第21話






 森に入ってすぐにブラックベアーに遭遇した後は、魔物に出会う事がないまま先に進むことができた。


 塀から離れないように塀を伝って進んでいく。


 常に警戒は怠らないようにしているが、魔物の気配もないようだ。


 ミコトがいるからだろうか。


 ミコトがなんらかの魔法で魔物を近づけないようにしているのだろうか。


「……魔物、出てこないわねぇ。」


「そうですね。気配も感じられません。」


「殺生、無意味、不要。魔物、知ってる。魔物、ミコト、勝てない。」


 ミコトは無表情なまま前を見据えながら進む。


 ミコトの言葉は単語ばかりを繋げたものなので時々意味がよくわからない。


 この場合は、「魔物はミコトに勝つことができない。」のだろうか。それとも、「魔物にミコトは勝てない。」のだろうか。


 どちらなのかは言葉から判断することは難しそうだ。


 だが、最初に出てきたブラックベアー以外の魔物が現れないことからするに前者なのかもしれない。


 すなわち、ブラックベアーはミコトに勝てない。ということ。


 つまり、ミコトはブラックベアーよりも強いということだろうか。見た目からは全然想像できないが、きっとそういうことなのだろう。


「ここだ。ここにラルルラータの町に入る入口があったはずだ。」


「そうね。塀以外は見覚えのある風景ね。」


 なにもないままただ塀に沿って歩いていると、不意に森が開けた。そうして、見覚えのある景色が辺りに広がる。


 僕たちの町へと続く街道は残っていた。不自然に塀で途切れてはいたが。


「シヴァ、じいちゃんの家、あっち。」


「ああ。そうだ。じいちゃんの家に戻ることができる。」


「そうね。よかったわ。でも、この先は死の森と呼ばれているみたいなのよ。ブラックベアーよりも強い魔物が出たりするのかしら。」


 ロレインちゃんは不安そうに僕たちの町へと続く街道を見た。


「わからない。もしかしたら噂話だけなのかもしれない。でも、本当に強い魔物がいるのかもしれない。今はまだわからないよ。行ってみないと。」


 僕たちはそうしてミコトに守られるようにして、じいちゃんの家に続く道を進むのであった。


 


 


◇◇◇◇◇




「……おかしいな。」


「ああ。ゼウスラータの町がなくなってるな。」


「綺麗に燃え尽きてやがる。」


「サンプル001はどこだ?」


 白服の男たちがやってきたゼウスラータの町は全て灰になっていた。建物も人もなにもない。すべてが燃やし尽くされていた。


「サンプル001の情報は残っているか。魔力の残滓はどこかに残っているか。」


 白服の男たちは慌ててゼウスラータの町を捜索し始める。だが、どこにもなにもない。


 すべてが燃やし尽くされていた。


「くそっ!!なにもないじゃないかっ!!」


「くそっ!!これじゃあ、サンプル001の居場所もわからないじゃないかっ!!」


「誰だ。誰が燃やした。」


「誰がサンプル001の痕跡を燃やしたんだ。跡形もなく。」


 男たちは混乱していた。


 ゼウスラータの町にくればサンプル001を見つけることができると思っていたのだ。だが、目の前に広がるのは燃やし尽くされた建物ばかりだ。


「サンプル001は、死んだのか?」


「サンプル001も燃やされたのか?」


「サンプル001はもうこの世にいないのか?」


 白服の男たちの顔が絶望に染まる。


 サンプル001こそが至高。彼らが求めていたのはサンプル001だったのだ。


 それ以外のサンプル体は彼らにとっては出来損ないもいいところだった。何をとってもサンプル001が一番すぐれていたのだ。


「……そんな、ばかな。サンプル001がそんなに簡単にやられるわけがない。」


「そうだ。そうだ。サンプル001は全盛期のスサノオ様に引けを取らない魔力を持っているんだ。簡単に燃やされるわけがない。簡単に死ぬわけがない。」


「そうだ。サンプル001は生きているはずだ。」


 サンプル001の保有する魔力が甚大だった。


 彼らの崇拝する伝説のスサノオと同じくらいの魔力を持つ彼らが造り上げた逸材なのだ。


 だから、簡単に死ぬはずがない。


 彼らはそう思い至った。


 だが、同時にゼウスラータがどんな町だったのかも思い出した。


「……まさか、ゼウスの怒りを買ったのか?」


「……っ。」


「……ゼウスの怒り。スサノオ様と互角に戦ったというあの伝説の……。」


「いや。ゼウスが生きているわけがない。ゼウスはスサノオ様よりも永い時を生きていたんだぞ。もう生きているはずがない。それに、生きているだなんて噂はきいたことがない。」


「だが、死んだという話もきいたことがない。ゼウスの伝承はいくつも残っているが封印されたり、死んだという伝承は残っていない。」


「ではゼウスは生きている?」


「可能性はある。」


「そうだな。ここはゼウスが作った町、ゼウスラータだもんな。町人に紛れて生きていたのか?」


「まて。もしそうだとすると、ゼウスが町ごとサンプル001を焼き尽くしたのか?そんなばかな……。」


「そうだ。いくらゼウスとはいえ、無害な町人を焼き尽くすなど……。」


「いや、わからんではないか。歪な存在のサンプル001を始末するために全てを焼き尽くしたのかもしれん。」


 白服の男たちはの顔は再度絶望の色をおびた。


 いかに魔力に秀でているサンプル001でも数百年、数千年を生きているゼウスにとっては赤子同然だ。いくら魔力を持っていても知恵や魔力の使い方は長年生きているゼウスの方が秀でているのは明らかだ。


 つまり、白服の男たちの中でサンプル001はゼウスに敗北したとの思いが強まった。


「くっ……。こんなところで!!あと一歩のところで!!」


「……ラルルラータの町。ラルルラータの町で情報を探そう。」


「そうかっ!ラルルラータの町はゼウスラータの町から一番近い。ゼウスから逃れられた人間が逃げ延びているかもしれない。よし!ラルルラータの町に行こう!!」


「そうだな!!すぐに行こう。サンプル001の手がかりを探しに!!」


「ああ。そうしよう!!」


 白服の男たちは慌ただしくゼウスラータの町を後にした。




◇◇◇◇◇




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