第20話
ミコトは大丈夫だというけれど、と心配になりながらもミコトの意見に乗っかることにした。
もしかしたら死の森だなんて嘘かもしれない。
もしかしたらじいちゃんの家まですぐに帰れるかもしれない。
やはり一度はじいちゃんの家に帰りたい。もしかしたら、じいちゃんが帰って来ているかもしれないし。
それに、じいちゃんが帰って来たときのために書置きも残しておきたい。
そんな思いからミコトの意見に反対することはできなかった。
ロレインちゃんも不安は感じているがやはり僕たちの町が誰にも知られていないという事実に打ちのめされている感はあり、自分たちの町が存在したということを確かめたいみたいで強い反対はなかった。
「……行ってみましょう。でも、危ないと思ったらすぐに引き返すのよ。これは、譲れないわ。」
「ミコト、大丈夫。シヴァ、ロレイン、守る。」
「……僕もミコトとロレインちゃんのことは守ってみせるから。」
そう言う事になった。
でも事前準備はした方がいい。もうほとんどお金もないけど、携帯食料と回復薬くらいは買っておこうという話に落ち着いた。
「おはようございます。」
「おはよう。ミコト、ロレインちゃん。」
「おはよう。」
朝になって顔を合わせると挨拶をして黙々と朝食の準備をする。
朝の挨拶以外何もしゃべらずに黙々と食事をして部屋を経つ。
もし僕たちの村が跡形もなくなっていたら?
じいちゃんの家が跡形もなくなっていたら?
そう思うと食事も喉を通らなかったし、会話もできなかった。
やっぱり不安なのである。
「うん。行こうか。まずはメルルラータの町に行く出口からでよう。それがきっと一番近いだろう。」
「……塀、登る。」
ミコトは塀を登った方が早いだろうと言っている。
でも、それは僕とロレインちゃんが全力で拒否した。
塀を超えたら魔物の群れがいました。とかなったらすぐにゲームオーバーだからだ。それに、塀を超えるなんて目立つし。
魔物から守るために塀が立っているんだから、超えようとしたらなんらかの魔法が発動しても嫌だし。
「焦らず行こうね。焦りは禁物だから。」
そういうことになった。
僕たちはメルルラータの町に行く出口を抜ける。ここまではなんの問題もない。後は、僕たちの村の方角に塀伝いに歩いて行くだけだ。
ここまではとても簡単だった。塀伝いに歩いて行けばいいのだから。
200メートルほど行くと木々が生い茂る森が見えてきた。
ここからは塀伝いに森を抜けないといけないらしい。森に入ると魔物の数も増える。
「魔物が出るかもしれないから、注意してね。」
「うん。」
「わかった。」
僕はじいちゃんに貰った武器をいつでも抜けるように装備し直した。
そして森に一歩足を踏み入れると巨大なクマ型のモンスターが目の前に現れた。
「うそっ!いきなりっ!!」
「これはっ!?ブラックベアー!?A級ランクの魔物じゃないかっ!?」
駆け出しの僕は魔物の名前も等級も知っている。
目の前にいるのは紛れもないブラックベアーでAランクの魔物だ。僕じゃ到底かなわないほどの大物だ。
「うっ……。想定外だわ!私たちの町の周りにはDランクの魔物しかいなかったのにっ!!」
「……これは、撤退するしかないよね。」
「そうね。危ないわ。でも、簡単に撤退を許してくれるかどうか……。」
僕とロレインちゃんは逃げる算段を始める。
でも、ミコトはジッとブラックベアーを見つめていた。そして、
「……えっ?」
「……ええっ!?」
驚くべきことにブラックベアーが僕たちに背を向けた。
そうして、森の奥深くに入っていく。
「ミコト、大丈夫。先、進む。」
ミコトはそう言って更に森の奥へと入って行こうとする。
僕とロレインちゃんはいきなりであったブラックベアーに驚きを隠せず、どうしても恐怖心の方が勝ってしまう。
「で、でも……。またブラックベアーが出てきたら……。」
「そ、そうよ。ミコトちゃん。引き返しましょう。無理よ。ブラックベアーは私たちには倒せないわ。」
「ミコト、大丈夫。ブラックベアー、気にしない。」
「いや。ミコト……。そういう話じゃ……。」
「ミコト、大丈夫。じいちゃんの家、向かう。」
ミコトは赤い目をキラキラと光らせる。いつも以上に煌めている赤い目はとても綺麗だったが、同時にどこか底知れぬ怖さをも感じた。
「ミコト、じいちゃんの家、行く。大丈夫。行く。」
僕とロレインちゃんは力任せにミコトのことを引っ張っていこうとしたが、ミコトはどんな力があるのかと思うほどビクともしなかった。
それならば、抱きかかえてしまおうかと思ったが、ミコトの身体は僕たち二人がかりでも持ち上げることができないほど重かった。
でも、だからと言ってミコトをここに置き去りにするわけにはいかない。
つまり、僕とロレインちゃんにはミコトについていくしか選択肢は用意されていなかった。
「わかったよ。ミコト、一緒に行こう。」
「ミコトちゃん待ってちょうだい。私も一緒に行くわ。」
僕たちはこうしてAランクの魔物が出る森に足を踏み入れたのだった。
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