第23話
「……薬草を採取したはいいけど、いくらぐらいになるんだろう?ロレインちゃん、薬草の値段って知ってる?」
僕は加工した薬草を見ながらロレインちゃんに聞いてみる。
僕は薬草の採取と加工はしたことがあるが、薬草を買い取ってもらったことは一度もないのだ。
町に行くと忌み子だって言われてまともに取り合ってもらえないから。いつも薬草の売買はじいちゃんがしていたんだ。そのじいちゃんに販売価格を教えてもらっていないのだから、僕が薬草を売ったところで実はいくらになるのか見当もつかないのだ。
「……ごめんなさい。私も薬草の売買には詳しくないの。薬草を使って作られた薬を買ったことはあるけれど、材料になっている薬草の種類も知らないし、どのくらいの値段で薬草を仕入れているかも知らないわ。それに、これらが薬草だってことをシヴァルツくんから教えてもらうまで全然知らなかったくらいだし……。」
ロレインちゃんは申し訳なさそうに答えた。
まあ、確かに考えてみれば普通の人が薬草についての知識を持っていることはあまりないだろう。ロレインちゃんが知らないのも仕方のないことだ。
「ううん。ありがとう。この薬草でしばらく宿代が浮けばいいんだけど……。」
「そうねぇ。ちょっと不安よね。ラルルラータの町付近で魔物でも仕留める?魔物の肉だったらいくらくらいになるか目安がわかるわ。と言っても私が知っているのは町での魔物肉の販売価格くらいだけどね。」
「そうだね。それはいいかも。お金はいくらあってもいいし。」
「ミコト、頑張る。」
「あれ?でも、解体はどうするの?魔物一匹持って歩くのは大変だよ?」
「そ、そうね……。そう言えば私、解体したことないわ。」
「ミコト、解体、ない。」
「僕も無いよ。」
良い案だとは思ったが、魔物を倒しても解体したことは誰もなかった。
僕も倒した魔物はじいちゃんがどうにかしていたから気にしたこともなかったというのが事実だ。
じいちゃんに教わっておけばよかったなぁ。魔物の解体方法。
冒険者になれば、魔物を解体して素材集めたり売ったりして生活しなきゃならなかったのに。僕としたことがうっかりしていた。
「……魔物の件は、薬草の買い取り金額次第にしましょうか。」
「そうだね。」
「ミコト、わかった。」
そういうことになった。
そんな話をしているうちに、ラルルラータの町の門が見えてきた。
ちなみに僕たちの町からラルルラータの町に着くまで魔物には一切で合わなかった。きっとミコトがいるからだろう。そもそも魔物が出てこないんだから、魔物を討伐して解体しようだなんて無理な話だった。
宿に部屋を取るにしても手持ちのお金では宿代が足りないので、先に薬草を売ることにした。
薬草を売るには冒険者ギルドで買い取ってもらうか、薬草を必要としている薬師に売るか、薬草を取扱っている商人に買い取ってもらうかの三択だ。
正直、薬草の適正価格を知らない僕たちは相手の恰好のカモになることは間違いない。
というわけで、加工した薬草は一度に売らずに販売相手を変えながら少しずつ売って行くことにした。
まず最初に目を付けたのはラルルラータの町に入ったところにこじんまりとした店を構えている薬屋だ。シンプルながらも清潔な佇まいが正統な薬屋として繁盛してそうな感じがした。
こういうところなら、正規の値段で買い取ってもらえるのではないかと思ったのだ。
「こんにちはー。」
「こんにちは。」
「アルフレッド、来た。」
できるだけ好印象を持ってもらえるようににこやかに挨拶をする。
ミコトはここではアルフレッドと名乗っている。
「ああ。いらっしゃい。」
僕たちを待っていたのは白髪の優しそうなお婆さんだった。
「子供たちだけで珍しいね。どうかしたのかい?」
「えっと、薬草を買い取っていただけないかと思いまして……。」
僕は鞄から加工した薬草の束を三束取り出して、お婆さんに見えるようにカウンターに置いた。
「そうかいそうかい。でも、薬草はただ採取すればいいってわけじゃないからね。葉っぱが必要だったり、根が必要だったり。薬草の種類によっても異なる。だからあなた達が持ってきた薬草を必ず買い取れるわけじゃないってことは理解しておいてちょうだい。じゃあ、持ってきた薬草を見せてもらうよ。」
