第4話 友達以上恋人未満

 隣に座る相原さんを見て、ふと、僕は出会った時のことを思い出す。 

 

 その頃の僕はクラスメイトの誰とも話すことができないで、孤立していた。

 いつも教室の自分の机に座って、一人で本を読んでいた。


「飛田君ってさ、いつも本を読んでるよね。その本も面白いやつだし」


 隣の席に座っていた相原さんから、いきなり話しかけてきたときは戸惑った。

 だけど、好きな作家さんの本を褒められて、嬉しかったのを覚えている。

 

「そうなんだ。凄く面白くて、もう三回目も読み返しているんだ」

「へぇ〜飛田くんっていつも本を読んでるけど、他にはどんな本が好きなの?」


 話が続けられるなんて思わなかった。

 僕は戸惑いながらも、なんとか受け答えをした。


「えっ? たくさん読んでるから、有名な作家さんから、コアな作家さんまで、たくさん読むよ。ジャケ買いすることもあるし」

「凄いね。私も本が好きで、たくさん読んでるんだよ。今度、私のオススメの本も読んでみてよ。それと、飛田くんのオススメも教えてよ」


 気さくに話しかけてくれる彼女は、誰にでも優しく話しかけている。

 クラスでも可愛くて、明るい子達が集まるグループに属している。

 僕は友人がいないわけじゃないけど同じクラスにはいない。

 だから一人で過ごすことが多くて、新しいクラスになってから、誰とも話していなかった。

 

 相原さんに気を遣われたのかな? 彼女から話しかけてくれて嬉しかった。

 何よりも、共通の話題が好きな本のことだったのが、凄く嬉しい。

 誰だけでも語れる。


 それからは挨拶をするようになり、オススメの本を紹介するようになった。

 

 一ヶ月が過ぎる頃には、本を持ち合って交換をした。

 お互いの予定を聞いて、週に三冊はお互いに本を交換する。

 それが読んだことがある本でも、感想を言い合うようになった。 


 ボクにとって楽しい時間だった。


 彼女と同じ本について語り合える。


 その時間が永遠に続くと思っていた。


 だけど、終わりを迎えたのは僕の方。


 テスト勉強を一緒にしようと図書室で二人で勉強している時に、資料を取りに僕は席を立った。


 資料を持って席へ戻ると、彼女が眠っていた。

 

 彼女の寝顔を見て、僕はこれまで友達として過ごしてきた彼女に恋をした。


 可愛い、寝ている彼女の寝顔を見てそう思った。


「んんん」


 邪な気持ちが伝わったのか、彼女が目を開く。


「あれ? 私寝てた? ごめんごめん。ちょっと最近本を読みすぎてて」


 僕にも身に覚えがある理由に笑ってしまう。


「テスト前だから、本は程々にね。」

「わかってはいるんだけどね。つい面白いところに入るとやめられないんだよ。レンだってわかるでしょ?」

「ああ、わかるよ。それに相原さんがそういう人だって、知っているけど、体を壊して成績を下げたら元も子もないよ」


 彼女とは親しく話せる関係でいたい。


「それはそうだけど、もうミステリってさ、答えがわかるまですっごく気になるんだもん。書いている人が天才過ぎだよ!」

「そんなこと言ってると、トリックの説明から犯人まで話しちゃうよ」

「鬼! それは鬼すぎる。絶対しないで、そんなことしたら絶交だからね!」

「ふふ、それが嫌ながらちゃんと寝て、勉強して、本を読む時間を確保してくれ」

「は〜い」


 僕は彼女の声や仕草、一つ一つの言葉に胸がドキドキしていた。

 なんとか自然に会話ができたことにホッとする。


 なかなか決心がつかなかったのは、友人としての関係まで壊れてしまうのが怖かったから。


 だけど、彼女とクリスマスを過ごしたい。


 そう思って告白をする決心をした。


 だけどその前に、彼女から彼氏ができたことを告げられた。

 

 彼氏の元へ向かうために先に帰っていく彼女を見送った。


 

 あの日から、僕の人生は変わったんだ。


 

 彼女を見送った僕を家まで送ってくれたのはシュウトだった。

 呆然と一人で教室に残っていると、親友の橘修斗タチバナシュウトが教室を覗き込む。


「おっ、レン。いるじゃん。一緒に帰ろうぜ!」

「ああ、彼女は?」


 シュウトには、コイちゃんがいる。


「今日は女子同士で打ち上げだってよ。だから、俺らも男同士で行こうぜ」

 

 シュウトの発言に、僕は呆然としたままシュウトの後に続いた。

 二人で打ち上げだと言ってラーメンを食べた。

 その後は公園に言って、シュウトが暖かい飲み物を買ってくれる。


「そうか、相原さんに彼氏な。まぁ、相原さん可愛いからな」


 シュウトには相原さんに告白することを告げていた。

 そして、彼氏ができて振られたことも……。


「まぁ、あれだ。恋なんていくらでも出会いがあるさ。なんなら俺が紹介してやるから、今は気持ちを立て直せ」


 シュウトは良いやつだ。

 

「レンは、顔がいいからちゃんとした服装をして、女子と話すようにすれば、彼女なんてすぐにできるって。今は自信無さそうな態度でモテないだけだ。イメチェンをしようぜ」

「イメチェン?」

「おう、相原さんに彼氏よりもレンの方がカッコイイって思わせてやるんだ」


 シュウトは彼女と付き合ってから、自分を変えた話をしてくれた。

 

 女性と付き合うために、シュウトもたくさん苦労したそうだ。


「だから、今は付き合えなくていいじゃん。お前は初恋を知って、恋をするためには自分も変わらないとダメだって知った。いい経験だろ?」

「うん、ありがとう。シュウト」


 シュウトに励まされて、僕は家へと帰り着いた。


 その後は、ツバキ姉さんに色々と教わることになった。

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