第18話 クラスメイトは仲が良い

 黒鬼さんが委員長になった次の日から、教室の雰囲気が良くなった。

 全員が黒鬼さんに挨拶をして、黒鬼さんと仲が良い友達として、僕にもクラスメイトたちが挨拶をしてくれる。


「飛田! おはよう!」

「飛田君! おはよう!」


 女子も、男子も、僕を認識して挨拶をしてくるのだ。

 そして、気づいてしまった。

 僕は今、陽キャラ集団の中心人物だということに。


「橘君って、かっこいいよね!」

「黒鬼さんって美人すぎ」

「白堂さんも明るくて可愛いよな」


 そうなのだ。

 僕の周りにいる三人がハイスペックすぎる。

 一クラスは、成績が良い子が集まっているので勉強の話をしても詰まることがなく。僕が読んでいる本も半分以上の人が知っているとか、読んだことがあるという。


「飛田って、本に詳しんだな」

「飛田君って、頭がいいね。今度勉強を教えてよ」


 高校三年生になるまで、相原さんやシュウト以外とは、あまり話が合わなくて、挨拶はするけど、相手の話に合わせて笑顔を浮かべていた。

 

 今までは、テレビドラマやアイドルの話。

 スポーツの世界大会。

 最近流行っているダンス。


 僕の知らない世界の知らない話。

 そんな風に思っていた。

 

 だけど、このクラスの人たちは、そういう知識を持っている人もいるけど、僕が好きな本の話や勉強など。僕に合わせて話をしてくれる。


「レン君」

「あっ、黒鬼さん」

「もう、私のことはヒメと呼んでと言っているじゃない」

「あっ、でも女性を名前で呼ぶのは貴重して」

「コイさんのことは呼んでいるじゃない」


 シュウトの彼女であるコイちゃんがシュウトを迎えにきた時に話していると、黒鬼さんから自分も名前で呼んでほしいと提案を受けた。


「そっそれは、うん。まぁ、黒鬼さんは緊張するというか」

「私がお願いしているのよ」


 僕が慌てていると、黒鬼さんが距離を狭めてくる。


「わっ、わかったよ。ヒメさん」

「ふふ、まだそれでいいわ。ねぇ、レン君は本を読むのが好きなのよね?」

「うん。そうだよ」

「私にレンくんのおすすめの本を教えてくれないかしら?」

「えっ? ヒメさんも本を読むの?」

「ええ、私も結構本を読むのよ」

「それは嬉しいな。どんなジャンルが好きかな?」


 ヒメさんは何かあるたびに僕に話かけてくれる。

 同じクラスになって、明るくなったヒメさんに僕はただただ圧倒されるばかりだけど、彼女を中心にクラスメイトたちの仲もよくなっているので、僕はこのクラスになれて嬉しい。


「なんでもいいわ。レン君のオススメが読みたいの」

「う〜ん、なんでもいいって言われると悩むなぁ〜、それじゃいくつか持ってくれるから選んでくれる?」

「ふふ、全部借りていくわ」

「えっ? そんなに読めるの?」

「もちろんよ。絶対に全部読むわ」


 ヒメさんがどれだけ読めるのかわからないから、まずは二冊からにしよう。

 負担をかけたくないからね。

 

「それじゃこれとこれでどうかな?」


 僕は図書館に言って、誰が読んでも面白いと思う本を選んだ。


「本当に、これがあなたのおすすめ?」

「えっ?」

「このタイトルの本は、私でも知っている有名な物だわ」


 言われて二つの作品は、確かに面白いけど、大衆受けのする作品だ。

 それも面白いと本当に思っているけど、僕のおすすめかと聞かれると難しい。


「レンが好きだというなら別にいいんだけど」

「う〜ん、その二冊もおすすめであることは間違いないよ。そうだね。じゃあもう一つだけ僕のおすすめを追加するね」


 きっと僕に気を遣ってくれたんだと思う。

 どんな物でも読むから気にしなくていい。

 ヒメさんはそう言いたいんだと思う。


 だから、少しコアで邪道な話ではあるけど、僕はあまり有名ではない作家さんの本を鞄から取り出して渡すことにした。


「これは、私も知らないわね」

「うん。あまり本屋さんには売ってないかもしれないね。僕もたまたまネット小説で見て知っただけなんだけど、凄く好きなんだ」

「へぇーふふ、やっぱりレンは私の知らない本を知っているのね」


 あっ、そういうことか。

 ヒメさんは僕が渡した本を満足そうに抱きしめてくれる。


 凄く嬉しそうな顔を見せてくれるので、僕もなんだか嬉しくなってしまう。


「ねぇ、レン君」

「うん? どうかしたの?」

「私は、もっとあなたのことを知りたいの。だから教えてくれるかしら?」

「うん。もちろんだよ。友達だからね」

「ええ、友達だから」


 そう言って、ヒメさんが図書室を出ていくのを見送った入れ違いで、相沢さんが図書室に入ってきた。

 一瞬だけ、ヒメさんが冷たい瞳をしたような気がしたけど気のせいかな?


「今のって黒鬼さんだよね?」

「うん。同じクラスなんだ」

「そう……なんだ。 ねぇ、レン。また相談に乗ってくれる?」

「もちろんだよ。どうしたの?」

「実は、彼が最近冷たくて」

「えっ?」

「わ、私がキスするのを拒んでから、なんだか冷たいっていうか少し怖くて」


 キス!!!

 たっ確かに付き合いだして半年ぐらい経つからね!!

 

 キスぐらい……でも、拒んでいるの?


「そっ、それは仕方ないよね」

「やっぱり? 私が悪いのかな? でも、なんだかキスをするのが怖いって思ってしまって、私はどうすればいいんだろう」


 これは、なんて言えばいいんだろう。


 キスした方がいいと言えばいい?

 それとも怖いならしたらダメっていうのが正解?


 恋愛経験がない僕には難題すぎるよ!!!

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