第8話 部屋のギミック
水を飲んで一息ついて、
タムは部屋のギミックをいじった。
手当たり次第だ。
まずは、サビ色のレバーをおろした。
白い壁にアジトの地図が表示された。
映画館で映画を表示するのに、構造は似ているかもしれない。
壁が、スクリーンになっている感じだ。
おろしたレバーをよく見ると、
表側の世界で言う、自動車のギアのようになっている。
タムはギアを入れ替えた。
表示されるのは、この街。
五つの清流通りからなる、雨恵の町だ。
「あめぐみのまち」
タムはゆっくり読んだ。
ギアを入れ替えれば、もっと他の地図もあるのかもしれない。
タムはとにかく、アジトの地図と、雨恵の町を頭に叩き込もうとした。
雨恵の町は清流通りで何とかわかるとして、
アジトの方は、なかなか難解だった。
表側の世界のように、はっきりフロアが区別されていないのだ。
とりあえず、メンバーの部屋が上の階にあることと、
クロが管理している泉が下のほうにあることは把握した。
アジトの地図で見る限り、メンバーはもっといっぱいいるようだ。
アイビーは、グラスルーツ管理室にいると言っていた。
どこだろうと、タムはアジトの地図にギアを入れ替え、見る。
グラスルーツ管理室とやらは、アジトの大体一階にあるらしい。
大体というのは、階段や坂道で、やっぱり、フロアという概念があやふやだからだ。
まずタムは、グラスルーツとやらが気になった。
「グラスルーツ、なんだろ」
この部屋で調べられないだろうか。
タムは地図の表示を切り、ギミックをいじった。
大きな歯車をぎこぎこといじると、壁側から、歯車にあわせて倒れてくるような感じで、
部屋の端に机と椅子が現れた。
今まで机が壁になっていた場所には、
いくつか書物がおいてある。
「こりゃいいや」
タムは歯車を止めると、椅子に座り、机と本棚に向かった。
「なにがいいかなぁ…グラスルーツが載ってるのってどれだろ」
タムは左側から書物を取り出した。
『害虫駆除対策』
タムは表紙だけ見て、
「グラスルーツって、害虫かな?」
と、首をかしげ、また、戻した。
今度は左から二番目の書物を取り出した。
『初心者でも出来るギミック』
タムはとりあえず目次だけ見た。
仕掛けの面白いのが書いてある。
風の力でコップの水をくみ上げる、
風水車とか言うものを作るらしい。
タムは思わず読みふけりそうになり、
そうだ、グラスルーツを探していたんだと思い当たった。
タムはそれでも書物が気になったので、
何か、しおりになりそうなものを探した。
書物棚の上に、無造作に、金属片の薄いのに、紐が通してあるのが幾つかあった。
タムはそれをしおりとした。
タムはとりあえず、残りの書物の背表紙だけを見た。
『秘術酒精事典』
『花術の歴史』
『壊れた時計とあなた』
『秘められた扉』
タムは結局、グラスルーツが何なのか、わからなかった。
椅子から降りると、大きな歯車を回して、机と椅子をしまった。
「さて、他に仕掛けはあるかな」
タムは机とは逆の部屋の端に来た。
そこには、どうも排水溝らしい溝が掘ってある。
上を見れば、やはりなにやら仕掛けがある。
目の前の壁には、ダイヤル式に歯車がはまっている。
丸い歯車に、1、2、3、止、と4等分して書かれている。
タムは、止の位置にある歯車を、1にした。
上でガシャンと音が鳴り、水が降ってきた。
まるでシャワーだ。
タムはあわてて2に歯車をあわせる。
上から吹きつけるように風が吹いてきて、タムの服は一応乾燥した。
「じゃあ、3はなんだろ」
タムは、3に歯車をあわせた。
上からさんさんとあたたかい光が降りてきた。
日光浴みたいだなとタムは思い、
満足して、歯車を止の位置にした。
ぽーん
上から音がした。
どこだろうと、タムが天井を見ると、
ベッドの上あたりに、ラッパ型のスピーカーがぶら下がっているのに気がついた。
「タム、仕事です。グラスルーツ管理室に来てください」
タムは静かな声のスピーカーに向かって精一杯うなずき、
風のように部屋をあとにした。
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