第16話 キュンデレ
《side小金井千奈》
キュンデレは、恋愛感情が芽生える瞬間や、心をときめかせる瞬間に特化したデレタイプだよ。
普段は普通の態度を取っているのに、特定の刺激や特別な状況になると、心がキュンと高鳴り、恋愛感情を爆発させるんだ。
彼らのデレの特徴は、普段はクールや穏やかな態度を取りながらも、意識的または無意識的に、恋愛対象に対して少しずつアピールをすることです。
例えば、微笑んだり、目を見つめたり、さりげなくタッチをしたりすることで、相手に「キュン」とした感情を抱かせようとしちゃう。
少女漫画を読んでいた私は出てきたキャラ設定の欄を読んでいて、自分はこれだと思った。
先輩をキュンキュンさせたい! そのために微笑んだり、目を見つめたり、さりげなくタッチしてキュンとさせたい。
そのはずなのに、先輩はいくらアプローチしてもダメだった。
その答えを知ることになった。
「へぇ〜小金井さんも好きな人がいるんだね。小金井さんが好きだって言ったら、その人はきっと喜ぶと思うよ」
「え〜本当ですか?」
私は少女漫画の知識で得た《小悪魔チックな笑顔》を浮かべる。
これをされると男性はイチコロになると書いてあった。
「本当本当。僕も小金井さんぐらい人に好かれる人だったらよかったんだけど。教えてくれたから言うけど、僕も好きな人がいるんだ。片思いだけど」
えっ?! 先輩に好きな人がいる? しかも片思い? これはチャンスなのでは? どんな人を先輩は好きになったんだろう?
「へっ、へぇ〜その人はどんな人なんですか?」
「彼女は同じクラスの人なんだけど。ずっと一番仲がいいと思っていたんだけど、昨年彼女から彼氏ができたって言われてね。僕が告白する前だったから告白ができないままなんだ」
「彼氏さんがいるんですね?」
「うん。まぁ好きでいることは自由だからね」
「そうですね。好きになるのは自由です」
ええ、好きになることは自由です。
ねぇ、先輩。
私はどんどん先輩のことを知ってしまいました。
先輩の優しさとひたむきなところを見てきました。
先輩は言いましたよね。
頑張るのを決めるのは、私の自由です。
「先輩」
「うん? 何?」
「先輩を名前で呼んでもいいですか?」
「えっ? うん。全然いいよ」
「ありがとうございます。レン先輩。それと高校でわからないことがあったら聞きたいのでメッセージ教えてください」
「そうだよね。一年生って何かとあるよね。もちろんいいよ」
ふふ、先輩を名前で呼んで、番号もゲットしました。
「それと、私のこと、チナって呼んでくれませんか?」
「えっ? でも」
「先輩の方が年上なんですよ。呼び捨ては普通ですよ」
「そう? そうなのかな? うん。わかったよ。チナ。何か困ったことがあったら、なんでも聞いていいからね」
「はい! 頼りにしてます」
レン先輩には彼女はいない。
これは浮気じゃない。
なら、何をしても問題ありませんよね。
「ねぇ、レン先輩」
「うん? 何?」
「呼んでみただけです」
「はいはい。そろそろ帰ろうか、人通りも増えてきたし」
「そうですね。私もサッカーの朝練行ってきます」
「うん。スケボーした後にすごいね。頑張って」
「はい!」
最近はサッカーも楽しいです。
「チナ! 行ったよ!」
「はい!」
私は小柄体と俊足を生かして、サイドハーフを駆け上がっていきます。
スケボーを始めたことで、息抜きと同時に私は新たな武器を手に入れました。
「くっちょこまかと動くくせに、バランスが崩れない!」
「何っ! あの動き、すごくアクロバティックなんだけど」
抜きさった先輩や同級生から、驚きの声が上がっているが聞こえてきます。
スケボーは自分で走るわけではなく、板の上でバランスをとって、次の行動を予測する瞬間的判断が要求されます
サッカーで相手の動きを予測して、自分の体をどんな風に使えばいいのか、瞬時に判断できる反射神経を養うのにスケボーは最適でした。
よく一流の選手が、その競技以外のプレイをすることでインスピレーションを養えると言いますが、私はスケボーをしたことでスランプを抜けて、サッカーがより楽しくなったんです。
「先輩!」
私が上げたセンタリングに二年の先輩がヘディングを合わせてゴールを決めました。
あの先輩もレン先輩と同い年。
羨ましい。
「やるじゃん! 来た頃のパッとしないって思っていたけど、この半年で一皮剥けたね。これは入学が楽しみで仕方ないよ」
近くにいた先輩に褒められて、私はハニカミます。
「はい! 私、目標ができたので」
「おっ、言うねぇ〜そうだね。全国でも取ってちゃう? はは」
先輩は本気で言ったわけじゃないかもしれない。
だけど、全国を取れるぐらい凄いことをして、レン先輩を驚かせたい。
「はい! 全国取ります!」
「言うねぇ〜!!!」
私はその後もサッカーの練習に明け暮れた。
頭の中ではレン先輩のことを考えながら……。
入学が楽しみで仕方ない。
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