第15話 白と黒
《side黒鬼姫》
私の高校生活は灰色でした。
名前も顔も知らない男性たちに告白されては断り。
断るたびに他の女性たちから嫌われる。
いつしか、ホノカちゃん以外は誰も私に話しかけなくなりました。
家に帰っても、家族で過ごしていても、何も楽しくない。
世界から色が失われて、もう自分の高校生活はただ時間を過ごすだけの場所として過ぎていくのだと思っていました。
そこに色をくれた彼。
「おはよう。黒鬼さん」
そのたった一言が私をどれだけ救ってくれたのか、あなたにはきっとわからないでしょう。
「僕と友達になってよ!」
あなたの優しい笑顔が、あなたの優しい顔が、あなたの行動一つ一つが私を喜ばせる。
「これ、友チョコだよ。ねぇ、黒鬼さん。僕が君を好きだって言ったらどうする?」
えっ? あなたが私を好き?
そんなの決まっている。
嬉しい。
名前を知らない人じゃない。
飛田蓮君。
初めて会う人じゃない。
あなたは毎日、私に挨拶をしてくれる。
何を考えているのかわからない人じゃない。
とても優しくて努力家な人。
本が好きで、スケボーを初めて、美容の努力をしている。
そんなあなたが私を好き? 凄く嬉しい。
「僕は好きな人がいるんだ」
「えっ?」
「ごめんね。好きだっていうのは冗談。僕には好きな人がいてね」
「そうなのですか?」
「うん。だから、心配しないで、黒鬼さんを好きにはならない。黒鬼さんが心配しているようなことにはならないよ」
私を好きにならない?
……。
…………。
………………。
なぜ? 何を心配するの?
私はあなたに好かれて嬉しい。
彼は誤解している。
私は、別に男子が嫌いなわけじゃない。
ちゃんと、お話をして、毎日挨拶をして、少しずつ仲良くなれるなら……
「好きな人がおられるのですね」
「うん? ごめん聞こえなかった。なんて?」
「なんでもありませんよ」
不思議ですね。
今まで、私の世界は灰色でした。
だけど、今の世界はとても美しく色めいています。
「だから、この世界を手放したくないですね」
彼と別れた私はホノカちゃんに会いに行きました。
「ホノカちゃん」
「ヒメ? 珍しいね。ヒメから会いに来てくれるなんて」
私は色々な人に嫌われていて、ホノカちゃんに迷惑がかかるから、近づかないようにしてきた。だけど、もうそんな余裕はない。
「ねぇ、ホノカちゃん。飛田蓮君を知っている?」
「えっ? うん。同じクラスだからね。前にヒメに挨拶をしてたから、話しかけたこともあるよ」
「そう。ねぇ、ホノカちゃん。飛田君はホノカちゃんと仲がいいの?」
もし、飛田君が好きな人がホノカちゃんなら……。
「えっ、ううん。私じゃなくて、クラスの相原希って子が仲がいいんだ。飛田君って静かであまり人と話をしないから、ノゾミ以外と話しているのってあまり見ないかな。最近は、飛田君も見た目が変わってきて明るくなったって思うけど。二年ももう終わりだからね。今から仲良くなる子はいないんじゃないかな?」
そう……ホノカちゃんじゃないのね。
相原希さん。
名前を覚えたわ。
「それがどうしたの?」
「ううん。なんでもないの。最近、飛田君が私に挨拶をしてくれるから、どんな人なのかなって」
「え〜! ヒメ。もしも飛田君に嫌なことされているならいいなよ。私から忠告してあげるから」
ホノカちゃんは私の味方。
私のことを考えてくれていってくれるのはわかる。
だけど……。
「やめて!」
「えっ?」
「私、飛田君に感謝しているの。いつも飛田君が挨拶してくれて、話をするようになって少しずつ世界が明るくなったような気がするの」
「えっ? えっ? それって」
「でもね、飛田君には好きな人がいるんだって」
「あっ!」
「ねぇ、好きな人を他の女性から振り向かせるためにはどうすればいいかな?」
「のっ、ノゾミは彼氏がいるって言ってたから、飛田君じゃないよ」
相原さんには彼氏がいる?
ふふ、それはいい情報ね。
「ヒメ?」
「何かしら?」
「ひっ!」
どうしたのかしら? ホノカちゃんが怯えたような顔をしているわ。
私は微笑んでいるはずなのに。
「おっ、男なんて美人に弱いから、優しくして既成事実を作れば」
ホノカちゃんは、野蛮ね。
既成事実。
悪くないわね。
「ホノカちゃん」
「なっ、何?」
「春休みの間、私は私自身を変えるために努力をしようと思うの」
「ふぇ? 自分を変える? ヒメは今のままでも綺麗だよ」
「ふふ、綺麗じゃダメなの。今まで私はダメだった。今のままの私ではあの人に好きになってもらえない。もっと、あの人の色に染まってから、あの人を私の色に染めなくちゃ」
「ヒッ、ヒメ? どうしたの?」
「ホノカちゃん。私はね。気づいたんだ」
「なっ、何を?」
「世界は、待っているだけじゃダメなんだよ」
「えっ?」
私は必要な情報をホノカちゃんから得られたから、自宅へ移動して鏡を見た。
黒くて重い髪。
家族やホノカちゃんは綺麗だと言ってくれる。
だけど、今のままじゃあの人に好きになってもらえない。
「ここからかしら?」
鏡の前で私は楽しそうに微笑んでいた。
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