第28話
マリリンさんの列には複数の冒険者パーティーが並んでいた。
白い服の男たちが白い髪の少女の情報を寄せた人には金貨100万枚を用意すると言っていたが、地道に冒険者ギルドの依頼を受けようとする冒険者も多いようだ。
白い髪の少女を見かけたらラッキーくらいの思いでいるのだろうか。それとも、なんだかヤバそうな匂いがすると言ってスルーしているだけなのかはわからない。
僕たちはマリリンさんの列の最後尾に並んで順番が来るのを待った。
マリリンさんは意外にも丁寧に冒険者たちに依頼内容を説明している。出来るギルド職員のようだ。
しばらくマリリンさんと冒険者のやり取りを眺めていて、すっかりマリリンさんのイメージが覆った。重度のショタコンって訳でもなかったようだ、と。
まあ、語尾が伸びているのはもう癖のようで抜けないらしいが。
「あらぁ。シヴァルツくんにアルフレッドさまじゃないですかぁ。さっそく依頼を受けるんですかぁ?」
「あ、はい。薬草を買い取ってもらったけど、時間があるのでマリリンさんのお勧めの依頼があれば、と思いまして。正直僕たちは冒険者として初心者なので依頼ボードに貼ってる依頼のうちどれを選べばいいのかわからなくて……。」
「うんうん。そうだよねぇ。わからないよねぇ。じゃあさ、マリリンが教えてあげるねぇ~。」
マリリンさんを頼ったことが嬉しかったようで、マリリンさんは満面の笑みを浮かべて初心者用の依頼を吟味し始めた。
「んー。これはランクは低いけど、場所が遠いから難しいわねぇ。こっちはランクは低くてもこの辺ではなかなか採取が難しいわねぇ。全くないってわけじゃないけど、運が良くないと見つけられないから却下ねぇ。ああ、でもお金も時間もあるっていうのならぁ、お勧めかもぉ。シヴァルツくんもアルフレッドさまも時間もお金も十分にあったりするのかしらぁ?」
マリリンさんは依頼のうちの一つに何か感じることがあったみたいで、僕たちにそう尋ねてきた。
「えっと……、時間は気にしてませんが、お金は今日宿を取れるくらいしか持ってません。買い取りように持ってきた薬草もあまり多くないですし……。」
「そうなんだねぇ。じゃあさぁ、コンカフェで働こうよぉ。ぜったいいいお金になるからさぁ。冒険者するより楽だよぉ。」
また、マリリンさんの勧誘が始まった。これがなければいい人なのに……。
というか、さっきマリリンさんは受付嬢としては一流だと思ったのを改めたい。
「……コンカフェで働く気はありません。」
コンカフェのことよく知らないけれど。今は興味がないし、なんだかそんなに必死になって誘って来られると裏がありそうで「うん。」とは言えない。
「そっかぁ。わかったわよぉ。しょうがないわねぇ……。ああ、でもこの依頼は結構おいしいんだよねぇ。見つける難易度は高いけど、見つかれば金貨1枚もらえるんだよねぇ。期限もないし……。」
「どんな依頼、ですか?」
マリリンさんが悩んでいるのは高額の採取依頼のようだ。
見つけるのは難しいというけれど、金貨1枚になるなら受けてもいいかもしんない。ただ、サブの依頼として。
「ムニュムニュ草の採取依頼だよぉ。ムニュムニュ草は知っているかしらぁ?」
「えっと、知ってます。実際に見たことはないけど、図鑑で見ました。こう……枝がムニュムニュなんですよね?」
「そうなのぉ。そのムニュムニュ草よ。これ1本見つければ金貨1枚なのよぉ。しかもぉ、2本見つければ金貨2枚、3本見つければ金貨3枚。本数制限はなく、納品した本数分、無限に金額が上がっていくっていう美味しい依頼なのよねぇ。どう?受けてみる?」
なにそれ。結構おいしい依頼のようだ。
ムニュムニュ草はこの辺ではなかなか見つけられないが、その生態系から1本見つけると近くに何本もあるのだ。だから、1本でも見つかれば必然的に数本は見つかる。つまり、金貨数枚になるのだ。
かなり美味しい依頼かもしれない。
「えっと、ギルドの依頼って一度にいくつか受注できるんですか?」