お婆さんは前置きをしてから、僕たちが採取して加工した薬草を手に取った。そして、大きく目を見開く。
「こ、これは……。」
「あ、あの……。どうしたんですか?」
お婆さんの驚きようにどうしたのだろうかと心配になる。加工の方法が間違っていたのか。それとも、僕が薬草だと思っていたのはそもそも一般的な薬草ではなかったのだろうか。
なんだか、手のひらに汗をかいてきてしまった。べたべたして気持ちが悪い。
喉も乾いてきてしまった。
悪いことをしているわけじゃないのに、薬草を買い取ってもらうなんて初めてのことだから緊張してしまう。
「……すごいわねぇ。これだけ上手に薬草を加工しているだなんてとてもすごいわ。これならすぐにでも薬として調合することができるわ。しかもとても良い品質の薬草だわ。最近、こんな高品質の薬草手に入らなくなってしまったから探していたのよ。」
「そ、そうだったんですか。よかったぁ。」
お婆さんの喜びように僕たちは安堵のため息をついた。
ロレインちゃんも僕と同じでホッとした顔をしている。
ミコトは……よくわかっていないようにも思えるがなんだか嬉しそうに見える。
「こうやって直接売りに来るのは初めてなのかしら?」
「は、はい。今まではじいちゃんが売りに行ってたんですけど……急に帰ってこなくなってしまって……。」
このお婆さんなら大丈夫かもと思い、じいちゃんの代わりに売りに来たということを話した。
「あらあら。大変だったのね。おじい様もこんな可愛らしいお孫さんたちを残してどこに行ってしまったのかしらねぇ。」
お婆さんは顔色を曇らせた。
僕たちのことを心配してくれているようだ。
「……買い物をしに隣町まで行ってすぐに帰ってくるって言ってたのに……。じいちゃん……。」
僕は思わず涙ぐんでしまった。
ダメだな。
やっぱりじいちゃんの話題を出すとどうしても涙がでてきてしまう。
もっと強くならなきゃいけないのに。
「あらあら。思い出して泣けてきちゃったのね。こっちに来て座ってちょうだい。今、ハーブティーを淹れてあげるわ。」
「す、すみませんっ。」
「……ありがとうございます。」
「アルフレッド、ありがとう。」
僕たちはお婆さんが用意してくれた椅子に座ってお婆さんが丁寧に淹れてくれたハーブティーを飲んだ。
優しい味が口の中に広がっていく。
それとともに、気分も落ち着いてくるのを感じた。
なんだかとても不思議なハーブティーだ。
「ふふふ。少し落ち着いたかしら。ごめんなさいね。余計なことを言ってしまって……。」
お婆さんはほんわかとした笑顔を浮かべて僕たちに謝罪した。
「いいえ。気にしないでください。勝手に泣き出してしまった僕がいけないんです。」
「そうです。お婆さんは悪くありません。私たちの気持ちの整理がついていなかったのがいけないんです。」
「まだまだ子供なんだから甘えていていいのよ。薬草だけどね。私が加工する手間を省くことができたし、とても状態がいいから1束銀貨1枚で買い取らせてもらえないかしら?あと、他にも薬草があるならそれも買い取るわ。」
お婆さんは薬草1束銀貨1枚と交換はどうかと提案してきた。正直高いのか安いのかもわからない。
「あの……実は薬草の適正価格がわからないんです。いつもはじいちゃんが売りに行ってたから。適正価格がいくらなのかわからないんです。」
僕はそう正直に話した。
「そうだったの。じゃあ、正直なところを教えるわね。この薬草の名前は知っているかしら?」
「……じいちゃんはニッコリ草って言ってた。」
僕はじいちゃんから教えてもらった名前を答えた。
採取した薬草については名前を一通りじいちゃんから教えてもらっている。
「そう。よく知っていたわね。えらいわ。じゃあ、ニッコリ草の効能は知っているかしら?」
「は、はいっ。元気になるって言ってました。」
「そうね。そうね。元気になるのよ。それにね、とても楽しい気分にもなるのよ。」
お婆さんは嬉しそうに告げる。
「じゃあ、どんな薬に使われるのかは知っているかしら?」
