第13話
ミコトとロレインちゃんと僕の3人で生活し始めてから数日がたった。
結局、じいちゃんの行方はわからないままだ。もちろん、町の生存者も以前不明のままだ。きっと、町の人たちは全員亡くなっているのだろう。燃え盛る炎で焼かれてしまったため、ほぼ遺体は性別もわからないほど炭になっていた。誰が亡くなって、誰が生存しているのかも遺体は生前の面影がないほど崩れており見分けがつかない。
遺体の数も100を超えた辺りで数えるのを止めてしまった。
ロレインちゃんと僕はミコトを家に残して毎日町へと通った。町の人たちの遺体を埋葬するためだ。二人だけの作業。しかも、ロレインちゃんは女性だし、僕はまだ子供と言っていい年齢。思うように埋葬することが出来ず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。
その間、隣町の人や商人が町に来るかと期待していたが、不思議なことに誰一人、町に立ち寄る人はいなかった。
「……そろそろ食料がなくなりそうだね。」
「そうねぇ。野菜は庭で作ってたみたいだからまだ大丈夫だけど、パンはもうないし、パンを焼くための小麦も底をつきそうね。」
僕とロレインちゃんは食料庫を見て、ため息をついた。
元々じいちゃんは2週間分くらいの食料は用意していた。毎日町に食料を買いに行っていたら他のことができないためだ。
じいちゃんは食料を買う以外にもいろいろやることが多かった。誰に頼まれたのかは知らないけれど、いろいろ研究をしていたみたいだ。
実際にどんな研究をしていたのかは、僕にはわからないけれど。
一緒に住んでいるのになぜわからないのかって?じいちゃんは良くも悪くも秘密主義だったんだ。だから、じいちゃんの仕事部屋には絶対に入れさせてくれなかった。ただ、じいちゃんが仕事部屋に入るところを偶然見てしまったことがあって、その時にその仕事部屋の中にはいろいろな器具が並んでいたので、じいちゃんはなにかの研究をしていたのではないかと思うのだ。
ちなみに、じいちゃんは仕事部屋にしっかりと鍵をかけていた。そのため、じいちゃんが帰ってこない今でも仕事部屋の中に入ることはできないでいる。
「……町にも商人は来ていないみたいだし。隣町まで行った方がいいのかしら?」
「……うん。そうだね。このままここにいてもパンや小麦が手に入るわけじゃないし。じいちゃんから少しだけどお金は預かっているし。」
ちなみにロレインちゃんは一文無しだ。町の火事で全てが燃えてしまった。お金も。
お金は硬貨だから残っているのではないかと思ったが、亡くなった人たちを弔っている間も硬貨を見つけることはできなかった。
硬貨が形を維持することができない程の高温の炎が町を襲ったんじゃないかと思う。
残るは僕がじいちゃんから預けられた僅かなお金。なにかあったときのためにと少しだけ渡されていたのだ。
「それに……贅沢かもしれないけれど、着替えが欲しいわ。」
「あ。そうだね。ミコトの洋服も買わなきゃいけないね。」
ロレインちゃんの服は全て燃えてしまった。唯一残っているのは火事になった時に着ていた洋服だけ。
僕の家に来てからは爺ちゃんの服を着たり、僕の服を着たりしていた。まあ、男物ってこともあるけど、じいちゃんの服はロレインちゃんには大きすぎたし、僕の服はロレインちゃんには小さすぎたようだ。
ミコトだって、僕とあまり背丈が変わらないから僕の服を着てもらっているが、男物だ。
洋服も買う必要がある。
でも、お金を稼ぐ方法もわからないのに、洋服を買っても大丈夫なのだろうか。
というか、町にあまり行ったことのない僕は洋服がいくらあれば買えるのかよくわからなかった。きっと、ミコトも知らないだろう。
「ねえ、ロレインちゃん。洋服っていくらあれば買えるのかな?僕がじいちゃんから預かったお金は金貨1枚と銀貨10枚に銅貨50枚だけなんだ。」
金貨1枚は銀貨10枚分の価値がある。銅貨10枚は銀貨1枚分の価値がある。つまり今僕が持っているお金は、金貨2枚分と銀貨5枚分だ。これだけのお金でどれくらいの服が購入できるのだろうか。
ちなみに、パン1個は銅貨1枚だ。
「そうねぇ。古着なら、銅貨5枚で一着買えるかもしれないわ。新品なら安くても銅貨10枚はするわね。」
「そっか。ありがとう。ロレインちゃんもミコトも服を5着くらいは欲しいよね。そうすると古着でも、二人合わせると銅貨50枚だね。そのくらいなら金貨2枚分は残るししばらくなんとかなるかな?」
「そうね。お金を稼ぐ方法もないし。節約しないとね。」
「でも、隣町までは片道でも歩いて2日はかかるよね。ミコト一人に留守番させるのは危険じゃないかな。」
「そうね。往復で4日間、ミコトちゃんを一人にするのは心配だわ。私たちがいないとご飯食べなそうだし。」
「……そうなんだよね。ミコトって本当自分のことに無頓着だから。でも、僕もミコトも隣町の中には入れないかも。」
「あら。どうして?」
隣町に行くのはいいけれど、僕もミコトも町の中には入れない可能性がある。だって、僕のこの髪の色はこの国では嫌われているから。ミコトだって、もしかしたら誰かに追われているのかもしれない。そうなると僕とミコトは人の目につく場所にいない方がいいのかもしれない。
「……僕のこの髪の色は嫌われているから。一緒にいるとロレインちゃんまで酷い目に合うかもしれない。それに、ミコトは訳ありみたいだし。」
僕は俯いてロレインちゃんに言う。僕は自分で自分が情けなくなった。
隣町についても僕が出来ることなんてなにもない。全部、ロレインちゃんに頼るしかない自分がとても情けなく感じた。
「そうだったわ。どうしてこの国では黒髪を忌み嫌うのかしら。常々不思議なのよね。髪の色が違っても同じ人間だし、なにも変わらないわ。でも、そうね……。このままシヴァルツくんが隣町に入るのはちょっと危険よね。フードを被っていても怪しまれてしまうし……。ミコトちゃんも真っ白で目立つしねぇ……。」
どうしたものだろうかと、隣町に行くには問題が多く僕たちは頭を抱えてしまった。
「シヴァ、ロレイン、困ってる?」
ミコトに知られないように、ロレインちゃんと話し合っていたはずだった。だが、ミコトは驚異の聴力で僕たちが話し合っていた言葉を一言一句正確に聞いていたのだっあ。
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