第2話 子猿
これはある男の物語。
その男は趣味で玩具を作っていた。
手先が器用だったのかもしれない。
男はそれで子どもを遊ばせたりするのが好きだった。
男はある日、番外地の坂で子猿を見付けた。
小さな小さな猿だった。
猿は男のたまたま持っていた空缶ぽっくりに気を引かれたらしい。
空缶に紐を通しただけの玩具だ。
男は猿にぽっくりを教えた。
猿は見よう見まねで遊んだ…が、ぽっくりが大きすぎて転んでしまった。
男は猿の手当てをした。
小さな小さな猿だから、綿棒に傷薬を塗って手当てした。
猿は痛がった、しみたのかもしれない。
それでも、明くる日には痛くなくなったらしく、
また懲りずにぽっくり遊びをした。
こつを掴んできたらしく、初めて出会った坂を、ぽっくりぽっくりと歩くのが好きだった。
男はそんな猿を、子どもを見るように見守っていた。
男は猿にピリリという名前をつけた。
ある日、男は番外地の廃ビルの一つ、その屋上でで煙草を吹かしていた。
ここからはたまにものすごい夕焼けが見られるのだ。
男はそのたまに見られる夕焼けを見ていた。
ふと、下を見ると、ピリリと見なれない猿が坂を歩いていた。
男は何か予感がした。
「ピリリ!」
男は廃ビルから下まで走って降り、ピリリを追った。
ピリリに追いついたのは、初めて出会ったその坂だった。
「ピリリ!」
男はまた呼んだ。
猿は大好きだった小さなぽっくりを持ち、一回り大きな猿と坂を歩いていた。
ふと、猿が振り向いた。
一瞬が過ぎる。
男はその間にピリリとの楽しい時間を思い出していた。
そうして猿は丁寧にお辞儀をする。
男はそれをぼんやりと見ていた。
子猿のピリリは、大きな猿とともに去っていった。
これはある男の物語。
男はいまでも斜陽街のどこかで玩具を作っているそうだ。
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