第25話



「あらぁ。あなたもとても綺麗な顔をしているわねぇ。うふふふふ。ぜひあなたもコンカフェで働いてみない?」


 マリリンさんは今度はロレインちゃんに標的を移したようだ。


「……私は、けっこうです。」


「まあ、あなたは向いていないわよぉ。気が強そうだしぃ。そこまで顔は良くないじゃない。まぁ~普通よりちょっとうえ~な感じかしらぁ。あなたじゃなくってそっちのアルフレッド様のような男の子よぉ。とてもいいわぁ。線が細い感じがぁ病弱っぽくてぇ。加護欲を誘うっていうのぉ。とっても良いと思うの。是非、コンカフェで働いて欲しいわぁ。」


 ロレインちゃんに標的が移ったのかと思ったら、どうやらミコトが標的になったようだ。


 っていうか、やっぱりミコトはアルフレッドなんだな。ここでも。いや、確かにアルフレッドっぽいけどさ。なんというか。


「……アルフレッド、興味ない。興味ある、シヴァだけ。」


「まぁまぁまぁ。そういうコンセプトも嫌いじゃないわぁ。じゃあ、シヴァルツくんとアルフレッド様で一緒にいるだけでも充分人気がでると思うわぁ。そうよぉ。二人でコンカフェで働くといいわぁ。むしろぉ、マリリンがお店出してあげようかぁ?」


「……いらない。シヴァ、誰にも渡さない。」


「まぁまぁまぁ!!可愛いわぁ。とっても可愛いわぁ。いいわぁ。とってもいいわぁ。素敵。素敵ぃ~~~。ねぇ、今晩マリリンと一緒に食事に行きましょうよぉ。もっと、シヴァルツくんとアルフレッド様と一緒にいたいわぁ。……あいたっ!!」


 身を乗り出すように僕とミコトに誘いをかけるマリリンさん。


 なんだか怖い人につかまってしまった。今すぐにでも逃げ出したいけれど、ここで逃げ出してしまったら冒険者ギルドに登録できないからグッと我慢する。


 っていうか、いつまで我慢すればいいんだろう。と思ったところでマリリンさんの悲鳴が聞こえた。


「痛い痛い痛いってばぁ~。ギルマスゥ~やめてってばぁ~。」


「うるせぇ!そうやって見目の良い少年ばかり誘うなっ!!このショタコン女っ!!」


 ギルマスと呼ばれた壮年の男の人がマリリンさんの首根っこを持ち上げて僕たちから引き離した。


 どうやらマリリンさんは美少年が好きなようだ。常習犯みたいだ。


「なぁにぃよぉ~!ギルマスったらぁ、マリリンに相手されないからって怒ってるのぉ?でもぉ、マリリンは可愛い男の子の方が好きなのぉ。ギルマスは好みじゃないのでぇ、ごめんなさいなのよぉ。」


 マリリンさんは怒り心頭のギルマスさんに首根っこを掴まれて、ジタバタと藻掻きながら声をあげる。


 っていうか、そうじゃないと思う。ギルマスさんはマリリンさんが好きというよりかは……。


「だぁれぇがぁ!!おまえなんかみたいなショタコン女を好きになるかっ!!冗談も休み休み言えっ!!俺はちゃんとに仕事をしろって言いに来たんだよ!!さっきから見てれば仕事もせずに美少年をくどきやがって。こいつらは冒険者ギルドに登録に来たんだろう!!さっさと仕事をしやがれっ!!」


「ええええええーーーー。そんなぁ。こんな美少年を前に仕事なぁんてできませんよぉ。無理ですぅ。無理なんですぅ。だって、ギルマスだったら耐えられますかぁ?目の前にこぉんなに美味しそうな美少年が二人もいるんですよぉ~。黙って見てるわけにはいきませんっ!!」


