第17話 進級

 春の訪れ共に新学期がやってきた。 

 僕は新たなクラスメイトと顔を合わせることに胸を躍らせ心新たに登校しきていた。

 

「三年生も相原さんと同じクラスになれるかな?」


 不安と期待、願いを込めて、僕はクラス表が張り出された掲示板に視線を向ける。


「僕は……あっ!」


 名前を見つけたのは、三年一組だった。

 三年からは、進学なども考慮して成績が良いものから一クラスへ振り分けされる。

 僕は本が好きで、勉強も嫌いじゃない。

 頑張って勉強した成果が出てくれたようだ。


 あとは………。


「あっ………」


 相原さんは、クラス表が張り出されると、名前の関係で一番上になることが多い。

 だけど、一クラスの一番上にはいなかった。

 代わりに三クラスの一番上に相沢さんの名前を見つける。


 どうやら、年末の実力テストはあまり良くなかったようだ。告白をされて動揺したかな? あれだけ一緒に勉強したのに……残念だ。


「飛田君」

「えっ?」


 僕は名前を呼ばれて振り返ると、黒鬼さんが立っていた。

 いつもはどこか陰のある黒鬼さん。

 だけど、新学期が始まって、初日の黒鬼さんはいつもと違っていた。


「黒鬼さんだよね?」

「ええ、そうよ。ふふ、どうかしたの? 驚いた顔をしてるわよ」


 どこか控えめで、表情も乏しかった黒鬼さんが、僕に微笑みかけている。


「えっと、今日の黒鬼さんは凄く明るくて、綺麗だね」

「そう? ありがとう飛田君。そういえば同じクラスね」

「えっ? そうなの?」


 僕は言われて名前の欄を見れば、確かに黒鬼さんの名前を見つけた。


「本当だね。一年間よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


 僕らは挨拶をして、互いに笑い合う。


 教室までの道のりを二人で向かっている間に、白堂さんの後ろ姿を見つけた。


「白堂さん、おはよう」

「うん? ああ、飛田君か、ひっ!」

「えっ?」


 白堂さんが僕の後ろを見て悲鳴を上げる。


 もしかしたら虫でもいたのかな? 僕が振り返ると笑顔の黒鬼さんがいた。


「うん? 白堂さん。虫でもいたの?」

「あっ? いや、なんでもないんだ。えっと、ヒメもおはよう」

「ええ、ホノカちゃん。おはようございます」


 二人は幼馴染で仲がいいと言っていた。

 女性同士の友情っていいね。


 三人で教室に入ると、僕は見知った人物を見つける。


「シュウト、おはよう」

「おう、レン! おはよう。おいおい、朝から両手に華かよ」

「何言ってるんだよ。二人は同じクラスだから一緒に来ただけだよ」

「はいはい。レンは最近、イメチェンして女子から熱い視線を向けられてるからな」


 シュウトはいつも僕をからかってくる。

 イメチェしても、相原さんに好かれないと意味がないんだよ。

 それなのに相沢さんは別のクラスになっちゃうし、最悪だ。


「すみません。あなたは?」

「黒鬼さんから話しかけられたぞ。レン!」

「はいはい。同じクラスメイトなんだから当たり前でしょ」

「バッカ! 恐れ多い! あっいえ、俺は橘修斗。飛田蓮の親友っす。おはようございます」

「あなたも挨拶をしてくれるのですね」

「えっ?」

「いえ、飛田君のお友達でしたか、どうぞよろしくお願いします」

「はい! よろしくです!」


 嬉しそうに笑うシュウト。

 その態度をコイちゃんに見られたら怒られると思うぞ。まぁ言わないけど。


「飛田君。それでは席につきましょうか」

「えっ、あっうん」


 促されるままに席に座ると、ボクは廊下の一番後ろの一番端。

 そして、その前にシュウトが座る。

 僕の隣には黒鬼さんが座り、白堂さんが黒鬼さんの前に座った。


 ここまで全て黒鬼さんが指示を出して、着席が完了する。


「ふふ、楽しい三年間になりそうですね」

「そうだね。僕も友人が近くにいてくれて嬉しいよ」


 先生がやってくるまで黒鬼さんが何かと話しかけてくれるので、話題は尽きることがなかった。教室内は、黒鬼さんが話をしていること驚き。

 また、話しかけられている僕を見て、さらに驚く人がいる。


 二重で教室内が驚きに包まれていても、黒鬼さんは気にした様子もなく、僕と話を続けている。

 

「よし。お前ら、そろそろホームルームを始めるぞ。今日は席変えと、クラス委員長を決めるからな。まずは委員長からだ。やりたいやつはいるか?」

「はい! 先生。私が委員長をしてもいいでしょうか?」


 そう言って手を上げたのは黒鬼さんだった。


「黒鬼だな。立候補は他にいないようだからな。いいぞ。それじゃパートナーの投票から頼む」

「はい」


 黒鬼さんが、黒板の前に移動して、僕を見た。


「投票ではなく、パートナーは私が決めさせていただきたいと思います。私も気心の知れた人が楽ですから」


 黒鬼さんの発言に手をあげて立候補しようとした男子が手を引っ込める。

 誰もが自分を指名して欲しそうに黒鬼さんを見つめる中で、僕は顔を背けた。

 委員長なんてしてしまったら、放課後の相原さんとの時間が取れなくなる。

 夜に本を読む時間も減ってしまう。

 それでなくても最近は早朝にスケボーの練習をしていて、凄く眠いから放課後の時間は貴重なんだ。


「飛田君。お願いします」

「えっ!」

「友人であるあなたなら、私も気が楽ですので」


 あ〜その言い方はズルイよ。

 断れないじゃないか。


「うん。わかったよ。引き受けます」

「ありがとうございます。それでは残った委員会の役を決めていきますね」


 黒鬼さんの有無を言わせぬやり口に、クラスメイトたちはただただ言われるがままに決まっていく。

 その手腕は見事の一言で、余計な話し合いがなかった分、時間があまったほどだ。


「他のクラスはまだ終わってないみたいだが、本日はこれだけだから帰っていいぞ〜」


 先生の言葉に、僕は小さくガッツポーズもした。

 席替えもすんなりと決まり、僕は最初に座った席のままだった。

 なぜか、シュウトや黒岩さん。白堂さんまで一緒だったのはすごい偶然だと思った。


 


 

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