第24話






「あ、あのっ……。薬草を売りに来ましたっ!!」


 強面のお兄さんに声をかけられて僕はビクッと身体を震わせた。


 あまり人と話したことがないため、大きな声と乱暴な言葉遣いが苦手なのだ。


「ああん?じゃあ、ボウズは冒険者なのか?そっちの綺麗な嬢ちゃんも、冒険者か?そっちの線の細いまるで僕はアルフレッドですって言うようなお坊ちゃんも冒険者なのか?」


 強面のお兄さんは僕たちが冒険者の装いじゃないのを見て、不思議に思ったようだった。


 というか、ミコトのことアルフレッドって。なんで偽名なのに当ててしまうんだろうか。


 いや、僕たちもミコトの男装姿見た時に「これは、アルフレッドだっ!!」って思ったくらいだし。仕方ない、か。


「あ、いえ。冒険者じゃありません。薬草を採取したので買い取っていただけないかなぁと思って……。あのっ……冒険者ギルドなら薬草の買い取りをしているって聞いたんです。どうすれば買い取っていただけるのか教えてもらえませんか?」


 僕は言いたいことを一気に言った。


 途中で強面のお兄さんがなにか言いたそうに口を開いたが、相手がしゃべる隙を与えずにいいたいことだけ喋る。じゃないと、コミュ障の僕は言いたいことを全部言えそうになかったからだ。


「あー。うん。そうだなぁ。まずは、冒険者ギルドで薬草を買い取るには冒険者登録が必要だ。冒険者登録をしないと、薬草は冒険者ギルドでは買い取って貰えない。薬草だけじゃない、魔物の素材も買い取って貰えないから、まずは受付で冒険者登録を済ませるといい。まあ、薬草を買い取りに出すくらいなら誰か一人が代表して冒険者として登録すればいいと思うぞ。詳しくは受付のマリリンさんに聞いてくれ。」


「あ、ありがとうございますっ!」


「ありがとうございます。」


「アルフレッド、ありがとう。シヴァ、役に立つ。」


 強面のお兄さんはその見た目とは反対に親切に教えてくれた。


 というか、冒険者登録しないと薬草は買い取ってもらえないのか。初めて知った。


 だから冒険者ギルドに入った時に「冒険者なのか?」って聞かれたのか。


 つまり、冒険者ギルドには冒険者以外が来ることはないから不思議に思ったってことだよな。


 僕たちは親切に教えてくれた強面のお兄さんにお礼を言うと教えてもらったマリリンさんという受付嬢のところに向かった。


「あの……。冒険者登録をしたいんですけど。冒険者登録に必要な手続きをおしえてもらえませんか?」


「あらぁ。かわいい~。冒険者になるのぉ?冒険者は、危ないからあまりお勧めしないよぉ。君は可愛いからきっと、コンカフェで働くといいよぉ。いっぱいお給料もらえると思うよぉ。」


 天然なのかクルクルとしたピンク色の巻き毛が特徴のマリリンさんは気だるそうに告げた。


 っていうか、仕事する気があるのかなぁ。この人。


 っていうか、コンカフェってなんだろう?初めて聞いた単語だ。あとで、ロレインちゃんにでも聞いてみようと。


「薬草を買い取ってもらいたいんです。そのために冒険者登録をしたいんです。」


「そうなのぉ。まあ、危ないことはしないでねぇ。マリリン、君みたいな可愛い子が危ない目にあったら泣いちゃうからねぇ。」


「あ、あはは。危ないことはしない予定です。あくまでも採取した薬草を買い取っていただきたいだけで……。」


「そうなのねぇ。まあ、いいわぁ。でも、薬草なんていくらにもならないわよぉ。それなら、やっぱりコンカフェで働いてみないかしらぁ?君なら可愛いからいいお給料がもらえるわよぉ。」


 マリリンさんは僕を執拗にコンカフェで働くように誘う。


 なんでだろう。っていうか、ほんとにコンカフェってなに?


「……コンカフェってなんですか?」


 冒険者になりたいのに、あまりにもコンカフェ、コンカフェと訳の分からない職業を勧められるのでマリリンさんに聞いてみる。


 その際チラッと後ろにいるロレインちゃんとミコトを見たが、二人ともコンカフェがなにかは知らなそうで首を傾げている。


「コンカフェはぁ……とってもいいところよ。マリリン、君がコンカフェにいたら一番に指名してあげるわぁ。いっぱいいっぱい稼がせてあげるからねぇ。」


「……指名?」


「そうよぉ。指名が入るとねぇ、君の手取りのお給料がすこぉ~し高くなるのよぉ。それでぇ~私は君と一緒にお茶をするのぉ。いいでしょ?私とお茶を飲むだけで君はお金を貰えるのよぉ~。」


 マリリンさんの説明はなんだかよくわからなかった。


 一緒にお茶を飲むだけでお金がもらえるってなんなんだろう。よくわかんない。


「ごめんなさい。僕にはよくわかりません。とりあえず手持ちの薬草を売りたいので冒険者登録をさせていただけませんか?」


「そうなのぉ。コンカフェで働けばいいのにぃ。君になら沢山貢いでもいいのよぉ。」


「えっと、今は冒険者登録を……。」


「そうなのぉ。でもなぁ。やっぱり、君はコンカフェで働くべきだと思うの。私の感が告げているのよぉ。君はすぐに売れっ子になるって。だから、コンカフェで働きましょうよぉ?」


「えっと、僕は冒険者登録を……。」


「冒険者なんてぇ。ムサイ男ばっかりじゃなぁい。君みたいな可愛い子はやっぱりコンカフェで働くといいと思うのぉ。」


「でも、今は薬草を買い取っていただきたいので……。冒険者登録を……。」


「ええええー。ざーんーねーんー。マリリンはぁ、君にはコンカフェがあっていると思ったのにぃ~。」


 もうどうしたらいいのかわからない。


 さっきから堂々巡りなんだけれども。


「……あの、シュヴァルツくんは冒険者登録に来たんです。コンカフェの話はあとで聞きますから……。」


 後ろで僕とマリリンさんのやり取りを見ていたロレインちゃんがしびれを切らしたようで僕たちの会話に割って入ってきた。


 僕はロレインちゃんが会話に入ってきたことにホッとため息をついた。






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