「……そこまでは、じいちゃん教えてくれなかったです。」
「そう。そうなのね。うふふ。滋養強壮剤になるのよ。とても人気の高いお薬なのよ。だからニッコリ草はいくらあっても足りないのよ。」
「そうなんですね。」
「そうなのね。知らなかったわ。」
「アルフレッド、ニッコリ草、覚えた。」
お婆ちゃんとの会話は勉強になる。
じいちゃんが教えてくれなかったことまで教えてくれる。
「だからね。普通のニッコリ草は銅貨5枚が買い取り価格になるの。それでね、あなたたちが持ってきてくれたニッコリ草はとても状態が良いから銅貨6枚ってとこね。」
「えっ!?じゃあ、銀貨1枚は貰いすぎってことですよね??」
お婆さんの話を聞くとニッコリ草1束銀貨1枚は高すぎるような気がした。
「いいえ。あなた達が持ってきてくれたニッコリ草はちゃんとに加工されていたわ。薬草の加工ってね。手間暇かかるの。知っているでしょう?」
「ええ。はい。」
「そうね。私は初めてだったから加工に手間取ったわ。」
「アルフレッド、出来た。」
うん。確かにミコトは教えたことをすんなり理解できたのかとても手際がよかった。じいちゃんに教えてもらって小さい頃から薬草を加工してきた僕よりも手際がよかったくらいだ。
反対にロレインちゃんは小さい頃の僕を見ているようだった。
「そうね。それに知識がないと加工ができないの。だからね。加工賃として銅貨4枚追加しているのよ。」
「えっ!?加工ってそんなにするんですかっ!?」
僕は驚いてしまった。
薬草の値段とほぼ同じくらい加工することでお金を得ることができるのだから。
「ええ。そうよ。実際、薬草を採取するより加工する方が大変だったでしょう?」
「はい。確かに薬草を採取する倍の時間がかかりました。」
「そうでしょう。だから、その分の値段なのよ。」
「はい。わかりました。教えてくれてありがとうございました。」
「とても勉強になりました。」
「ああ。そうだわ。薬草だったら私が買えるけれど同じものを一度に持ってこられてしまうと少し困ってしまうの。私みたいな個人のお店だと売れる薬の量も限られてしまうから。」
お婆さんは申し訳なさそうに告げた。
それもそうだろう。こうして長時間お婆さんと話していたのに、お客は一人も来ていないのだから。
「薬屋というものは人がいっぱいくれば良いというわけではないからね。病気にならないことが一番なのよ。」
「はい。わかりました。もしいっぱい薬草が採れた時は他もあたってみます。」
「そうね。そうしてちょうだい。ラルルラータの町だと、薬屋は私のところと中央広場に2軒あるわ。でも、中央広場の派手な薬屋はあまりお勧めはしないわね。薬草を買いたたいて仕入れるのに、薬の質は悪いって聞くから。あとは、商業ギルドや冒険者ギルドに掛け合うのも手よ。ただどちらも冒険者登録か、商業ギルドへ登録する必要があるからね。どちらも買い取りにちょっとした条件があるみたいだから、詳しくは冒険者ギルドと商業ギルドに聞いてみるといいわ。」
お婆さんは最後にそう教えてくれた。
ほんと親切なお婆さんに最初に会えてよかった。
「ありがとうございます。」
「お婆さん。ありがとうございます。」
そうして僕たちはお婆さんの薬屋を後にした。
ちなみにお婆さんの薬屋の名前は「薬屋メーヴェル」だった。
もしかして、メーヴェルというのはお婆さんの名前だろうか。
こうして僕たちは薬草の代価として銀貨3枚を手に入れたのだった。
ただ、これだけだと心許ない。宿屋に泊まったらすぐになくなってしまうだろう。それにすぐにまたお婆さんに追加で薬草を買い取ってもらうのも気が引けた。
そこで、お婆さんに教えてもらった冒険者ギルドに顔を出してみることにした。もしかしたら魔物の解体の仕方とか教えてくれるかもしれないし。
「こんにちは。」
僕たちは町の中心部に位置する冒険者ギルドの門をくぐった。
「なんだ?ボウズ?綺麗な嬢ちゃん連れてギルドなんかになんのようだよ?」
僕たちを迎えでたのは、ガタイが良く強面の冒険者のお兄さんだった。
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