第9話 おつかい
タムはアジトの坂を駆け下り、下り階段をいくつか飛び降りた。
仕事ってなんだろう。
何をさせてもらえるんだろう。
ワクワクが足に伝わり、
タムはアジトを風のように駆け抜けた。
がこーん、ごーん、きりきりきり…
アジトの中の仕掛けは、相変わらず動いて音を立てている。
タムはその中を駆けていき、
そして、先ほどの地図で確認した、グラスルーツ管理室の前で急停止した。
ドアがある。
確かに、グラスルーツ管理室と書いてある。
タムはノックした。コンコンと。
「どうぞ」
静かな声が答えた。
タムは扉を開けた。鍵などはかかっていないようだ。
ぎぃと扉を開くと、椅子に腰掛けたアイビーがいた。
机の上の、わけのわからないギミックを相手にしている。
周りを見れば、やっぱり、よくわからないギミックの群れ。
そして、無数の根のように張り巡らされた配線。
奥へと続いていて、奥からはかすかな光が見える。
タムは後ろ手で扉を閉め、ゆっくり管理室の中へと入っていった。
アイビーがタムのほうに向いた。
「もう一人来るから、少し待っていて」
アイビーが小さな歯車を回した。
タムの近くに椅子が一つせりあがってきた。
タムはそこに腰掛けた。
アイビーは、また、机のギミックに向き直った。
相変わらず、ギミックの音は聞こえる。
聞こえるが、グラスルーツ管理室は、ちょっと違うように感じた。
何が違うのかはわからないが、漠然と、タムの部屋などとは違う気がした。
タムは奥を見ようと、姿勢を斜めにした。
アイビーが少し微笑んだ。
「グラスルーツは草の根という意味。そのうち触れることもあるわ」
タムは、眉間に大きくしわを寄せた。
子ども扱いされている気分になった。
アイビーが静かに笑みを深くすると、
コンコンとノックの音。
「どうぞ」
アイビーは同じように静かに入室を促す。
扉が開き、大柄の男が入ってきた。
巨体とか、筋肉質とか、格闘家みたいだとか、タムはそんなことを思った。
黒髪を角刈りにしていて、
服装だけ、明るい緑のスーツ一式をゆったり羽織っている。
「アイビー、拙者に用件とは?」
大柄の男は、特徴ある言葉で話し出した。
「まずはお互い自己紹介して」
アイビーが言うと、大柄の男はタムにようやく気がついたようだ。
「失敬。拙者ライム・ポトス。ポトスで結構」
「僕は、タム」
「タム、よい目をしている」
ポトスは大きな手を差し出した。
タムは握手をした。ごつごつした手は、思ったより優しかった。
ポトスは満足すると、アイビーに向き直った。
「用件は、いつものおつかい。ただし、この町を覚えさせるのに、タムをお手伝いに連れて行ってね」
「わかり申した」
ポトスは頭を下げた。
タムは、椅子から降りた。
「ポトスさん、いつものおつかいって?」
「重いものを運ぶのでござる。タムにはそれが出来るか?」
タムは少し考えたが、
「僕だってがんばるよ」
と、タムなりに胸を張った。
ポトスは目を細め、うんうんとうなずいた。
「それでは、いつものお店で、いつものを受け取って。それを運ぶ。以上よ」
「わかり申した。行こうぞ、タム」
「うん」
タムはうなずき、グラスルーツ管理室をポトスとともに出た。
扉を閉めると、タムの足元に、何かがいた。
ふさふさした毛並みの、小さな生き物だ。
緑の尻尾が生えている。
「いぬ?ねずみ?」
タムはかがんだ。
「表側ではそういう風に見えるか。これはコケダマという生き物でござる」
丸っこいふさふさした生き物は、タムの足者でころころ転がった。
「こやつはリュウノヒゲという名がある。拙者の相棒でござる」
「よろしく、リュウノヒゲ」
リュウノヒゲはぴょんぴょんと飛び上がり、喜んだらしい。
タムが手を出すと、手の上でころころ転がった。
なついているらしい。
「さて、行こうぞ、タム」
「うん」
ポトスとタムとコケダマ生物のリュウノヒゲが、おつかいに出て行った。
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