第2話 イメージチェンジ 髪型
ツバキ姉さんに連れられて来られたのは、洗面所だった。
「まずは、見た目からよ」
「見た目?」
「そうよ。誰が見ても印象が変わるのは見た目。私はダイエットをする必要があったけど。レンは痩せてるからダイエットはいらないわね。それに、肌も日に焼けてないから白い綺麗な肌をしているわ」
鏡にはメガネをかけて、もっさりとした自分の顔が写っている。
髪を切るのも面倒で、伸ばしっぱなしになっていた。
「レンは、可愛い顔をしているから、マッシュが似合うわね」
「マッシュ? 韓国アイドルとかがしているやつ?」
「そうよ。あれだって髪を切ればいいだけじゃないの。ちゃんと髪を濡らして、ドライヤーして、アイロンして、ワックスでセットしないとダメ」
「えぇ! 面倒そう!」
「そうよ。自分自身を磨くことは一つ一つが凄く大変なの。面倒だけど、努力する価値のあるものなのよ」
ツバキ姉さんの熱量に押されて、僕は姉さんにされるがままに髪の毛をセットした。
「うん。こんなものね」
メガネを外されて、鏡が見えない。
メガネをかけて自分自身を見てみる。
そこには今までの、もっさりとした印象は無くなっていた。
自分で見ても、多少はマシになったような気がする。
「いやいや、確かに髪の毛を整えれば多少はマシだけど、そんなに変わってないよ」
「それはそうよ。あんたね、いきなりメガネ外したらイケメンになれるとでも思ったの? イケメンは努力で作る物なのよ」
「えええ!!! 普通にかっこいい男子はモテてるよ?!」
クラスでもイケメンの男子は女子が寄ってきていた。
「ハァ、あのね。確かに子供の頃からかっこいい子たちは、女の子や家族からもかっこいいって言われ育ってきているわ。それは自信になって、自分はカッコいいという雰囲気が身につくの。自信と見た目両方を合わせて、イケメンになるのよ。いくらかっこよくても自信がない子は埋もれるし、自信があっても見た目がよくない子は気持ち悪がられるの」
物凄く胸に刺さるよツバキ姉さん。
「レンは悪くない顔しているわ。イケメンになれる見た目を作れる。レンの言うクラスの男子たちだって、寝起きは普通の男よ」
そうなのかな? 芸能人とか、やっぱりイケメンだと思うけど。
「レンは、自分の顔だから見慣れてしまっているだけよ。だからアドバイスよ。前向きに受け止めなさい」
「前向きに受け止める?」
「そうよ。髪を整えたら、俺もイケてるじゃんってね」
「え〜! そんなこと思えないよ」
「思うのよ。努力した自分自身の成果を褒めてあげることが大切なの」
髪の毛をセットした鏡に映る自分を見る。
もっさりとした髪を整えただけで、確かに普通に明るくなったように見える。
「週末の休みに、色々買い物に行きましょう」
「えっ? まだやるの?」
「当たり前でしょ。美容や努力は、毎日しないと意味がないの。今日はそれが始まった日ってだけ」
確かにそうだ。
僕は相原さんに振り向いてもらうため、もうこんなに辛い失恋をしないために、自分自身を変えるんだ。
「うん。ツバキ姉さんに協力してもらってるんだ。頑張るよ」
「そうよ。頑張りなさい。そして、いい男になるのよ」
僕は鏡に映る自分を見て、変わる決意を新たにする。
次の日は、学校に行くよりも朝早く目を覚ました。
自分でもツバキ姉さんがしてくれたように、髪の毛をセットできるのかやってみた。
寝癖まみれの髪を濡らしてドライヤーで乾かす。
乾く寸前の髪をアイロンで癖に沿って伸ばしていく。
アイロンが結構難しい。
やっているうちにだんだん上手くなってきた。
だけど、ツバキ姉さんがしてくれたほど真っ直ぐにはならない。
「あら、ちゃんと努力して偉いわね」
「ツバキ姉さん。おはよう」
「おはよう。うん、最初はそれでいいと思うわ。次は洗顔のやり方ね」
