@aoikaname

クロ

「クロ」

初めてそう呼ばれたのは桜が降る日だった。

あたたかな陽だまりにのんびり寝転がっていた。

昼寝日和だ。少し肌寒い風がふく。

桜の花びらが鼻先をくすぐり、思わずくしゃみをした。

それを見ていた君が僕に近づく。

「かわいいくしゃみ。」

そういって僕をなでる。慣れない僕はびくついた。

「真っ黒だね、あなた。

クロ、そう呼ぼうかな?クロ。」

勝手につけられた。そもそも君のほうこそ誰なんだよ。

君は会うたびに僕をなで、話しかけた。

「クロ、今日ね、澄子ちゃんって子が話しかけてくれたんだ。

 友達になれるかな。」

「クロ~!!聞いて聞いて!!今日ね、私の大好きなカレーが

 給食で出たの!!!おいしかった~。」

「クロ、今日雨凄いね。わたしもそこで雨宿りする!

 わー!!クロ~逃げなくてもいいじゃんー。」

うるさい、うるさい、僕は静かなのが好きなんだ。

でも、君はなでるのがうまいからな、

僕をなでる代わりに君の話を聞いてあげているのさ。

ある日、君はいつものように僕をなでた。

少し荒っぽい、僕は君をにらみつけた。

僕の目に何か入る。僕は水が嫌いだ。

逃げようとしたその時、君が僕に抱きついた。

「クロ、クロ…私ね、クロにもう会えなくなるの。

 嫌だ、いやだ、いやだ、、もう転校したくないよ…。」

僕の方が嫌だ。抱きつかれるのは嫌いなんだ。

さっさと離してくれよ。

これだから人間はよくわからない。

ニコニコしてたと思えば、目から水を落とす。

なんなんだ、この生き物は。


鶯が鳴きだした、またピンク色の花が顔を出す頃だと

知らせるみたいに。

僕はこの時期が好きだ、昼寝にもってこい。

静かで温かくて気持ちがいい。

後は君がなでてくれたら、最高なんだが。

どこに行ったのだろうな。


「クロ!!!!!久しぶりーーー!!!」


……前言撤回 なでなくていい。


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