第27話
「……なんだか、とても怪しいですね。その人たち。」
僕は素直な感想を言った。
ここで何も言わずにギルドの外に出て行くのはあまりにも不自然だったからだ。金貨100万枚に心引かれない者はいないだろう。
「そうだな。碌な奴らじゃあなさそうだ。女の子一人に金貨100万枚だぞ?絶対になにかしら裏があるだろう。珍しい見た目の少女を御貴族様に売るような奴らかもしれん。見つからないといいな。その女の子。」
「まっとうな人はそう思うでしょうね。ですが、冒険者の中には金貨100万枚を手にいれようと息巻いている人も大勢います。でも、いくら珍しい容姿をしているとしたって、金貨100万枚なんて怪しすぎなんですよね。僕たちすっごく怪しいです。って言ってまわっているようなもんですよ。」
ルイーズアンさんとモリスさんが困ったような顔をしながら相づちを打つ。
よかった。ミコトのことがバレても味方になってくれそうな人は何人かはいそうだ。だが、いざミコトを目の前にしてしまうと金貨100万枚という大金に目がくらんでしまう人がいるかもしれない。
そう思うとミコトのことはこのまま誰にも言わずに黙っておく方がいいと思った。ルイーズアンさんもモリスさんも親切そうな人たちだが、今日会ったばかりの人たちだし警戒しておくべきだろう。
「……なんだか、関わりにならない方がいいみたいですね。」
「そうだな。気にしない方が良い。下手に絡むと面倒なことになるぞ。」
「そうします。」
僕たちは下手に白服の男たちと関わらないように決めた。と言っても、白服の男たちが探していると思われるミコトがここにいるのだから、いずれ必然的に会ってしまうことになるかもしれないが。
だが、少なくともミコトの魔法の効果が効いている1年間は大丈夫だろう。なにせ、目立つ白い髪も、赤い目も魔法で変えているのだから。
白い髪と赤い目を持つ少女を探そうとしている冒険者たちの視線に嫌な感じを覚えながらも、ここで逃げるように外にでれば先ほど出て行ったという白服の男たちに会ってしまうかもしれない。
それならば、もう少しだけ冒険者ギルドにとどまっていた方がいいかもしれない。
そう思って僕たちは、依頼が貼り付けられているボードに向かった。
「……今、外に出ると白服の男たちがそばにいるかもしれない。なにか良さげな依頼がないか見てから外にでよう。」
「そうね。それがいいわね。」
「アルフレッド、異議なし。」
僕の提案にロレインちゃんもミコトも頷いた。
「……魔物の討伐依頼が多いわねぇ。しかもAランク?」
「ほんとだね。Fランクの依頼は採取依頼ばかりだ。しかも、あまり多くない。」
「不思議よね。高レベルの魔物ばかりだなんて。それも、どれも国境付近だわ。」
「……そう言われれば。なんだか、ちょっとおかしな感じだね。採取依頼はまあ、普通かな?」
「そうね。採取依頼は……私は採取対象の素材がなにに使われるのかわからないからなんとも言えないけれど……。」
「僕もそこまで詳しくありませんが……、回復薬の材料ばかりな気がします。初級から上級まで作れそうですよね。」
「アルフレッド、わからない。」
僕とロレインちゃんの会話にミコトはついていけなかったようだ。つまらなそうな顔をしている。
「ごめんごめん。ニッコリ草の依頼はないみたいだね。」
「そうね。このコドランマリン草の採取依頼が多いみたいだけど、コドランマリン草はシヴァルツくんの家の庭にあるの?1束銀貨3枚よ?」
ロレインちゃんが依頼票の一つを指さす。
コドランマリン草は確か水辺に生える薬草だったはずだ。
じいちゃんもコドランマリン草を栽培したいと何度か試していたみたいだが、なぜか上手く根付かなかったと嘆いていた記憶がある。
「残念だけど、コドランマリン草はじいちゃんの庭にはないよ。コドランマリン草は栽培に向かないみたいで上手く育てられなかったんだってさ。それにコドランマリン草は水辺の近くに生息しているんだ。ラルルラータの町の側には水辺はなかったと思うけど……。」
「そうなの。残念だわ。じゃあ、依頼票は貼り出されているけど、簡単には依頼達成できないのね。だから値段が高いのかしら。」
「そうかもしれないね。……それにどれもこれも簡単には達成できない依頼みたいだね。このモララリン草なんて魔物はあんまり出現しないけど、近くに竜の巣がある場所じゃなかったっけ?」
「そうなの?」
「うん。確か一度だけじいちゃんに連れられていった記憶があるよ。運が悪いと竜と遭遇するから危険度は高いと思う。その他の薬草はどれも希少種だ。なかなか見つからないものが多いね。」
「ふぅん。シヴァルツくんは物知りね。じゃあ、当分はニッコリ草でお金を稼ぐしかないのかしら?」
ロレインちゃんは頷きながら今後の金策を考え出した。
「……そのことなんだけど……当分の間はじいちゃんの家に帰らない方がいいかもしれない。」
僕は声を小さくして告げる。
ミコトが誰かに連れられてきたのがじいちゃんの家の玄関の前だった。つまり、その場所は先ほどの白服の男たちに押さえられているかもしれないのだ。
もしかすると、僕たちの町を焼き払ったのは白服の男たちかもしれない。ミコトが町の近くにいるかもしれないと踏んで焼き払った可能性がある。
「……そうね。迂闊だったわ。でも、帰らないとしたらどこを拠点とする?この町は安全なのかしら?」
確かに白服の男たちは僕たちが今居るラルルラータの町に来ている。もしかしたらしばらく逗留するかもしれない。
「アルフレッドの魔法があれば、バレないはずだよ。」
白服の男たちは目の色を変えて白い髪の少女を探している。白い髪はとても目立つから、今のミコトの髪の色ならば探している髪の色とは違い目立たないからひとまずは大丈夫だろう。
「……灯台もと暗し。しばらくはラルルラータの町にいよう。今日冒険者ギルドに登録して明日にはこの町にいないというのは不自然だし。」
「……そうね。わかったわ。」
「アルフレッド、前にいった宿屋がいい。」
ミコトは前回ラルルラータに来たときに泊まった宿屋が気に入ったようだ。
確かにあの部屋を借りるのはちょうどいいかもしれない。別々に部屋を取るよりはいいし、自分たちで食事を作ることもできる。しばらくラルルラータの町にいるのであれば、あの宿屋に長期滞在してもいいかもしれない。
「そうだね。そこに行こうか。でも、じいちゃんの家にはしばらく帰れないからニッコリ草の採取は難しいね。少しギルドでの依頼を受けよう。でも、どれにしたらいいのか……。」
ラルルラータの町を拠点にするのであれば、ニッコリ草をじいちゃんの家に採りに行く訳にはいかない。この近くで採れる素材に切り替えた方がいいだろう。
だけれど、僕はこの辺りでどんな素材が採れるのか知らない。
「ちょっとあれだけど……マリリンさんにお勧めの依頼を紹介してもらうか……。」
僕たちはあまり気が乗らなかったが、もう一度マリリンさんのいる受付に戻ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます