第14話 手に入れたいもの
二年生が終わるまでに、相原さんが彼氏と別れることはなかった。
春休みに入っても、上手くいっているメッセージが僕に届いていた。
僕といえば、自分磨きを続けながら、新しくスケボーにハマって、本を読む時間が少し減ってしまった。
それでも週末には、本屋さんに言って最新刊のチェックだけは怠らないようにしている。
他にも黒鬼さんや小金井さんといった女友達ができて、見た目が変わったおかげなのか白堂さんも話しかけてくれるようになった。
ただ、挨拶をしても人と仲良くできるわけではないということも知った。
クラスメイトとは、挨拶はするし話もする。
だけど、仲の良い友人というほどの人間はできなかった。
男友達ならシュウトといる方が楽しい。
女友達なら相沢さんと話している方が楽しい。
それはこの四ヶ月でわかったことだ。
「先輩! どうですか?」
春休みになって早朝練習を始めると、小金井さんがスケボーを買ってきて、サッカーではない練習を一緒にしている。
僕としてはサッカーで推薦まで取っている小金井さんを、スケボーの道に誘って良いのか悩むところだ。
本人が楽しそうにしているので、息抜きだと思って止めることもできない。
「うん。上手くできているよ。やっぱり運動をしているからかな、体の使い方を知っているね」
「そうですか?」
楽しそうにジャンプする小金井さん。
どうしても危ないように感じて補助に入る準備をしてしまう。
補助をする必要も最近は無くなってきているけど、やっぱり怪我をしてほしくない。
「ふふ、いつもありがとうございます」
「えっ?」
「先輩が、私を怪我させないために補助してくれているのに気づいてますよ」
言われてしまうと恥ずかしい。
「最近は、必要なさそうだけどね」
「そんなことはないです。先輩が守ってくれるって思うから思いっきりできるんです」
小柄な小金井さんは身長がボクの胸ぐらいまでしかないので、話しているといつも上目遣いで見つめられることになる。
美少女から上目遣いで見上げられるとって、可愛さ100割増しだよ。
「そっそれならいいけど。でも、無理はダメだよ」
「は〜い!」
戯けたように笑顔で距離を取る小金井さん。
妹がいれがこんな感じなのかな?
最初の頃は恥ずかしそうに人見知りしていたはずなのに、今ではボクの方が揶揄われているように感じる。
黒鬼さんは美人だし、小金井さんは美少女だから、僕としては目の保養に最高だね。
「先輩。もうすぐ私も高校生です」
「そうだね。うちの制服って可愛いって有名だから、小金井さんが着ている姿を見るのは楽しみだね」
「ふふ、先輩が見たいなら、見せてあげてもいいですよ」
美少女が小悪魔に進化したよ。
僕の心に相原さんがいなかったら、絶対に勘違いして、自分とのレベル差に愕然としていたと思う。
「はいはい。小金井さんがそんなこというとほとんどの男が勘違いするから気をつけようね」
僕は頭をポンポンと二度優しく叩いて、小金井さんから距離を取ってスケボーの練習を再開する。
最近は新しい技を覚えようと少し危険なことに挑戦している。
階段の手すりを使った技で、上からジャンプして手すりの上を滑って技を決めるという技だ。
人通りがある時間は絶対にできないので、早朝を利用してやるんだけど、これがかなり難しい。
僕は自分には才能があると誤解していたことを実感させられる。
「ふぅ、やっぱり先輩がしている技は難しそうですね」
「うん。自分でも無理かもって諦めそうになる。だけどさ、やっぱり諦め切れないよね」
「えっ?」
「手に入れたいって、思ったものを手に入れるためにはさ。頑張るしかないよね!」
僕はもう一度チャレンジして、今度は成功させる。
成功率は高くないけど、五回に一回は成功できるようになってきた。
「手に入れたいと思った物を手に入れるためには頑張るだけ……先輩らしいですね。ねぇ、先輩。私も手に入れたいって思っているものがあるんです」
「うん? サッカーのこと?」
「いえ、物と言っても人です」
「へぇ〜小金井さんも好きな人がいるんだね。小金井さんが好きだって言ったら、その人はきっと喜ぶと思うよ」
「え〜本当ですか?」
小悪魔チックな笑顔を浮かべる彼女は嬉々として、こんな笑顔を見せられたらほとんどの男が好きになっちゃうよ。
「本当本当。僕も小金井さんぐらい人に好かれる人だったらよかったんだけど。教えてくれたから言うけど、僕も好きな人がいるんだ。片思いだけど」
僕の言葉を聞いた小金井さんは驚いた顔をしていました。
いきなり、好きな人がいるって言われても驚くよね。
「へっ、へぇ〜その人はどんな人なんですか?」
「彼女は同じクラスの人なんだけど。ずっと一番仲がいいと思っていたんだけど、昨年彼女から彼氏ができたって言われてね。僕が告白する前だったから告白ができないままなんだ」
「彼氏さんがいるんですね?」
「うん。まぁ好きでいることは自由だからね」
「そうですね。好きになるのは自由です」
何やら覚悟を決めたような瞳をしている小金井さんの恋が上手くいくといいなぁ〜。僕の恋は先が長そうだ。
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