第4話 合成屋

三番街のがらくた横丁の一角に合成屋という店がある。

そこの主人はトーナという名前だそうだ。

主人はいつも無貌の仮面をかぶっており、表情は見えない。

さらに格好はというと、長い黒のローブに、両腕が義手ときている。

髪は短くて黒い。

若いのかというとそれもわからない。

性別もよくわからない。

とにかく合成屋は謎に満ちた人物だ。


合成屋は相性の良い物を、『賢者の井戸』で合成するのが仕事だ。

今日も今日とて、割れ鍋と閉じ蓋を合成している。

きちきち鳴る義手で物を手にとり、井戸に放り込む。

もにゃもにゃと呪文を唱え、最後に井戸を蹴飛ばす。

少々乱暴だが、そうすると合成されたものが飛び出してくるのだ。

今回は…良質の鍋が出てきた。

客は嬉しそうに鍋を手に取ると帰っていった。


合成屋は井戸の縁に腰掛けた。

その昔賢者の石が放り込まれたという、いわれがある井戸だ。

覗き込むが底は深く、水面に無貌の仮面が写るのが関の山だった。

義手に井戸の水を取る。

さびはしないようだ。

しかし、普通の手に水を取るようにはいかない。

隙間からどんどん水はこぼれおちた。


合成屋がここに来るまで何をしていたか。

合成屋自身語ろうとしないし、

知る人もいない。

合成屋が来るまで賢者の井戸がどうなっていたのか、

或いは合成屋がいつ来たのか。

同じがらくた横丁に住む螺子師も、はっきりしたことはわからない。


「物はね…さびしいんですよ」

妄想屋が合成屋をたずねたとき、合成屋はそんな事を言っていた。

「一つじゃさびしいんです、だから、二つで一つになろうとするんです。けれど、一つになるとまた寂しくなるんですよ…それでも物は合成を求めているんです」

それってなんなんでしょうかねぇ、合成屋は小首をかしげた。

さあね、と妄想屋は返した。


今日も合成屋は井戸の傍にいる。

相性のいい物を持っていけば、喜んで合成してくれるはずだ。

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