第26話



「すみませーん。薬草の買い取りをお願いできますか?」


 僕たちはマリリンさんが教えてくれたギルドの奥まった場所にある素材買い取りカウンターにやってきた。


 まだ朝の早い時間帯だからだろうか、素材買い取りカウンターにはほとんど人がいなかった。この時間に素材買い取りに来る人は稀のようだ。


「ああ。さっきは大変だったな。マリリンは仕事はできるんだけどなぁ、無類の美少年好きなんだよ。最近は美少年ばかりが働いているっていうカフェに夢中でなぁ。だが、仕事は出来るし、相談にはちゃんとに乗ってくれるからな。どの依頼を受けるか迷った時はマリリンに聞くとちょうど良い感じの依頼を紹介してくれるぞ。ああ、薬草はこの台の上に出してくれ。」


 そう言って買い取りカウンターの髭モジャのおじさんは目の前にある台を指し示した。


「あはは。見てたんですね。買い取って欲しいのはニッコリ草なんです。」


 僕は髭モジャのおじさんが指し示した台の上に加工したニッコリ草を3束置く。


「ニッコリ草か。ああ、オレはルイーズアンと言う。これからよろしくな。おお。加工してあるのか。すごいな。」


 髭モジャのおじさん……もといルイーズアンさんが僕の出したニッコリ草を見て目を輝かせた。


「ええ。じいちゃんに加工の方法を教えてもらったんです。」


「うむうむ。とても丁寧に加工されているな。しかも、ニッコリ草の品質も良い。これなら1束銅貨8枚だあな。だが、きっと町の薬屋に持って行けばもうちょっと値がつくと思うぞ。そうだな……1束銅貨9枚にはなるだろうな。ひょっとすると銀貨1枚の買い取り価格をつけてくれるところもあるかもしれんぞ?」


 ルイーズアンさんはニッコリ草を丁寧に鑑定すると買い取り金額を教えてくれた。


 先ほど薬屋メーヴェルのお婆さんに教えてもらった金額はルイーズアンさんが言った価格とぴったり一致していた。というか、少しおまけしてくれた感じなのかな。


「そうなんですね。」


「ああ。とても良い腕をしているな。ギルドじゃなくて町の薬屋に売ってみたらどうだ?ギルドはどうしても買い取り量が多くなるからな。店に直接買い取ってもらうよりは安くなっちまうんだよ。3束くらいなら買い取ってくれる店もあるから行ってみたらどうだ?」


 ルイーズアンさんは親切に高く売った方がいいんじゃないかと提案してくれた。


「ありがとうございます。実は、ギルドに来る前に薬屋メーヴェルでニッコリ草3束を買い取ってもらったんです。」


「そうか。メーヴェルさんは親切なばあさんだからな。たまに薬草を持ってってくれ。あそこの薬は品質がとてもいいと評判なんだよ。ああ、でもメーヴェルさんのところはお勧めするが、中央広場のド派手な薬屋……ソルクラテルスには売りに行かない方がいいぞ。ギルドより安く買いたたかれるからな。とくにシュヴァルツくんみたいに若いと値切られやすいから気をつけろよ。」


 どうやらメーヴェルの薬屋は有名のようだ。やっぱりメーヴェルというのはあのお婆さんの名前のようだ。


「薬草はできるだけメーヴェルさんのところに売りに行くようにします。」


「そうだな。それがいい。それで、このニッコリ草はどうする?メーヴェルさんのところに売りに行くか?」


「いいえ。今回はここで売らせてください。一度にいっぱいメーヴェルさんのところに持って行っても、メーヴェルさん困ってしまうといけないので。」


「そうか。懸命な判断だな。まあ、メーヴェルさんとこは個人店だしな。薬の質がいいといっても大量に売れるわけじゃあないからな。」


 当初の予定通りギルドにはニッコリ草を3束買い取ってもらう。そして今後、もしかすると魔物を狩ることも出てくると思う。その時にどうしたらいいか尋ねることにした。


「あの……時間があれば教えて欲しいんですが、魔物を狩った時素材の買い取りをお願いするにはどうしたらいいんでしょうか?やっぱり必要な素材だけ解体して持ち込むのでしょうか?」


「ああ。おまえたち薬草の採取だけでなく魔物も狩る予定なのか?」


 ルイーズアンさんは、僕たちが魔物を狩ると言ったら驚いた顔をした。年齢からして、僕たちは魔物を狩ることがないと思ったのだろう。


「はい。と言っても薬草採取の時に出会った魔物だけの予定ですが。」


 だから僕はルイーズアンさんに説明をする。積極的に魔物を狩るわけではないことを。


「そうか。そうだな。薬草よりも魔物の素材の方が高く売れるからな。魔物はそのまま持ってきてくれて構わない。まあ、小型の魔物は持ってこれるだろうが大物は解体して素材だけ持ってくるって冒険者の方が多いがな。空間魔法が使える冒険者は大型の魔物を亜空間にしまって持ってくる奴もいるな。だが、空間魔法を使える冒険者なんてそうそういないけどな。」


