第21話 報告と疑問と好奇心

雨はやがて止み、風が吹いて、ぼやけた太陽が空に現れた。

タムは吹っ切れなく思いながら、アジトへの道のりを歩いていた。

清流通り四番街から中心の噴水へ。

そして、清流通り三番街へ。

ネフロスとパキラの後ろを歩く。

おつかいの帰りにそうであったように、池のふち二巻を目指す。

タムは、よくわからない無力を感じていた。

一体何が出来ただろうかと。

ネフロスはああ言ったが、

タムには何も出来ないのではないかと。

そこでタムは、思い当たった。

ネフロスが、パキラが、鮮やかな緑色に変わり、戦ったそのことを。

あれは一体なんだったのだろう。

「あの」

タムは二人を追いかけ、声をかけようとした。

ネフロスが丁度、アジトの扉をノックしたところだった。

コンコンとノック。

「帰ったぞ」

いつもと同じように、

キリキリキリキリと、ドアの内側でかすかに、歯車やギミックの動く音がする。

チーンと、安っぽい金属の音がして、

ドアノブが動いた。

「あの」

タムはとりあえず聞きたいことがある。

ネフロスはそれを察したのか、

「とりあえず中に入れ。一通り終わった後、話してやる」

タムはこくこくこくとうなずき、わたわたとアジトの中に入った。

扉はギィと閉まり、

ガチャ、チャカチャカ、チーン、と、ロックがされたらしい。

彼らはグラスルーツ管理室に向かった。


ネフロスが扉を叩いた。

「どうぞ」

いつもの静かな声だ。

扉を開き、中に入る。

いつものグラスルーツ管理室だ。

長い髪を下ろしたまま、アイビーがギミックを相手にしていた。

「ベアーグラスは、乾いたのね」

「ああ」

ネフロスは、手短にそう告げた。

「グラスルーツ経由で最後の言葉を聞きました。タム」

「え、あ、はい」

タムは突然話を振られて、戸惑った。

「ベアーグラスに約束を取り付けてくれて、ありがとう」

「あ、その」

「あなただから出来たこと。乾きや腐りや朽ちていくことに慣れた者では出来ないこと」

「僕は…」

「その心を大切にしてほしいわ」

アイビーは静かにタムに語りかけた。

タムは深くうなずいた。

アイビーもうなずき返した。

そして、アイビーはネフロスに視線を返した。

「今回使ったのは?」

「ガリアーノとカンパリ、一つずつ」

「そう、いつものですね。了解しました」

「報告は以上だ」

「わかりました」

アイビーは静かにうなずいた。

ネフロスはグラスルーツ管理室を出る。パキラが続く。

タムはあたふたしたが、

「失礼しました」

と、言い残すと、グラスルーツ管理室を出た。


ネフロスたちは、一階を奥へと向かった。

緩やかな下り坂になっている。

タムは部屋に戻ろうとしたが、

ネフロスたちが何をするか気になり、

パタパタとついていった。

ネフロスが振り返った。

いつもの鋭い視線に、タムは一瞬ひるんだ。

「お前は関係ない」

「えっと、何しに行くんですか」

「クロに水を調達してもらうのよ」

パキラが代わりに答えた。

「水って、歯車とか回せば出てくるものじゃないんですか?」

タムは思い出す。

部屋のベッドサイドにあった歯車と、シャワーらしいもの。

「今回のことをすると、結構多く使うのよ」

「今回のこと?あの、噛み砕いた」

「ま、それね。それでもって、クロに多目の水を調達してもらうのよ」

「あれをすると、水が必要なんですか?」

「ネフロスが流し終わったら、きっと説明してくれるわよ」

「流し終わったら?」

「えっとね、解除しても残ってるから、流さないといけないわけ」

「うーん…」

タムは考え込んだ。

パキラはすたすた歩き出した。

「残ってると害にもなりかねないから、早く部屋に調達してほしいわけ。じゃ、あたしも行ってくる!」

パキラは足早にクロの泉へと向かっていった。

タムは興味を持って、追いかけてみた。

奥の扉に二人が入っていくところだった。

タムが中に入ろうか迷っているうちに、二人は出てきた。

「それじゃ、いつものように部屋に調達しますよ」

「頼む」

ネフロスたちは、来た道を引き返し、部屋に向かった。

タムは、泉の管理人、クロの顔を見た。

「俺は忙しくなるの。とりあえず、部屋に戻ってろや」

タムは、それもそうだと思い、部屋まで駆けていった。


聞きたいことがまだまだあった。

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