第3話 依頼を押し付けられました

 ――ルミナス城。


 国王アーデンの御前でフィルとシュガーは跪いて頭を下げる


「よくぞ参った! して、『鋼鉄の魔女』殿はどちらに……?」


「はっ! 私の隣にいる彼女こそが、鋼鉄の魔女シュガー・ソング殿です!」


「こ、ここ、こんにちは……」


 引きつった笑顔を見せるシュガーに対して、国王アーデンは首をかしげた直後に手を叩いた。


「なるほど! そのお姿は世を忍ぶための仮の姿! だからこそ、そのようにまるで片田舎の冴えない少女のような格好でいるのですな!」


「――え?」


「そうです! このように片田舎の冴えない少女のような恰好をしているのです」


「――え?」


 フィルも復唱する。


 せっかく帝都に来るので一番綺麗な服を着てきたシュガーは心の中で泣いた。


 こんなことなら『慰め君』を持って来れば良かった。


 アーデンは威厳を持って語り始める。


「では、改めて依頼をしよう! 西に位置する"嘆きの丘"に邪竜『ヘドナ』が住み着いて、交易の障害となっている。討伐の為、すでに何人もの兵士を送り込んだのだが、帰ってきた者はいない。そこで、『鋼鉄の魔女』そなたの力を借りたいのだ」


「――かしこまりました。かならずや、ご期待に沿ってみせましょう!」


 胸を叩いて自信満々に返事をした。


 シュガーの隣にいるフィルが。


 ――その直後、大広間の扉が開け放たれた。


「ちょっと待ってください! その討伐の依頼、受けてはいけません!」


 そう言って、褐色の少年が乗り込んできた。


 大広間に乗り込んできた少年は国王アーデンの前で必死に訴える。


「あの白竜――『ヘドナ』は邪竜ではありません! あの地で産卵し、子育てをしているのです! 住処に踏み入ったり、刺激をしなければ実害はありません!」


 しかしすぐに王国の兵士たちに取り押さえられた。


「――お前! 陛下の前でなんたる無礼をっ!」


「よい。その少年の願い、気持ちも分かる。少年よ、名は何というのだ?」


「俺の名前はリオです! 国王様、そして鋼鉄の魔女様! どうかお願いです! 『ヘドナ』の卵が孵り、他の地へと飛び立つまで見守っていてやってください!」


 リオの懇願を最後まで聞くと、アーデンは残念そうに息を吐いた。


「リオよ。それはできぬ相談だ。どうやっておぬしがそれを知ったのかはわからんが、卵があるというのであればなおのこと放っておくことはできぬ。竜に対して人類はあまりに脆く、儚い。早急にに討ち、そして卵も破壊せねばならぬ」


「そ、そんな! そんなの勝手だ! 彼女は……『ヘドナ』は子育てをしているだけなんです!」


 国王アーデンはリオを捕えている兵士に指示を出した。


「リオをこちらに連れてこい。そしてフィル、鋼鉄の魔女殿も一緒についてきてくだされ」


 そう言うと、国王アーデンを先頭にお城の裏庭まで全員で移動した。


       * * *


 城の裏庭には多くの墓があり、無念の死を遂げた同胞たちを悼む兵士たちの姿があった。


 彼らは亡き仲間の名を呟き、その魂に手向ける祈りを捧げていた。


 アーデンは彼らを見据えながら語る。


「確かに、始めはこちらの兵が『ヘドナ』を刺激してしまったのかもしれん。そして、この国の脅威として弓を引いた。その度に返り討ちにあい、我が国の兵たちは命を散らしていった」


 兵士たちは、顔に悲しみと怒りが浮かび、亡き者たちへの思いが言葉にならないまま、その痛みを堪えていた。


 彼らは、失われた命に報いるため、そして無念の死を受け入れることができない心に、復讐の炎を燃やしていた。


「白竜の討伐に向かったのはみな志願者だ。仲間の仇を取るのだと、勇猛果敢に飛び出していった。しかし、結果は知ってのとおり。もはや彼らの想いに、死んでいった魂を弔うには『ヘドナ』を邪龍として討伐するしかないのだ」


「ふ、ふざけんな! そんなの勝手だ! 『ヘドナ』をそんなことの為に殺すなんてあんまりだ!」


 アーデンはため息を一つ吐くと、少年リオと兵士たちの前でシュガーに目を向けた。


「『鋼鉄の魔女』シュガー・ソング殿。この度の依頼、白竜『ヘドナ』の討伐を請け負ってくれるだろうか? さもなくば――手紙に書いたとおりだ」


 少年リオに睨みつけられながら、シュガーは返答した。


「……わ、分かりました」

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