?」


 頭を撫でて僕の前でニッコリと笑うツバキ姉さんの瞳は怪しく光っているように見えた。

 

 次の瞬間には、ツバキ姉さんの顔が近づいてきて二度目のキスをした。

 

 今度はゆっくりと互いの唇を味わうように。

 僕は二度目であり、ツバキ姉さんがするぞと目で合図をしてくれたから、覚悟を決めた。


「どうかしら?」


 二度目だからだろうか? 僕は冷静に姉さんの唇を味わうことができた。


 味は……わからない。


 ただ、柔らかくて胸がドキドキした。


 これがキス。


 相原さんと初めてを考えていた。

 それはもっと恥ずかしくて、キラキラとしたものだって。だけど、見慣れたツバキ姉さんとキスをしただけで、顔が熱くなって胸が痛いくらいにドキドキする。


「うん。凄く胸がドキドキして、痛いくらい。だけど、一度目よりも落ち着いていられたと思う」

「そうよ。経験をすることで、人は怖くないことを知るの。初めて経験することってどんなものなのかわからないでしょ。だから宝物のように大切にもできるけど、臆病になってできないと思い込んでしまう。だけど、一度してしまえば二度目はハードルが低くなって、怖さも無くなっていくのよ」


 ボクはキスを確かに美化していた。

 そして、一度目の不意打ちのキスは衝撃的で一生忘れられないと思う。


 相原さんも彼氏とキスを経験するのかな?


 少しだけ、心がモヤモヤするけど。

 

 自分がキスを経験した後だと、付き合っているなら仕方ないとどこかで思っている自分がいた。


「レン、もっと色々な経験をして、いい男になりなさい。自分磨きは恋愛においても同じよ。相原さん以外の女性にも目を向けてみなさい」


 そう言ってツバキ姉さんは三度目のキスをしてくれた。

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