魔法使いと養い子

ありま氷炎

🍖

「グリフィン。ダメです。無理です。私にはできないです」

「できるって。あの炎の魔法。すごかったなあ。俺に見せてくれよ」


 赤毛の癖っ毛に青い瞳。

 男の顔の作りは整っている。だけど、その軽薄な笑みが全てを台無しにしていた。

 男の名はグリフィン。

 一応魔法使いである。


「わかりました!」


 そのグリフィンに応えるのは、その養い子のアデリン。

 小柄でもっさりとした長い黒髪、そして黒い瞳。根暗そうな少女。実際、彼女は根暗である。

 しかしその魔法使いとしての潜在能力は高い。

 アデリンは杖を構えると現在彼女が使える火の魔法で最大威力のある紅蓮の炎を放った。


「よっし。討伐終了!」


 ゴブリンたちがすべて燃え尽きたのを確認すると、グリフィンは潜伏していた岩陰から身を起こす。


「アデリン。魔石を回収するぞ」

「は、はい!」


 弱小の魔物だが、数が多い。 

 グリフィンに依頼が来たのは、その数の多さのためだ。

 魔法使いであれば簡単なこと、一気に燃やしてしまえばいいのだ。

 まあ、それをやったのは彼ではなく養い子のアデリンなのだが。


「さあ肉でも食いにいくか」

「はい!」

  

 気弱そうで草を食って生きてそうな見た目のアデリンだが、彼女は肉が大好きだった。

 父親と暮らしているころは外食などとんでもなく、家では肉嫌いの父親のため、野菜しか食べてなかった。

 また厳格な父親は強力な魔法使いである自身のように強い魔法使いになってほしいと、かなり厳しく育てた。反論を認めず、間違えば鞭を振るう。それははたからみたら、虐待にも見える教育だった。

 父親がドラゴン討伐に参加して亡くなり、十二歳の彼女は天涯孤独になってしまった。その身元を引き受けたのが、父親の従兄弟、グリフィンである。他にも親戚はいたが皆が彼女の受け入れを拒否した。

 彼は父親とはまったく正反対の性格だった。

 放任主義、魔法の教え方も押し付けるようなものではなく、彼女の考えを聞きながら教える。長い間、父親に抑圧されてきていたので、自分の考えを持たなかった彼女だが、グリフィンと話しているうちに考えることができるようになっていた。

 そうして、いつの間にか彼女は彼をすっかり信用するようになっていた。


 グリフィンは彼女の腕試しだと、次々と魔物討伐の仕事を受けていく。

 

「あんな強い魔物、絶対無理です」

「うーん。無理かなあ。あ、やべ、こっち見てるぞ。見つかったみたいだ。雷で脅かしてやれ!」


 アデリンはグリフィンの言葉を聞き慌てまくり、最大の雷の魔法をサイクロプスに放った。

 脅かす予定が、サイクロプスは雷の一撃を受け、こてんと倒れる。


「おお!すごいじゃないか。やっつけたな」


 グリフィンはアデリンの頭を撫でると、ひっくりかえった魔物に近づく。巨体はピクリともしないが、グリフィンは土魔法で岩を持ち上げ、頭を潰すと魔石を取り出した。


「でっかいなあ。さあ、今日も肉だぞ」


 こうしてグリフィンとアデリンは稼ぎまくり、冒険者の間で有名になっていくが、その戦いを見ていた者は疑問を持つようになった。

 アデリンはいつも逃げたがっていて、積極的じゃない。

 それなのにグリフィンが無理やり戦わそうとしているのじゃないか?


 それはある意味事実であり、を持った冒険者がアデリンからグリフィンを引き離し説いた。

 しかし、アデリンはあなたには関係ないと言って、グリフィンを追いかけた。

 

 グリフィン自体は魔法を使えるが、はっきり言って弱い。

 魔力が絶対的に足りないのだ。

 なので、アデリンの豊富な魔力は羨ましく、彼が教えればすぐにいろいろな魔法が使えるようになった。

 試しに魔物を狩って、報酬を得て、これはいけると思った。

 グリフィンにはお金がない。

 正直アデリンを養うような余裕はなかったのだ。だが、彼女は力のある魔法使いであり、これを利用する手はないと思った。

 後ろ向きで、自信がない彼女。

 けれども力の強い魔法使い。

 グリフィンは言葉たくみに彼女を魔物にけしかける。

 討伐で得た収入で二人で肉を食べる。

 

 グリフィンはこの生活が気に入っていた。

 だが、お節介な冒険者から問われ、彼も考えた。

 アデリンは戦うのが好きではない。

 もしかしたら魔法すら好きじゃないかもしれない。


 アデリンの父は高慢ちきだが腕のいい魔法使いだった。

 グリフィンは大嫌いだったが。

 一度小さい時のアデリンを見たことがあるが、父親に怯えていたようなそぶりをみせたことがあった。

 グリフィンにとってはアデリンは優秀な魔法使いだが、父親にとってはそうではなかったらしい。彼の死後の話、それからアデリンの態度を見ていると、父親から指導という暴力を受けていたように思えた。

 グリフィンは魔法が大好きだ。自身ではうまく使えないが、好きだった。

 けれどもアデリンにとっては父親につながる魔法は嫌いなものかもしれない。


 彼はアデリンを信頼おける冒険者に預けることにした。

 そして一人で旅に出かけた。

 ところが、ある日アデリンが目の前に現れた。

 とんでも無いことに、探索と転移魔法を身につけて、グリフィンを見つけたらしい。


「グリフィン。私に魔法をもっと教えてください。私は戦うのが嫌いです。魔法も。だけど、グリフィンと一緒にいると、魔法を使うのも戦うのも楽しいです。だから一緒にいてください」


 ぺこりと頭を下げられ、グリフィンは迷った。


「俺は君を利用してきた。俺の使えない魔法を見たかったし、お金が欲しかったんだ。これからもきっとそうするつもりだけど、どう?」


 そこは広場であり、彼の言葉に周りのものはぎょっとした。


 利用する。

 お金が欲しかった。


 少女に対して、大の男が不誠実な言葉を口にしたのだ。

 しかし、周りが騒ぐ前に、アデリンが声を上げる。


「いいですよ。利用してください。私もグリフィンの魔法の知識を利用して、たくさん魔法を覚えて、たくさんお肉を食べますから」

「そうか、それでいいんだな」


 それでいいのか?!

 二人のやり取りに唖然とする観客、もとい広場の野次馬。

 

「じゃあ、まずはお肉をご馳走してください」

「その前に資金調達。そういえばここの森にケルベロスが潜んでいるみたいで……」


 そうして二人は腕を組み、仲良さそうに森へ向かっていく。

 利益のみで結ばれる関係、二人の言葉のみを聞いたならそういう関係のはずだが、楽しそうに歩く二人は強い信頼で結ばれているように思われた。





 

 

 

 

 

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魔法使いと養い子 ありま氷炎 @arimahien

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