第33話
部屋に入ると僕はモモラビを懐から出した。モモラビは辺りをキョロキョロと見回しながら、僕の手からピョンっと床に下りる。そして、部屋の隅から隅までピョンピョン跳ねまわりながら探検をしている。
どうやら初めての場所なので安全を確認しているらしい。
僕たちは安全確認をしているらしい可愛らしいモモラビを見つめていた。しばらくして、安心したのか確認が終わったのかモモラビは僕たちの元に戻ってきた。
そして僕たちが席についていたテーブルにピョンッと飛び乗る。
モモラビは小さな身体に反して跳躍力がとても高いようだ。自分の何倍もの高さまで軽々しく跳躍してみせた。
「お部屋の探検は終わったのかしら?」
ロレインちゃんがモモラビににっこり笑いながら話しかける。
「ピッ!!」
モモラビは胸を張って返事をした。
「そう。安全を確認してくれてありがとう。ここは安全なのね。」
「ピーッ。」
ロレインちゃんがモモラビにお礼を言うとモモラビは嬉しそうにその場でピョンピョンと二度跳ねた。
「……可愛い。」
「そうだね。モモラビはとても可愛いね。」
ミコトは飛び跳ねて喜んでいるモモラビを見て、ポツリと呟いた。僕はそれを肯定する。
「さて、落ち着いたところで夕飯にしようか。それから今後について話し合いたいと思っているんだ。」
「ええ。わかったわ。」
「ミコト、問題ない。」
「ピッ!」
僕の提案に皆頷いてくれた。モモラビも神妙な表情で頷く。
……なんだか、モモラビがとても人間みたいに見えるような気がするのだけれど、僕の気のせいだろうか。
さっきから僕たちの言葉を理解しているみたいだし。
モモラビは、ピトッとミコトに寄り添った。ミコトは嬉しそうにモモラビのふわふわな頭を撫でている。
「ゆっくり話したかったから、夕飯はさっき買っておいた。」
僕はそう言って麻袋の中から3人分のサンドイッチを取り出した。ふわふわのパンに挟まっている具は牛肉やキャベツなどの野菜だ。ボリューム満点の一品が気に入って僕がこっそり購入した。
僕の好みで買ってしまったけれど、ロレインちゃんもミコトも食べれるだろうか。……たぶん、ミコトはなんでも食べられると思うけれど。
「あら。さっきこそこそとしていたのはこれだったのね。でも、とても美味しそうだわ。」
「……美味しそう。」
「ミッ!」
どうやらロレインちゃんにもミコトにも受け入れてもらえたらしい。僕はホッと息を吐きだした。
ついでにモモラビも食べたそうにしている。目が美味しそうだとキラキラと訴えている。
僕はモモラビにサンドイッチを差し出す。
「モモラビは、味付けしたサンドイッチを食べても大丈夫なのかな?食べれない食材はない?味付け濃いとダメなんじゃない?病気にならない?」
僕は不安になりながらもモモラビにサンドイッチを手渡した。
正直モモラビが何を食べるのかわからない。食べちゃいけないものもわからない。
そもそもモモラビを飼っている人もいないし、研究している人もいないわけだからまるっきりわからないのだ。ただ、良く植物を食べているというのは聞いたことがあるくらいだ。
っていうかこのモモラビ、魚食べたし。マルットゲリータフィッシュ美味しそうに食べてたし。
「ミッ♪ミッ♪ミッ♪ミッ♪ミッ♪」
モモラビは美味しそうにサンドイッチに顔を埋めて食べ始めた。
どうやらこのモモラビはサンドイッチを食べれるらしい。
……本当にこのモモラビはモモラビなのだろうか?中に人間が入ってないよな?
「ふふっ。モモラビちゃんったら美味しそうに食べるわね。私も頂きますね。」
「ミコトも食べる。」
ロレインちゃんとミコトもモモラビに続いてサンドイッチに口をつけた。僕もサンドイッチに齧り付いた。
「んー!美味しい!!」
「美味しいわぁ!」
「ミコト、好き。」
サンドイッチは噛むと口の中にジュワァ~とお肉の旨味が広がった。余計な味付けはされておらず、お肉の旨味が最高の味付けになっている。
「これなら、余計な味付けがしてなくてモモラビでも大丈夫そうだね。」
「そうね。香辛料も使ってないみたいだし。どうやってこんなに良いお肉の旨味を引き出しているのかしら。」
「はむっ……。はむっ……。」
僕たちはサンドイッチの美味しさに舌鼓を打つ。ミコトはすっかり気に入ったようで何も言わずにただひたすらにサンドイッチを食べていた。
こんな幸せな時間がずっと続けばいいのに。いや、続けて見せる。
そのためには、やるべきことがある。
この一年の間に力をつけてミコトを守れるくらいに強くならないと。そして、ミコトを探す白づくめの男たちにミコトを諦めてもらうようにしなければならない。
そのためには、ララルラータの町にしばらく滞在してギルドの依頼を受けながら力をつけて行かなければ。
「……ロレインちゃん。ミコト。僕は思うんだ。このままのんびり冒険者として皆と一緒に暮らしていきたいって。」
僕は声のトーンを落として二人に話しかける。
「……そうね。そうして行けたらとても幸せよね。」
「ミコト、幸せ。」
「ピッ!」
ロレインちゃんは頷いてくれたが、僕がこの後に続ける言葉に感づいているようで神妙な顔つきをしている。
「うん。とても幸せ。でも、このままずっとミコトのことを隠し通せるわけもないだろうし、爺ちゃんのことも気になっている。それに、僕たちの町のことも。このままここでのんびりしてたらいけないような気がするんだ。だから、僕はしばらくはラルルラータの町でミコトやロレインちゃんを守れるだけの力をつけたいと思う。それからあの白づくめの男たちの居場所を突き止めて、ミコトを探さないように釘を刺したいと思うんだ。どうかな?」
僕は簡単にこれからのことをロレインちゃんとミコトに相談した。
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