第10話 エリクシル御用達

タムとポトスと、リュウノヒゲは、

池のふち二巻のアジトをあとにした。

玄関のドアを閉めると、きちきち、チーン、ガチャリ、と、音がした。

中から鍵がかかったのだろう。

「さて、いつものおつかいでござる」

ポトスは大きく歩き出した。

タムがあわててついていった。

リュウノヒゲは、ちゃっかりタムの肩に乗っている。

「こいつ、楽する気かな」

タムはリュウノヒゲをつついた。

リュウノヒゲはバランスを崩したが、また、タムの肩に戻ってきた。

ポトスが振り向いた。

「なついているようでござる。つかいの間だけ、肩に乗せてやってくれないか」

「うん」

ポトスはまた歩き出した。

タムが小走りでついていった。

「いつもは拙者の肩に乗るのでござる」

「たまたま僕かな?」

「そうかも知れぬし違うかも知れぬでござる。拙者の相棒、大切にしてくれるとありがたい」

「うん、わかった」

彼らは、池のふち二巻の路地を出て、清流通り三番街に出てきた。

裏側の世界の住人たちが、ゆっくり行きかっている。

全体的に古ぼけた通り。

ごちゃごちゃした店、行きかう色とりどりの住人たち。

ポトスとタムはその中を歩いていった。

「目指すは清流通り二番街でござる」

「重いものを持つんだっけ?」

「うむ」

ポトスは短く答え、

「エリクシル御用達の取引商の店に行くのでござる」

「エリクシル御用達」

なんだかすごいなとタムは思った。

「まずは清流通り二番街に、それから、底有り沼一巻という路地に入る」

「底なしじゃないんだね」

「まぁそうでござる。路地の一帯はその取引商の店にてござる」

「なんていうの?その、エリクシル御用達のお店」

タムはたずねた。

「行けば嫌と言うほどわかるでござる」

ポトスはいかつい顔に、少しだけいたずらっぽい表情をのせた。

ポトスなりの茶目っ気だったのかもしれない。


彼らは雨恵の町の中心の噴水まで出てくると、

清流通り二番街を目指した。

タムは標識を探した。

ポトスは今度はタムが標識を探すのを待った。

ポトスが先を行くのは簡単だが、タムに見させてもいいかと思ったのかもしれない。

「そこありぬまいちまき」

タムが標識を見つけたらしい。

「上出来、さて、向かうでござる」

タムの肩で、リュウノヒゲがぴょんと跳ねた。

彼なりにほめているのかもしれない。


底あり沼一巻には、看板が嫌と言うほど出ていた。

どれもこれも読みにくい上に、

どこの言葉かわからない。

路地の右も左も、看板看板。

「どれもこれも、意味するところは一つなのでござる」

ポトスが今度は前に立って歩き出した。

「来る者がわかるよう、様々の言語にて、この路地の奥の取引商の名前を書いているのでござる」

「嫌と言うほどわかるって言ったけど、僕にはわかんないよ」

ポトスは一つ一つ読み上げていった。

「オー・ドー・ヴィー」

「アクアヴィット」

「ジーズナヤ・ヴァダー」

ポトスが看板を示しながら続けようとしたが、

タムは、やっぱりわからなかった。

「やっぱりわからないよ。全部意味は同じなの?」

「左様、意味は同じにてござる」

「じゃあ、何さ」

タムは頬をぷぅと膨れさせながら、ポトスについていった。

「あれなら読めるでござるか」

ポトスは、一番奥の看板を示した。

金属の扉が一枚の上に、古びた金属看板に、白で書いてある。

「命の水取引商」

「そう、命の水でござる」

「ここにくるまでの看板全部?」

「そうでござる。そして…」

ポトスは上を見上げた。

様々の言語が命の水と示している看板群。

そして、袋小路のような取引商への路地。

路地は大柄のポトスの背より、3倍は高い。

「この路地一帯に、命の水取引商の倉庫があるでござる」

「こんなに…」

「さぁ、取引商のところに行くでござる」

ポトスは奥の扉へ歩き出した。

タムはあわててついていった。

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