第14話




◇◇◇◇◇




「シヴァ、髪の色、嫌われる。シヴァ、危険。」


「ミコト、髪の色、目立つ。シヴァ、危険。」


 ミコトはロレインとシヴァの会話をしっかりと聞いていた。そして、シヴァとロレインが問題としていることについてちゃんとに理解していた。


 ブツブツと呟きながら、ミコトはまだ誰も見たことのない魔力式を練り上げていく。ミコトにしかできない新しい魔法の作成。


 新しい魔力式を作成するためには、膨大な魔力が必要だった。それも、全属性に精通している魔力が必要だ。


 全属性に精通している魔力の持ち主は何人かは現存しているが、膨大な魔力を持つ者は絶えて久しい。現存しているのはミコトしかいない。


「シヴァ、髪の色、金色。ミコト、髪の色、シヴァ、同じ。」


 ブツブツと呟きながら魔力の流れを全身で感じると、右手に魔力を集めていく。


「シヴァ、ミコト、髪の色、金色。変わる。変わる。変わる。」


「シヴァ、ミコト、変わる。期限、一年。変わる。」


 ミコトの赤い目が魔力をおびて金色になっていく。髪も魔力をおびて金色に変わっていく。




◇◇◇◇◇




「えええええっ!?」


 ロレインちゃんと話していると、突然ロレインちゃんが驚いたような声を上げた。そうして、後ずさりしながら、僕を指さす。僕、というよりかは、僕の頭かな?


「どうしたの?ロレインちゃん。」


 なぜ、なにもしていないのに急にロレインちゃんが驚きはじめたんだろうと不思議に思い、尋ねる。


「えっ、あっ……あっ……あり得ないっ。なに!?なんでっ!?なんでっ!?……シヴァルツくんの髪の色が……。髪が……。」


「僕の、髪がどうしたの?」


 ロレインちゃんの言葉に僕は近くにあった鏡で自分の顔を見た。


 そして、目を瞠った。


「僕の……髪が、黒じゃ……ない。……金色?え?なんで??どうなってるんだ??」


 僕はロレインちゃんと同じように混乱する。髪の色が変わるなんてありえない。聞いたこともない。しかも、こんなに突然変わってしまうなんてあり得ない。


 髪を染めるための薬があることは知っていた。じいちゃんが、その薬を取り寄せたことも知っている。でも、髪を染める薬は髪が黒い僕には効果がなかった。じいちゃんのように真っ白な髪だったら多少の効果はあったが、黒い髪にはまったく効果がなかったのだ。


 それなのに、今の僕の髪は金色になっている。


 髪を染めるための薬を使ったわけじゃない。ロレインちゃんと話していただけなのに、だ。


「うまく、できた。シヴァ、褒める。」


 混乱している僕たちの前に、ミコトがやってきた。


 ……ミコト、だよな?


 ミコトの白い髪が見事な金髪になっている。真っ白な肌に金髪がとても映えており、まるでどこかのおとぎ話に出てくる精霊のように見えた。


「……ミコト、なのか?」


「……ミコトちゃん、なの?」


「ミコト。シヴァとミコト、魔法。髪の色。金色。」


 ミコトは頷いて、魔法で僕とミコトの髪の色を変えたことを教えてくれた。


 ミコトはなんでもないことのように言っているが、魔法で髪の色を変えるなんて僕は聞いたことがない。魔法に精通していたじいちゃんでさえ、僕に髪の色を変える魔法を使ったことがないから知らないと思う。


「……聞いたことがないわ。髪の色が変わるような魔法なんて……。」


 ロレインちゃんも知らなかったようで驚きに目を瞠っている。


「魔法。簡単。ミコト。ほめて。」


 ミコトは魔法を使うことが簡単だという。でも、そんなに簡単なら、なぜじいちゃんは僕に魔法をかけなかったのだろうか。じいちゃんが僕に髪の色が変わる魔法をかけてくれたなら、僕はじいちゃんの代わりに堂々と町に日用品や食料品の買い物に行けたのに。


 それに、じいちゃんだって黒髪の僕を育てているだなんて頭がおかしいんじゃないかっていう嫌味だって言われなくて済んだのに。


「……ミコトちゃん。ミコトちゃんにとっては、魔法を使うのはとっても簡単なのかもしれない。でも、普通の人にとっては、魔法を使うことはとても難しいのよ。小指サイズの火を出すくらいが普通はやっとなのよ。それ以上の魔法の素質のある人は王宮に召し抱えられているわ。それだけ魔法を自由自在に使うのってすごいことなの。」


「……ミコト、すごい。ほめて。」


 ロレインちゃんがミコトを諭すように優しく魔法について教えている。


 僕は、じいちゃん以外の人とはほとんど交流がなかった。魔法についても、じいちゃんが使っていたから知っていたが、僕自身は使ったこともないはずだし、使い方もわからないはずだ。


 魔法についてじいちゃんに聞いても、「魔法を使うには魔法に対する適正が必要なのじゃ。よって、シヴァルツには使えないのぉ」としか教えてくれなかった記憶が微かにある。


 だから、魔法を使えることがすごいことだなんて思いもしなかった。


「ミコト。すごいじゃん!とってもすごい!ありがとう。ありがとう。ミコト!!」


 僕はミコトが魔法を使えることに素直に喜んだ。


 でも、ロレインちゃんはどこか浮かない表情だった。


「そうね。ミコトちゃんは魔法が使えてとても素晴らしいわ。シヴァルツくんの髪の色も、ミコトちゃんの髪の色も、隣町に行くにはとてもとても助かるわ。……でもね、ミコトちゃん。魔法を自由自在に使える人はとても稀なの。だから、不用意に魔法を使うとミコトちゃんは目をつけられて攫われてしまうかもしれないわ。だから、私と約束して。今度から魔法を使う場合は事前に私に教えて頂戴。その時の状況によって魔法を使ってもいいか判断するから。」


「……ミコト、魔法使える、とてもすごい。でも、危険。魔法、勝手に使わない。わかった。」


 ロレインちゃんの必死な様子がミコトにも伝わったようで、ミコトはロレインちゃんの言葉にコクリと頷いた。


 どうやら、ミコトが魔法を使えることは喜ばしいだけではないようだ。


 もしかして、ミコトは魔法が自由自在に使えるからどこかに隔離されていたのだろうか。もしくは、魔法を使える子供だけを集めた施設があったとか?


 もしそうだとするならば、ミコトが魔法を使えることはロレインちゃん以外には知られない方がいいだろう。


「ミコトはとても偉いね。ありがとう。」


「ありがとう。ミコトちゃん。とても頼りにしているわ。」


 ただ、僕とミコトの髪の色についてはこのままにしておく。その方が3人で生きていくには都合がいいからだ。ミコトのこともカモフラージュになるし。


 いつ、魔法が解けるのかをミコトに確認したら「1年後」とのことだった。


 1年も持続する魔法ってもしかしなくても、すごいんじゃないだろうか。ロレインちゃんが目を見開いていたのでそう思った。




 そうして僕たちは慣れ親しんだじいちゃんの家を出て、隣町のラルルラータ町に向かうのだった。










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