第6話 登録の泉

なんでも屋『エリクシル』のアジトを、改めてタムは見回した。

上にも下にもごちゃごちゃと仕掛けがひしめいている。

上のほうに部屋らしきものを認めた。

そこからパキラが落ちてきたのだろう。

よくどこも壊れなかったものだと思った。

アジトの中は、外のようにぼんやりと明るかった。

明かりを中に取り入れているらしい。

「タム」

静かに呼びかけられた。

「アイビー、さん?」

アイビーはうなずいた。

「これから壊れた時計も含めて、登録認証をします。こちらへ」

アイビーは音も立てずに歩いた。

タムは通路を歩く。

橋のような場所も上のほうにあった。

意外とこのアジトは大きいのかもしれない。

タムは探検したくてしょうがなくなった。

「おいこら」

いつものネフロスの声がする。

「下にもあるんだ、上ばっかり見てると落ちるぞ」

タムはあわてて通路を見渡した。

自分の立っている場所が、きぃ、と、音を立てた。

長くはないが、橋らしい。

タムはとんとんと橋を渡って、アイビーについていった。

ネフロスとパキラが続いた。


アイビーが、右へ左へと曲がり、

タムはそれについていく。

ことことことと何かの仕掛けの音がする。

遠く下のほうで、なんだか、風と水のような音もする。

扉のある部屋ない部屋、

アイビーは奥を目指したらしい。

そして、奥のとある扉の前で、

アイビーは紐を引っ張った。

上のほうに下がっている、ベルが音を立てた。

リンリンリン。

澄んだ音色だ。

「クロ」

アイビーが呼んだ。

扉がカチカチと音を立てた。

そして、中から扉が開いた。

緑色のチェックの柄のバンダナを巻いた、

細身の青年が顔を出した。

黒いジャケット、黒いレザーパンツだ。

ロックでもしそうな人だなとタムは思った。

「クロ、登録お願い。この子」

「へいへい、使える人手だといいっすね」

クロと呼ばれた男は、扉の中から、ちょいちょいと手招きした。

「僕?」

タムが問い返す。

「そうだ、エリクシルに登録すっから、こっちこいや」

タムは扉の中に入った。

扉の中は、大小さまざまの仕掛けと、

奥に泉が湧き出していた。

泉は仕掛けの隙間を通って、下へと落ちていく。

「そこの泉に壊れた時計を浸して、自分の名前を登録するんだ」

タムはクロの説明にうなずいた。

タムは仕掛けの隙間から、泉へと行く。

大きなジャケットのポケットから、壊れた時計を手に取り、泉へと沈める。

ぽう、と、泉が緑色に輝いた。

しばらく輝き、泉はまた、元のように戻った。

「へぇ、アジアンタムで、タムか。俺のように略してるんだな」

後ろから、クロの声がする。

タムは泉から壊れた時計をポケットに戻すと、クロのほうに近づいた。

「名乗って…ませんよね?」

「ここに出てる」

クロはタムより少し高い目線のところにある、

平べったい石を示した。

いろいろな名前が書いてある。

「ここに追加されたのが、お前の名前だろ」

クロが指差したそこには、確かにアジアンタム、タム、と書いてある。

「俺は、これ」

クロロフィタムと、クロという名前が並んでいる。

「クロロフィタム、だからクロ。よろしくな、タム」

クロが人懐っこい笑みをして手を出した。

タムはまた、握手した。

「俺は水の調達と、登録係を兼任してる。ま、水がほしくなったら一声かけてくれ」

「水」

「ん、部屋に水を調達するギミック動かすからな」

「部屋?」

「あ、そういえば部屋はまだなんだな」

「部屋があるんですか?」

「扉の向こうでアイビーたちが待ってるだろ。多分連れて行ってくれるさ」

クロはふと、石盤を見た。

「ネフロレピスにネフロスが追加されてるな。誰が略したんだ?」

「…それ、僕です」

「へぇ、あいつがとうとう略されたか。お前もなかなかやるな」

クロはにやりと笑った。

「あいつ、略するな、が口癖だったんだぜ」

タムはなんだかすごいことをしたのかもと思った。

「さ、このアジトは広いぜ。ちゃんと案内してもらってな」

クロに見送られ、タムは扉を開けた。

アイビーたちが待っていた。


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