「へぇー。空間魔法だなんて便利な魔法があるんですね。」


「まあな。解体する必要がないし荷物も軽くなるし、空間魔法が使える冒険者はどのパーティーにもひっぱりだこだな。おまえたちは空間魔法は使えるのか?」


 ルイーズアンさんに尋ねられるが、僕は魔法が使えないのだ。ミコトだったらもしかしたら、空間魔法くらい簡単に使っちゃうかもしれないけれど。でも、空間魔法が使えるだなんて言ったら、僕たちは目立ってしまうだろう。


「いいえ。魔法自体僕は使うことができません。」


「そうか。なら、魔物の解体方法を覚えるしかないな。魔物の解体はしたことがあるか?」


「いいえ。魔物の解体はしたことがありません。」


「なら、オレが教えてやるぜ!と言っても週に2回で、予約制だけどな。解体が苦手な冒険者向けに魔物の解体講座を開いているんだ。ちょうど今日これからあるんだが、どうだ?受講するか?」


 どうやら冒険者ギルドでは定期的に魔物の解体講座が開かれているらしい。しかも運がいいことに今日がその日だとか。


 あまりにもタイミングが良く、これはきっと神の思し召しだと二つ返事で頷くことにした。


「ロレインちゃん、アルフレッド、魔物の解体講座を受けてもいいかな?」


「私は異論はないわ。教えてくれるならありがたいわ。これから魔物を解体する機会があるかもしれないしね。」


「アルフレッド、問題ない。」


「ありがとう。二人の許可ももらえたので、ルイーズアンさん、是非、魔物の解体講座を受けさせてください。」


「おう!しっかり教えてやるからな!」


 こうして僕たちは2時間ほど、ギルドの魔物解体講座を受けることになったのだった。







「なんだか、騒がしいですね。この時間はいつもこんなに騒がしいんですか?」


 ギルドの奥の部屋で魔物の解体講座を受けて出てくると、なんだか冒険者ギルドの中が騒がしいような気がした。


「ああ、そうだな。いつもは騒がしくてもここまで騒がしいことなんてないのになぁ。なにがあったんだ。ああ、モリス!なにがあったんだ?」


 ルイーズアンさんが、近くを通りかかった眼鏡をかけたギルド職員のモリスさんを掴まえて尋ねる。


「ルイーズアンさん。解体講座は終わったんですか?」


「ああ。ちょうど今終わったんだ。で、部屋からでてきたら大騒ぎじゃないか。なにがあったんだ?」


「ちょうど今出て行ったんですが、全身白い服を着た見慣れない男たちがギルドにいる人全員に声をかけてまわっていたんですよ。」


 モリスさんは困ったような顔をしてルイーズアンさんに告げる。


 全身白い服を着た男……?


 なんだか、聞き覚えがあるようなないような。


 ふと、ミコトを見るとミコトの顔が少し青ざめているように見えた。


 ほんの僅かな表情の変化だったのでもしかしたら気のせいだったのかもしれないけれど。


「ほぅ。なんて声をかけていたんだ?宗教への勧誘か?」


 ルイーズアンさんは不審気に問いかけた。


「いいえ。人捜しです。白い髪と赤い目の少女を見ていないか、と。見つけた人にはお礼として金貨100万枚くれるというのですよ。だから、冒険者たちが目の色変えて騒いでいるんです。まったく、白い髪の少女なんて本当にいるんでしょうかね。珍しい髪の色ですよ。僕は産まれてから一度も白い髪の子になんて会ったことがない。ルイーズアンさんは会ったことがありますか?」


「白い髪に赤い目の少女……か。…………会ったことはないなぁ。白い髪っていったら老人くらいなものだろう。」


「そうですよね。だいたい白い髪だったら黒い髪と同じくらいに目立つというのに。」


「そうだな。それで金貨100万枚か。お金に困ってる奴は血眼になって探すだろうな。」


「そうですよね。でも、それだけ探されているということはその少女は犯罪者なんでしょうか?」


「違うだろ。どちらかというと、白い髪の珍しい少女を研究しようとしている研究員かなにかじゃねえか?白い服ってたって、白衣に見えたぞ?」


 ルイーズアンさんとモリスさんの話に、別の男性が割り込んでくる。


 白い髪に赤い目の少女……。


 僕たちはその特徴にぴったり一致している人物を知っている。きっと、ミコトのことではないのだろうか。


 そういえば、ミコトは真っ白な部屋の中で真っ白な服を着た大人たちに囲まれていたというような話をしていなかっただろうか。時期的にもちょうど会う。


 僕とロレインちゃんはお互いに顔を見合わせた。


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