「洗顔?」
僕は、いつも水洗いしかしたことがない。
十分に肌は綺麗だと思う。
鏡を見ても、ボクの顔は汚れていない。
「これも日課よ。せっかく早い時間に起きたんだからやりなさい。石鹸を泡立てるわよ。泡を顔に広げるようにして、ゴシゴシしたらダメ。泡で皮脂の汚れを浮き出して落とすの。水を拭き取る時もタオルでゴシゴシしない。肌を傷つけないように丁寧にね。顔を洗ったことで皮脂の汚れが落ちて、肌は乾燥しやすくなっているから、化粧水と乳液を優しく顔全体に伸ばすように塗るの」
ツバキお姉さんが横で実践しながら、説明してくれる。
いつも化粧をしているけど、ツバキ姉さんの地肌は凹凸やシミがなくて綺麗だ。
確かにツバキ姉さんと並ぶと、ボクの肌は汚いように感じる。
ツバキ姉さんは、化粧なんてしなくても十分に綺麗だ。
「わかった?」
「うっ、うん、やってみるよ」
ツバキ姉さんに見惚れていたのを誤魔化すように、洗面所に立って、ツバキ姉さんがしていたことと同じことをする。
洗顔が終わると、いつもよりも顔が白く見えた。
「ふふ、やっぱりまだまだレンの肌は若いわね。水を弾いて、白を通り越して、透明感まで出てるじゃない」
褒められているのはわかるけど、それは男性が言われて嬉しい褒め言葉なのかな?
「これからの時代、男性とか、女性とか、分けてる場合じゃないの。多様性の世の中なんだから、美容でも家事でも、得意にならないとダメ」
ツバキ姉さんは家事も得意で、女子大生をしながら、インスタで読者モデルのような仕事もしている。
登録者が十万人を超えたと喜でいた。
僕は制服に着替えて、家を出た。
家を出る前に、ツバキ姉さんに課題を出される。
「レン、今日はあなたの方から五人以上の女子に挨拶をしなさい。別に話を続ける必要はないから、挨拶だけでもしなさい。向こうが話してくるなら、ちゃんと相槌も打つこと」
「相槌?」
「ええ、初めて話すなら、向こうの話を聞いて、言いたいことを聞き返すか、相手が言ったことを繰り返すだけでいいからやってみなさい」
「うん。わかった」
女子に挨拶をすると言うミッションを達成するために、緊張しながら高校に向かった。
学校に近づくと、前方に知り合いの姿を見つける。
友人の
最初が知り合いなのは嬉しい。
緊張して、挨拶ができるか不安だったけど、この二人なら大丈夫だ。
「シュウト、コイちゃん、おはよう」
「おっ!」
「えっ?!」
僕が明るく声をかけるとシュウトはニヤニヤした顔で、コイちゃんは驚いた顔をして僕を凝視する。
「よう、おはよう。今日は決まってるじゃん」
「イメージチェンジだよ」
「えっ? えっ? ごっ、ごめんなさい。もしかして、レン君?」
「なんだよ。コイ、レンが髪の毛整えてイケメンになったからわからなかったか?」
「うっ、うん。レン君って物静かで影が薄いっていうか、全然印象がなかったから」
「おいおい、ヒデーな。まっ、俺はレンがかっこいいことは知ってたけどな」
何故か、シュウトが嬉しそうな顔をしてコイちゃんに僕を自慢する。
コイちゃんは驚いた顔で、何度も僕の顔を見ていた。
なんだか恥ずかしくなって、外していたメガネをかけた。
「変かな?」
あまりにもジロジロ見られるので、コイちゃんに問いかけてみた。
「全然変じゃないよ! むしろいい! なになに! 好きな人でもできたの?」
「あっ、バカ!」
「シュウト、いいんだ」
「えっ? えっ?」
「僕ね、昨日振られたんだ。だから自分が変わらないとダメだって思って」
「そうか、うん。いいと思う。私も応援するよ! レン君、頑張って」
いつもシュウトだけに優しいコイちゃんが、僕に優しく声をかけてくれる。
自分から挨拶してよかった。
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