第13話 バレンタインの相談(ミッション)
色めき立つ教室内、この時期はいつもそうだ。
男子はもらえるのかわからないから、ソワソワして。
女子は意中の相手にチョコを渡していく。
2月14日、同じ高校であればその場で渡すこともできるが、相原さんは年上の大学生と付き合っているので、放課後に渡しにいくそうだ。
まぁ朝から嬉しそうに語られるボクの心情は大ダメージを受けるわけだが。
「ねぇねぇ、レン。レンにはいつもお世話になっているからこれ」
そう言って義理チョコとわかっている、チョコを渡してもらった時は、内心でガッツポーズをしてしまう。僕はなんとちょろインだろう。
このチョコに色恋の要素は何もない。
むしろ、友チョコであることは間違いない。
だから、張り切ってホワイトデーに返すのはキモいと言うことになる。
これもツバキ姉さんの助言によるものだが、僕は事前にチョコをいくつか用意していた。
「なら、これは僕からお返し。友チョコだから、用意してたんだ」
告白するようの本命チョコは渡す時に、凄く緊張する。
実際、僕だって心の中では本命チョコだと言いたい。
だけど、スマートに渡すために、友チョコだと宣言をする。
「え〜もらえると思ってなかったから嬉しい。何々、なんだか最近のレンって色々スマートだね。二年も終わりに近づいて、髪型とか、メガネもコンタクトに変えて、イメチェンが凄いよ。もしかして、レンも好きな人ができた? それなら私に相談してね。レンにはいっぱい相談に乗ってもらっているから恩返しするよ」
それ以上攻撃するのはやめてほしい。
僕が好きなのは君だよと、言ってしまいたくなる。
よく男側の話として、好きな女子からチョコがもらえるのか話題に上がる。
もちろん、男とは馬鹿な生き物で義理チョコでもハイテンションになるぐらい嬉しい。
では、女性側は?
好きな男性にチョコを渡す。
それがバレンタインデーだ。
「レン、本命はやっぱり手作りチョコがいいのかな? でも、初めてでそれは重い? もうどうしたら男子は嬉しいの?」
バレンタイン前にこのように相談を受けたわけだ。
もういっそ殺してくれと思うが、彼女からすれば男性のことがわかる一番気軽な相談役として僕を選んでいるのだ。
だから、僕の答えは……。
「手作りか〜それはそれで嬉しいと思うよ。だけど、上手く作れる? チョコを溶かしてハートに固めるだけじゃ最近のチョコはダメなんだよ。ファンダンショコラとか、チョコを加工して料理っぽくして物が好まれる傾向にあるらしいんだ」
「え〜何それ、全然知らないよ」
「男もね。甘い物を食べる人が増えているから、ハードルが上がっているんだ。手作りもいいけど、相原さんが気に入っているチョコの商品をシェアして一緒に食べる方ぐらいがいいかもね」
チョコケーキを相原さんと同じテーブルに座って食べる。
僕はそれだけで幸せな気分になれる自信がある。
「そっか〜バレンタインも色々難しいんだね」
「そこまでこだわりがないんなら、お手軽制作キットとかも売ってると思うから、それで試作してもいいと思うよ」
制作キットの情報はツバキ姉さんが教えてくれた。
「凄いね。レンってなんでも知ってるね」
「僕は本の知識だよ。雑誌も読むから、そこに書いてあったんだ」
これも本当。ツバキ姉さんが買ってきてくれた雑誌で読んだから。
「へぇ〜レンも日々成長してるんだね。私も負けないようにしないと」
そんな会話をバレンタイン前にしていたので、期待しないで友チョコをすんなりと渡すことができた。
相原さんが彼氏に会うために放課後は帰ってしまったので、一人で図書館に言って借りたい本を選ぶ。
残念なことにバイトもしていない、高校生のお小遣いでは本をいっぱい買うことはできない。
そんな際に、市の図書館や、学校の図書館は無料で貸し出してくれるので強い味方だ。
「いた」
僕が図書館の奥で、本を選んでいると黒鬼さんがやってきた。
ここ最近は毎日のように挨拶をして、少しだけ話をする仲になった。
これは友達なのかな? とりあえず仲良くなってきたと思う。
「黒鬼さん? どうしたの?」
「はい」
「えっ?」
有名なチョコメーカーの、コンビニでも買えるチョコ。
「抹茶とコラボしていたんだ。僕甘すぎるのが苦手だから、抹茶とチョコの混じり合ったの好きなんだ」
「本当?」
「うん。黒鬼さんも抹茶が好きなの?」
「うん」
「そっか、ねぇ図書館では食べられないけど、一緒に食べない」
「えっ? うん。いいよ」
僕は相原さんを見送ったショックを本で紛らわせようとしていた。
だけど、誰かと話している方が紛れるような気がして、黒鬼さんと一緒にチョコを食べながら帰ることにした。
黒鬼さんは、あまり話すのが得意ではない。
それは白堂さんが言っていた理由なんだと思う。
「僕からも黒鬼さんに友チョコ」
「あっ」
僕はカバンから用意していた友チョコを渡す。
黒鬼さんが渡してくれた物と同じメーカーの苺味。
「偶然だね。同じメーカーを買ってたんだね」
「ふふ、なんだか嬉しい」
黒鬼さんの綺麗な顔が笑顔になる。
夕日が彼女を照らして、まるで一枚の絵みたいだ。
「ありがとうございます。嬉しいです」
黒鬼さんが素直にお礼を言ってくれる。
ふと、ボクは悪戯心が湧いてしまう。
相沢さんのことは好きだけど、黒鬼さんは本当に綺麗だから。
「ねぇ、黒鬼さん」
「はい?」
「僕が黒鬼さんを好きだって、言ったらどうする?」
「えっ?」
黒鬼さんは中学時代、たくさんの男子から告白をされ続けてきた。
それを断り続けて、様々な人から遠ざけられるようになった。
男子から告白されることを怖がっているかもしれない。
「僕は好きな人がいるんだ」
「えっ?」
「ごめんね。好きだっていうのは冗談。僕には好きな人がいてね」
「そうなのですか?」
「うん。だから、心配しないで、黒鬼さんを好きにはならない。黒鬼さんが心配しているようなことにはならないよ」
僕はそう言って歩き出した。
振り返ると黒鬼さんは立ち止まっていた。
「どうかした?」
「いえ……、好きな人がおられるのですね」
「うん? ごめん聞こえなかった。なんて?」
「なんでもありませんよ」
この時の僕は、黒鬼さんの変化に気づいていなかった。
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