第3話 花嫁

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

黒い扉の向こうの世界の物語。


あるグループにいるある少年がいた。

少年はボウガンを使うのが達者だった。

そのグループに、ある悪党の所へ結婚するかもしれないという女性がいた。

少年は全力で阻止しにかかった。

少年はその女性が好きだった。

悪党に汚されるのは死んでも嫌だと思った。


「大丈夫よ」

女性かそう言って、からから笑った。


水の多いその街では至る所に運河がある。

少年はその運河で頭を冷やしながら螺子をいじっていた。

「もうすぐだろう」

「これで決まったな」

などと言う声がする。

その悪党は、今日、花嫁を発表するらしい。

女性は大丈夫といっていた。

けれど、これ以上は耐えられなかった。


少年は仲間を集めると…

モーターボートで悪党の会場、ウォータードームを襲撃した。

花嫁をさらいに…


仲間が目くらましを使う。

少年は花嫁をさらう。

悪党はぼんやりとしていた。

悪党と言う言葉が似合わないほどに。


「ばか…」

女性はそう言ったっきり、言葉にならなかった。

泣いていた。


花嫁は涙をぐいっと拭いた。

「さーぁ、運転は任せて!」

そして、荒っぽい運転をはじめた。

追手は全て少年のボウガンに倒れた。

少年の黒いボウガンは狙いを外すことはなかった。


いつか僕等は捕まってしまうかもしれない。

僕等が悪党と信じているその男も、悪党でないのかもしれない。

それでも今は…今だけは。

自分の気持ちに正直でありたかった。


花嫁と仲間たちの乗るモーターボート。

きらきらとした水飛沫と笑顔。

少年はこの瞬間が永遠に思われた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る