「んー。採取依頼なら一度に2つまでだったら受けられるわよぉ。あとぉ、採取してきてから依頼を受けても大丈夫だよぉ。でもぉ、人気の採取依頼はぁ、先に依頼を受注しておかないと、他の人が受けてなくなっちゃうかもしれないけど、ね。これももし受けるなら、先に依頼を受注しておいた方がいいわよぉ。他にムニュムニュ草を見つけたって人が来たらその人のものになっちゃうから。」
「なるほど……。ちょっとみんなと相談させてください。」
「いいわよぉ。」
僕はマリリンさんとの会話を打ち切って、ロレインちゃんとミコトに向き合う。僕たちはパーティーなのだから、僕だけでは決めずにみんなの意見を聞く必要がある。
「ムニュムニュ草の採取依頼、どう思う?」
「私は、受けてもいいと思うわ。期限もないというし、もう一つ別の依頼も受けることができるのでしょう?それなら、問題ないんじゃないかしら?」
「アルフレッド、問題ない。シヴァ、ついてく。」
二人ともこの採取依頼を受けることに問題はないようだ。
なら、僕の答えも決まっている。
「その採取依頼、受けます。気長に探してみます。」
「そうねぇ。そうするのがいいと思うわぁ。じゃあ、もう一つ採取依頼を受けておいた方がいいわねぇ。ムニュムニュ草はそのついでに探すのが一番だわぁ。」
マリリンさんはにっこりと笑ってもう一つの依頼を探す。
「うーん。あとはどれもパッとしない依頼ばかりねぇ。簡単なのは、矢車草の採取ねぇ。これは森に行けばだいたいどこにでも生えているから採取は簡単よ。10本1束で依頼料は銅貨3枚。数は3束までで期限は2日後ね。正直これはとっても簡単だと思うけど、金額が3人で受けるには安いわよねぇ。ちょっと難しくなるし釣り竿を買う必要はあるけれどぉ、マルットゲリータフィッシュの納品とかどうかしらぁ?こっちなら1匹納品するだけで銀貨1枚になるわねぇ。釣りの経験はあるかしらぁ?」
マルットゲリータフィッシュ?聞いたことがない魚だ。この辺ではよく捕れるのだろうか?
「僕は釣りをしたことがあるけれど……。マルットゲリータフィッシュってこの辺でよく捕れるんですか?」
「私は釣りの経験はないし、釣り竿も持っていないわね。」
「アルフレッド、釣り竿ない。釣りって、なに?」
ロレインちゃんもミコトも釣りの経験は無いようだった。というか、ミコトにいたっては釣りがなにかを知らないらしい。
「んっとぉ。一人経験者がいれば金額的にはお勧めなのよねぇ。マルットゲリータフィッシュはここから南西に行ったところにある女神マルティネスの泉に行けば、いっぱいいるわよ。ただ、ちょっと凶暴だから普通の人は釣らないわねぇ。だけど、冒険者のなり立ての人にはお勧めよ。比較的釣りやすいし。」
ちょっと凶暴ってところが引っ掛かるけれど……。金額的には宿代くらいにはなりそうだし。いいかもしんない。
「納品は何匹ですか?」
「えっとぉ、1匹から10匹までだったら何匹でもいいわよぉ。」
10匹捕まえたら、金貨1枚になる。釣りやすいんだったらとても良い依頼かもしれない。
凶暴っていうのはとても気になるけれども。
「ロレインちゃん、アルフレッド、受けてもいいかな?」
「……私は構わないけれど、私は釣りをしたことがないからあまり役に立てないかもしれないわ。」
「アルフレッド、シヴァ、ついてく。」
一応二人からも了承を得られたので、マルットゲリータフィッシュの依頼を受けることにした。
「この依頼、受けさせていただきます。」
「はぁい。ありがとーねぇ。くれぐれも気をつけてね。あ、あと釣り竿一応ギルドでも貸し出しているけど、いるかしら?レンタル料は1週間で銅貨1枚になりまぁす。」
どうやら釣り竿も貸し出してくれているらしい。
「……釣れるかわからないから、私はやめておくわ。シヴァルツくんのを貸してくれるかしら?コツがわかったらレンタルしてみるから。」
「アルフレッド、レンタルする。」
「僕は持ってるから大丈夫です。」
「りょうかぁ~い。じゃあ、釣り竿1つレンタルですねぇ。銅貨1枚いただきまぁす。」
僕はマリリンさんに銅貨を渡すとミコト用の釣り竿を受け取った。
よし、これから宿を取ったら釣りに行ってみるぞ。そう意気込んだ。
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