第3話 同学年の美女

 ツバキ姉さんから出された課題を攻略するため、自分から女子に挨拶をする決意をして学校へ入った。

 学校に来る前にコイちゃんを一人目として挨拶ができたおかげで、緊張をほぐしてくれた。


 下駄箱に入ったところで、同級生が数名いたのだが、知らない人に挨拶するのはまだまだハードルが高い。

 その中でも話したことはないけど、名前だけは知っている女子を見つけた。


 黒鬼姫クロキヒメさん。


 彼女は、黒く艶やかな髪をなびかせ、細く美しい腰はプロポーションの素晴らしさが一目瞭然だった。

 容姿端麗という言葉がまさにふさわしく、彼女の美しさは周囲の人々を魅了し続けている。うちの学校で知らない人はいないってぐらいの有名人。

 芸能界から何度もスカウトされているという同学年の美人さんで、彼女は色々な人から挨拶をされているはずだ。


 だから、知らない僕から挨拶をしても気にしないよね。

 

「黒鬼さん、おはよう」

「えっ? あっ、はい。おはようございます」


 彼女と話すのは恐れ多いと言うか、挨拶をしているのを見るけど、他の人と話しているところを見たことがない。

 

 僕にとっては、同じボッチ仲間として話しかけやすい。


「あの」

「えっ?」


 まさか話しかけられると思っていなかったので、驚いてしまう。


「はい? どうしました。黒鬼さん」


 なんとか気持ちを整えて、ツバキ姉さんが言っていたように相槌を打つ。


「不躾にすみません。私はあなたの名前を知りません。教えて頂けますか?」


 律儀な人だな。

 挨拶をした人全員に聞いているのかな?


「そういうことですか、ごめんなさい。僕は二年二組の飛田蓮です。黒鬼さんは有名人だから、声をかけてしまってすみません」

「いえ、挨拶をされて嫌な気分にはなってはいません。知らなかったので、申し訳ないと思っただけです」

「それはご丁寧ありがとうございます。また挨拶するかもしれませんが、構いませんか?」


 ツバキ姉さんの課題がいつまで続くのかわからない。

 挨拶要員は増やしておきたい。


「はい。私でよければ」

「ありがとうございます。僕、あまり人に話すのが得意じゃないっていうか、むしろ苦手なんです」

「苦手なのに、挨拶をするんですか?」


 黒鬼さんが不思議そうな顔をしている


「はい! 今日から自分を変えようと思っていて。黒鬼さんはみんなから挨拶されているから、僕が挨拶をしても慣れているだろうって、勝手にすいません」

「私も」

「えっ?」

「私も、話すの苦手です」

「そうなんですか?」

「うん。だから、また明日も挨拶してほしいです」


 意外だな。


 凄く綺麗だから、色々な人に挨拶されているだろうに。

 あれかな? みんな綺麗すぎて近寄り難いって話をしないのかな?

 だけど、してほしいって言われるとちょっと恥ずかしい。


「わかりました。それではまた明日」

「うん。また」


 とにかく挨拶ができたボクは頭を下げて、その場を去ることにした。

 綺麗でクールな印象だったけど、意外に話しやすい人だったんだな。


 二年生の教室に入ると冬休みに向けて年末年始をどうやって過ごすのか、話し合う声が聞こえてくる。 

 顔馴染みがいない教室で相原さん以外とは結局深く仲良くなる人はいなかった。


 どうやら教室に相原さんはいないようで、僕は一人で本を読む。

 

「ねぇ、ちょっといい?」

「えっ?」


 僕はいつも話をしない女子から声をかけられて驚いてしまう。


「白堂さん? あっ、おはようございます」


 向こうから話しかけられたけど、挨拶は僕からしたから数えていいよね?

 いいことにしよう。とにかく、三人目達成だ。


「うん。おはよう。ねぇ、飛田くんだよね?」

「えっ? はい。そうです」

「何かあったの?」


 どうやら白堂さんは髪型を変えたことを気にしてくれたようだ。

 白堂さんの後ろに視線を向ければ、数名の女子がこちらを見てヒソヒソ話をしている。

 やっぱり女子は美容やイメチェンに興味があるんだな。


「どうしてそう思うの?」

「いや、いきなりイメチェンしてきてさ。しかも下駄箱で黒い鬼と話してたじゃん」

「黒い鬼? 黒鬼さんと話はしていたよ」

「えっと、知らないの?」

「えっ?なにを?」

「あ〜、うん。あのね。黒鬼さんって、あの容姿じゃん。だから一年生の時からたくさんの男子に告白されていたでしょ?」


 いたでしょと言われても全く知らない。

 一年生の頃の僕はシュウトしか友達がいなくて、シュウトと話をするか、本を読むだけだった。


「それでね。一言でバッサリ、ハッキリと振るから男子たちがグウの音もでなくて、いつからか、彼女に話しかける人がいなくなったんだよ。名前を文字って黒い鬼に近づくなって言われてるんだ。まぁ、女子は単なる僻みだけど」


 全然知らなかった。

 僕自信、他の人たちと会話をしないから、ただ綺麗で有名なんだって思ってた。


「飛田君が朝に話しているのを見たから」

「全然知らなかったよ。僕は僕で心境の変化があって、自分から挨拶をしてみようって思ったんだ」

「知らないにしても勇気あるなって思ったんだ。てっきり黒鬼さん狙いで気合い入れてきたのかと思ったよ!はは、もしそうなら応援するよ。頑張れ!」


 僕が好きなのは、相原さんだから、絶対にそれはないよ。

 ただ、白堂さんはイイ人だった。

 僕にも黒鬼さんにも気を遣ってくれているみたいだ。


「そっ、そんなことないよ」

「ふふふ、飛田くんってリアクション面白いね。知らなかったよ」


 白堂穂花ハクドウホノカさんは、相原さんと同じイケているグループの人だ。

 見た目は、サッパリとしたサバサバ系スポーツ少女で、運動をしない僕としては接点がなく、今まで交流を持つ機会がなかった。


「いつもは本を読んでいるからね」

「そうそう、だからてっきり暗い人かなって。ノゾミ以外とは話さないし」

「いやいや、ちょっと人と話すのが苦手で」

「え〜、そうは見えないけど。今も私と話していても冷静だし」

「えっ?」


 言われて気づいた。

 ふと、他の男子からの視線を感じる。

 なんというか、白堂さんは一部が凶悪な成長を遂げている。

 黒鬼さんとは別の意味で、男子から熱烈な視線を浴びている。


「それに、私の体をジロジロ見ないから結構好感もてるよ。またね」


 白堂さんが離れていくと、男子たちが僕の席へとやってくる。


「おい! 飛田! どういうことだよ」

「我らがアイドル、白堂さんにお声をかけて頂くなんて羨ましすぎる!」

「お前は相原さんを独占してるんだから、もういいだろ!」


 好き勝手文句を言って、チャイムと共に席を離れていく。

 僕はイメチェンして、黒鬼さんに挨拶をしただけなのに、いつもとは違い景色が教室で繰り広げられていた。


「ハァハァハァ、なんとか間に合った!」


 先生が来るギリギリで、相原さんが教室へ駆け込んできた。


 黒鬼さんのような美人ではない。

 白堂さんのようなボリュームもない。


 だけど、僕は相原さんがやっぱり好きだな。


「おはよう。相原さん」


 隣の席に座った相原さんに挨拶をする。

 相原さんは僕の変化に気づいて驚いた顔をしてくれる。

 

 ジェスチャーで髪を指して口パクで「どうしたの?」と聞いてくるけど、先生がきて話は中断した。


 

 


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