第32話
モモラビは僕の胸元に隠れている。一応姿は消しているが、心配なので胸元に隠れているのだ。
「あの白服の人たちいなくなっているといいんだけど……。」
ギルドによってマルットゲリータフィッシュの納品を済ませた後、宿屋に向かう。
マルットゲリータフィッシュのお陰で懐は少し暖かくなった。今日の宿は問題なく取れるはずだ。できれば、ミコトやモモラビのこともあるので、前回泊った部屋がいいんだけど。
「そうね……。いないといいわね。」
「……。」
ロレインちゃんも白服の男たちには会いたくないようで頷いている。
ミコトは何も言わず黙っていた。
「こんにちはー。」
僕は恐る恐る宿屋のドアを開けて中を覗き込んだ。そこには白服の男たちはいなそうに見えた。
「あら。いらっしゃい。どうしたんだい?」
宿屋の女将さんが、僕たちに気づいて声をかけてきた。
「いや……その、午前中きたら変な人たちがいたので……。」
「ああ。あの白い服を着た連中のことかい?あの男たちの所為でいい迷惑だったよ。追いだしたから今はいないよ。もう一つの宿の方に向かったみたいだったよ。」
宿屋の女将さんは、白服の男たちのことを思い出して眉間に皺を寄せた。
「そうですか。よかった。もし一緒になったらと思うと……。」
「ははは。そうだねぇ。なんだかこっちの話もまともに聞きやしなかったしねぇ。」
「そうでしたか。あまり関わり合いになりたくなかったので……。」
きっとあの白服の男たちはミコトのことを探している。
「はははっ。あの男らと関わり合いになりたいなんて思うやつはいないだろうねぇ。あたしとしても、もう二度と関わり合いになりたくはないよ。」
「ははは……。誰だってそうですよね。なんだか関わったらトラブルになりそうで怖いと思いました。」
「そうだねぇ。それが普通の反応だろうねぇ。まあ、あたしらの会話を聞いていた一部の人間は、あの男らが探していた女の子を探し出してお金をもらおうと企んでるみたいだけどねぇ。ろくなことにはならないと思うんだよね。やめとけって言ったけど、聞きやしないよ。まったく。あんたたちは、そう言った人間じゃなくて常識があるみたいで安心したよ。」
宿屋の女将さんは腕を組むと大きなため息をついた。
「……むしろその女の子をみつけて保護したいくらいですよ。僕たちに力があれば、ですけど。」
「そうだねぇ。あの男らの元にいたくないから逃げだしたって感じはするんだよねぇ。探さずそっとしておいて、もし見つけたら手を挿し伸べてあげるくらいがちょうどいいと思うよ。積極的に探そうとすればその女の子も怖がって逃げてしまうかもしれないからねぇ。」
「ええ。そうですね。」
僕は神妙に頷いた。
「それで、あんたたちは今日はどうするんだい?」
世間話を切り上げて今晩の宿をとるのかと宿屋の女将さんが訪ねてきた。
「できればしばらくこちらに泊りたいと思っています。部屋は……できれば以前お借りした長期滞在者向けの部屋がいいんですけど……。」
自分たちで料理できるというのもいいし、部屋の中に小部屋が4つあるというのも利便性が高い。金額もシングルルームを3つ取るのと同じくらいの値段だったし。
「ああ。あの部屋だね。ちょうど空いているからいいよ。何泊の予定だい?」
よかった。部屋は今空いているようだ。
もしかして満室になっていたらどうしようかと思っていたが、安心した。
「手持ちがあまりないので……。これだと何泊くらいしても大丈夫ですか?もちろん、宿泊している間もギルドで依頼はこなしていく予定ですが……。」
僕は銀貨10枚を取り出して女将さんに見せた。
「1泊銀貨1枚だから、10日間は泊れるよ。期間延長も部屋の予約が入る前だったら受け付けるからね。」
「そうですか。では、とりあえず10泊でお願いします。」
こまごま延長するよりも、取れるだけの予約はしておこう。僕たち以外の予約が入らないとは限らないし。
「ありがとね。じゃあ、今日から10泊で部屋を確保するわね。ゆっくりしていって頂戴。部屋で食事を作って食べてもいいし、食堂で食べてもいいからね。」
「ええ。ありがとうございます。」
僕は女将さんに10泊分の料金である銀貨10枚を渡した。
ラルルラータに白服の男たちがいると言っても、ミコトの髪の色は白じゃない。魔法で金色にしている。だから、そう簡単に見つかることはないだろう。それに、僕たちはほぼ毎日ギルドの依頼を受ける予定だ。そうするとラルルラータの町にいる時間も短くなる。鉢合わせることもほとんどないだろう。
それに、白服の男たちが何日もラルルラータの町にいるとは思えない。きっとラルルラータの町で情報を得られなければ他の町に行くことだろう。そして、それはきっと2~3日後だと、僕は予想している。
白服の男たちがラルルラータの町から去っていけば、魔法の効果が切れる1年後まではミコトは見つかることがないだろう。
そうなれば、ラルルラータの町が一番安全だろう。
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