第17話 特訓
「特訓よ!」
先程まで我の魔法の実用性の無さを嘆いていたアリアが、いきなり宣言した。
「テストまでもう時間がないもの! テストでは使い魔が魔法を使うのは必須。クロには魔法をマスターしてもらわないといけないわ!」
「だが、あんな魔法が何の役に立つと言うのだ? 我は無駄なことなどしたくない」
先程までアリアも嘆いていたではないか。我の魔法は実用性がまるで無い。そんなものの為に我は時間を使いたくはない。ついでに言えば、テストなど我にとってはどうでもいいものだ。特訓などする必要が我にはない。
「確かに何の役に立つのか分からないけど……。でもね、クロ。使い魔の使える魔法は平均4個くらいあるの。例え、一つ目がダメだったとしても、残りの魔法まで諦めてしまうのはもったいないわ。それに魔法を使うつもりなら、魔法の使い方をマスターしておいた方がいいでしょ? もしかしたら特訓中に新しい魔法が使えるようになるかもしれないし」
「ふむ……」
アリアの言葉を聞き、我は考える。我の中には、まだ違う種類の魔法が眠っているらしい。思い出してみると、あのネズミもワイバーンも複数の魔法を使っていた。アリアの言うことも嘘ではなさそうだ。我の中で魔法への期待が再び高まっていく。魔法の使い方をマスターか、やってみてもいいかもしれない。
「いいだろう。特訓をやっても良い」
「そうこなくっちゃ! じゃあ早速やりましょう。クロ、魔力は感知できる?」
「うむ、まだ我の中で熱いものがくすぶっている。苦しいくらいだ」
先程感じた体を内側から壊されるような暴力的な熱さではないが、熱いものを感じる。これが魔力なのだろう。
「苦しいのはその内慣れるわ。その熱いものを動かして、体の外に出してみて」
そんなことを急に言われてもな。我は熱いものに出ろと念じてみたり、体を動かしてみても出てこない。
「出てこないぞ。どうやれば動くんだ?」
「魔力を操作するの。さっき実際にクロの身体から魔力が出たでしょ? その感覚を思い出してみて。あと、魔法にはイメージが大切だって言うわ。さっきみたいに影を物質化するイメージも大切よ」
色々と注文が多いな。その後、しばらく魔力を動かそうとしてみるが、全く動く気配はなかった。言われた通りにやっているはずなんだが…。なぜ動かんのだ。ちっとも進展がなくて、だんだん腹が立ってきた。
「できん!」
「まぁそうよねー。いきなりは難しいか」
アリアが我を抱き、頭を撫でてくる。慰めているつもりか?
「じゃあクロ、いくわよ」
「行くってどこに?」
「違うわ。クロに魔力を供給するの。もう一度身体から魔力が出る感覚を覚えてみましょう」
こいつ、本気か?
「いや! あれはな! 苦しいのだ!」
アリアが我に魔力を注ぎだした。我の中の魔力がどんどん熱くなっていく。
「やめよ! アリア!」
「大丈夫、大丈夫だから」
なにも大丈夫ではないわ!
我はアリアの胸の中から逃げ出そうと暴れるが、アリアは我を決して離そうとしなかった。まさかコイツ、最初からそのつもりで我を抱えたのか……ッ!?
「こらクロ、暴れてないで集中して!」
「ぐぬぬ……・!」
アリアの思い通りになるのは癪だ。癪だが、魔力操作を覚える為には良い案なのかもしれない。我の苦しみを置いておけばの話だが……。
我は暴れるのを止め、魔力の流れに意識を集中した。アリアが止める気が無い以上、我にはどうすることもできないのだ。ならば、少しでも多く我の糧にするべき。体の中で灼熱が暴れ回り膨張していく。ひどく苦しい。まるで、我の体を食い破らんばかりに灼熱が暴れ回る。身体が破裂しそうになった瞬間、ポンッと体の外に魔力が出た。
「アリア!」
「えぇ!」
アリアが我への魔力供給を止め、我を抱えたまま立って後ろに後ずさる。
「見て、魔法が発動してる」
我らが居た所には、我を抱えて座るアリアの影がはっきりと残っていた。魔法は成功したようだ。
「どう? 感覚は掴めた? 操作できそう?」
「魔力の流れは把握できた。しかし、操作となると……」
我の体の中で魔力はまだくすぶっていた。このくすぶり、停滞した魔力を動かして、体の外に出すべく、魔力に意識を集中する。
この! 動け! 動け!
念じてみるが、魔力は一向に動かない。少し動いたかと思うとすぐに元の場所に戻ってしまう。まるで、そこにへばり付いているかのような頑固さだ。
「ダメだな。まるで動かない」
「そう……。まぁ、簡単にはいかないか。私も苦労したし」
「アリアも?」
「えぇ。最初は全然動かなかったけど、ちょっとずつ動くようになっていったの。難しいのは最初かしら、少しずつでも動くようになったら、あとは一気よ」
そういうものなのか。アリアが我を強く抱く。ちょっと苦しいくらいだ。アリアが口を我の耳に近づけ、囁く。
「だからね、頑張りましょ」
身体が熱くなる。マジかよこの女。魔力供給を再開しやがった!
「言ったでしょ、最初が肝心だから! その後は一気だから!」
「やめよアリア!」
「ご褒美! ご褒美あげるから! こうでもしないとテストに間に合わないのよ!」
「知るか! そんな物に釣られるか! 離せ!」
結局、我が魔力を動かせるようになるまでアリアは離してくれなかった。ひどい鬼畜だと思う。
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