斜陽街で逢いましょう
七海トモマル
第一章
第1話 斜陽街
また風が吹いたな、と、夜羽(ヨハネ)は思った。
風が吹くときは斜陽街に新たな客が来るものだ。
そう思った。
ここは斜陽街の一番街、バーの中だ。
夜羽は妄想屋。
ここで妄想を聞いたり、再生したりしている。
今日は風が強い。
三番街のがらくた横丁や、番外地のスカ爺等は大変だろうなと思った。
ドアに付いたベルが鳴り、来客を知らせる。
客は客でも夜羽の客ではないらしい。
バーのカウンター席に座り、ソルティードッグを注文した。
生体系のようだ。
そういえば電網系・電脳系にはここの所会っていない。
ネギがホームページを閉めたから…理由はそんなところだろう。
また開く気もある。
最近そんな事を聞いた。
ならばまた、電網系が来ることもあるだろう。
夜羽は気の抜けたスプリッツァを口にした。
斜陽街。
ここは斜陽街。
記憶の底にたまったものの集う街。
繁華街の裏側のような…どこか寂れた街並み。
しかし、「ここにある」という事を精一杯主張している…
繁華街に店を出しているであろう店の裏口と思われる建物…
その隣りで、斜陽街に面して商いをしている店がある。
乱立する建物は家も店もいっしょくたになっている。節操がないようでもある…秩序もないようでもある…
しかし、街は静かに「ある」。時折人影が歩いていく…何が変わっているとは説明できない。
でも、何となく普通の感覚とは違う…それが斜陽街だ。
夜羽はこの街が大好きだ。
これからやってくるかもしれない客人達も、好きになってくれればいいなと思った。
またベルが鳴り、新しい来客を知らせる。
今度の客はきょときょととあたりを見回し、
夜羽を見付けるとそちらに歩いてきた。
「お客さんだね…」
夜羽は新しいスプリッツァを注文した。
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