第7話 風の通る部屋

アイビーと、ネフロス、パキラ、そして、タム。

4人はアジトの上を目指した。


ぎちぎちぎちぎち

がこーん、がこーん

ギミックの動いている音があちこちから聞こえる。

何をしているのかは、タムはわからなかったが、

アジトが仕掛けいっぱいだということはわかった。

アイビーが先にたって、歩く。

階段やら、上り坂やらが、いくつか続く。

ずいぶん上った気がした。

不思議と息は切れなかった。


「ここ」

アイビーが静かに、ドアを一つ示した。

タムは扉を見る。

アジアンタム、と、ドアの表札につづってある。

「エリクシルのメンバーは、みんなこのあたりに部屋を持っています」

アイビーが静かに告げる。

後ろからひょことパキラが顔を出す。

「日のあたる、風の通る部屋がいいからね。裏側の世界の住人は大抵そうなのよ」

タムはなんとなく納得した。

パキラの明るい笑顔を見ていると、明るいのが似合う気がした。

ネフロスが、すっと動いた。

「俺は隣にいる。タム、お前はまずは部屋のギミックをいじってみろ」

ネフロスはそう言うと、タムの部屋の右隣の扉を開いて、部屋に戻った。

アイビーは静かにそれを見て、

「部屋の中のギミックには、アジトの地図もあります。よく見て、迷わないように」

「迷子も楽しいけど、迷惑かけないでね。じゃ、あたしも戻ってる」

パキラはひょいとアイビーから前に出ると、タムの頭をくしゃっとなでて、いくつか先の部屋へと入った。

アイビーはそれを見送り、

「私はグラスルーツ管理室にいます。場所はあとで確認を。それでは」

アイビーは静かに戻って行った。

タムは一人で、扉の前に残った。

アジアンタムと書かれた扉。

裏側の世界の部屋。

タムはゆっくり扉を開いた。


さぁっ、と、風が吹いた。

タムは一瞬目を閉じた。

そして、また、目を開き、扉の中を見た。

窓が開いている。

薄い生地のカーテンが踊っている。

ぼんやりとした太陽の光が差し込んでいる。

白い壁に、取っ手や歯車などがいくつも吊るしてある。

サビ色だったり、黒かったり鉄色だったりしている。

壁際にベッドらしいものもある。

タムは魅入られたように、部屋へと滑り込んだ。

扉が後ろでパタンと閉まった。


風が踊っている。

タムはそう感じた。

「こんにちは。僕はタムだよ」

踊っている風に、なんとなくそう呼びかけた。

風はタムの周りをなでていった。

姿は見えないが、風は多分微笑んでいて、

裏側の世界の住人の一つの姿だと思った。

根拠はないが、タムはそう思った。


タムは、風の通り窓から顔を出した。

そこは、池のふち二巻のわりと高い場所。

表側の世界のビルの3階くらいかもしれない。

このアジトが、広いのか狭いのか、わからないなぁとタムは思った。

部屋の窓から、清流通りの街が見える。

遠くに噴水の場所も見える。

もっと遠くもあるんだろうか。

なんでも屋になったから、裏側の世界をもっと歩けるんだろうか。

知らないことだらけのこの世界だ。


「まずはどうしようかなぁ…」

タムは部屋のギミックを試してみたくなった。

ベッドの脇に、コップと手回し歯車がある。

歯車の先に蛇口がある。

タムはとりあえずいじってみることにした。

蛇口の下にコップを置き、手回し歯車を回す。

ことことことこと…

と、ゆっくり歯車が回ると、

蛇口から水が滴り落ちた。

水は溜まり、コップを満たした。

タムは一息にのみ、息をついた。


風がタムの髪をなでた。

「君は、もっと遠くも知ってる?」

タムはコップを持ったまま、風に問いかけた。

風はタムの言葉では話してくれなかった。

それでも、風が行った先をタムは目で追った。

雲が、空が、もっと遠くが。

裏側とされる世界。

タムは風の通っていった部屋に、落ち着くことにした。

穏やかに、ぼんやりとした太陽の光が差し込んでいる。

タムは居心地がいいと感じた。

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