「だぁかぁらぁ!!仕事しろって言ってんだよぉ!!」


 マリリンさんは強い。こんなに怒っているギルマスさんに向かって抵抗している。


 っていうか、どう見ても仕事中なんだからギルマスさんの言い分が正しいんだけど。


「えぇ~。だってぇ。むさい男ばっかの中にこんなに可愛い美少年が飛び込んできたんですよぉ。目の保養ですよぉ。仕事なんてしてられませんってばぁ。」


 どんなに怒鳴られてもマリリンさんはめげなかった。


「……減給金貨3枚。」


 ギルマスさんがボソッと呟いた。


「あっ、君ぃ。確かシュヴァルツくんだっけぇ?えっとぉ、冒険者登録に来たんだよねぇ。じゃあ、手続きをしようねぇ。まずはぁ、この書類に名前を書いてねぇ。」


 ギルマスさんが減給と言った瞬間にマリリンさんの顔つきと態度がかわった。


 商売用の作られた笑顔で僕たちに冒険者ギルドに登録する用紙を差し出して説明を始めたのだ。


 僕たちはマリリンさんのあまりの変わりようにビックリとするも、手続きがおこなわれるならいいかと深く考えないようにした。


 マリリンさんに言われたとおりに、書類に記入していく。といっても記入するのは名前や年齢、性別くらいだった。


「ええっとぉ。じゃあ、登録しますねぇ。登録はシヴァルツくんだけでいいのぉ?アルフレッド様はぁ?」


「あ、はい。お願いします。アルフレッドは登録しません。僕だけで大丈夫です。薬草を売るだけなら僕だけでいいですよね?」


「ん~。いいよぉ。でもぉ、アルフレッド様たちも登録しておけばぁ、魔物の討伐報酬とかもでるよぉ?あ、魔物討伐報酬にぃアルフレッド様が参加しても、冒険者登録してなかったら報酬はでないからねぇ。むしろぉ、一般人を巻き込んだことになってシヴァルツくんにペナルティが課せられる場合もあるから気をつけてねぇ。ほんとはねぇ、一緒に行動するなら皆冒険者登録しておいた方がいいわよぉ。偽名でも登録可能だからねぇ。どうする?」


 マリリンさんは以外にも親切に教えてくれた。


 一般人を巻き込むことは御法度とされているのか。知らなかった。じゃあ、じいちゃんは良いのだろうか?僕は冒険者登録してなかったのに、じいちゃんと魔物を狩ったりしてたんだけど。

 まあ、ギルドにバレなきゃいいって感じなのかな。


 でも、マリリンさんの言葉にはドキッとさせられた。


 偽名でも登録可能って。マリリンさんはどこまで見抜いているんだろう。


 見た目や言動にそぐわず意外とマリリンさんの観察眼は鋭いのかもしれない。


「……それなら、ロレインちゃんと……アルフレッドも冒険者登録しておきます。」


「ん~りょうかぁ~い。じゃあ、ロレインちゃんとアルフレッド様も書類を書いてねぇ。あ、ちなみに冒険者登録したらランクの低いうちは一ヶ月に一回はギルドに顔を出してねぇ。じゃないと冒険者登録が解除されちゃうから気をつけてねぇ。」


 ロレインちゃんとミコトがそれぞれ書類に書き込んでいる最中にマリリンさんは冒険者ギルドの注意事項を説明してきた。


 一ヶ月に一回の頻度ならギルドに顔を出すのは問題ないだろう。薬草だって頻繁に売りに来ないと生活できないし。


「わかりました。」


「んんとぉ~。冒険者としての登録はFランクからになりまぁす。最初はFランクから頑張って徐々にランクを上げていってねぇ。でもぉ、マリリンはあなたたちに死んで欲しくないからあまりランクを上げないで欲しいなぁ。Cランクからはギルドからの指名依頼が発生する場合があるからねぇ。Cランク以上は魔物との戦闘が必須条件になるしぃ。Dランクくらいで頑張るのが一番よぉ。」


「わかりました。元々採取した薬草を買い取っていただきたいだけなので、危険なことをする気はありません。」


「そぉ~?ならいいけどぉ。……はい、手続き完了よぉ。今日からあなたたちはFランクの冒険者です。当ギルドはあなたたちを歓迎いたします!」


 マリリンさんはそう言って僕たちにギルド証を手渡した。


「ありがとうございますっ!えっと、さっそくですが薬草を買い取っていただきたいのですが、どうしたら……?」


「素材の買い取りならあちらの買い取りカウンターでお願いしますねぇ。」


 そう言ってマリリンさんは少し離れた場所にある買い取りカウンターを指さした。


「ありがとうございます。」


「どういたしましてぇ~。高値がつくといいわねぇ。」


「はいっ!!」


 僕たちは冒険者登録を終えると、マリリンさんのいる受付カウンターを後にした。




◇◇◇◇◇


「冒険者ギルドに行ってみるか。」


「あそこなら人がいっぱいいるな。」


「そうだな。」


「サンプル001捜しの依頼をだしてもいいな。」


「ああ。そうだな。行ってみよう。」


 白服の男たちはサンプル001の情報を求めて冒険者ギルドにやってきたのだった。


「あそこが、冒険者ギルドか。」


「そうみたいだな。」


「人の出入りが多いな。」


「ああ。そうだな。だからこそ、サンプル001を知っているものがいるかもしれない。」


「さっそく入るぞ。」


 そうして白服の男たちは我先にと冒険者ギルドの門をくぐるのであった。


◇◇◇◇◇

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