第19話 吾輩の夢、なのだ!
「マルリル、こちらへいらっしゃい」
お母様が呼んでいるのだ。お母様のところにいくと突然抱きしめられたのだ。
「この先の森を抜けるとルイスが待っているわ。そこまで一人で行くのよ」
「お母様はどうするのだ?」
「私も後から追いかけるわ。大丈夫、きっとうまくいくから」
吾輩はお母様の言葉を信じて森の中に入ったのだ。その時、後ろから声が聞こえたのだ。
「何ばかなことしている。あいつはどこに行った」
「ばかなのはあなたよ!どうしてここまでするのよ。もうあなたにはついていけないわ。私とマルリルはここを出ていくわ」
「それは私に対する反逆ととらえていいんだな」
「ええ、あの子のもとには行かせない」
お父様は見たことのない姿に変身したのだ。お母様はお父様の魔法に包まれて、次第に影がなくなっていったのだ。
吾輩は怖くて逃げてしまったのだ。大好きなお母様は吾輩を守るために殺されたのだ。吾輩はあいつを許さないのだ。
ルイスに案内されたのは人間の国の森の中にある家なのだ。今日からここで暮らすみたいなのだ。
ルイスがお母様の代わりにいろんなことをやってくれたのだ。ルイスも吾輩に気を使っているのを感じていたのだ。
ほんとはお母様がよかったのだけど、吾輩もわがままを言わずに過ごしたのだ。それでもあそこにいるよりかはずっとましだったのだ。
「本当にこれをやるのだ?」
「はい、私は遠出していて半年ほど帰らないことになっていますが、時間に限りがあります」
これから吾輩が安全に過ごせるためにルイスが召喚魔法を教えてくれたのだ。魔力が強くなっている洞窟でこの魔法陣を描いて、召喚したい人をイメージするらしいのだ。
吾輩がお母様の仇を取るために魔王に成り代わるのだ。でも、吾輩には力も素質もないのだ。だからそれを持っている奴がいいのだ。
どんな奴が来るのだ?お父様みたいなやつは嫌なのだ。お母様みたいな人がいいのだ。
でも、そんなことしてもお母様は戻ってこないのだ。お母様…
あれは失敗なんかじゃなかったのだ。全部吾輩が望んだもの。吾輩の下僕…いや、
”友達”
「おっ、やっと起きたか」
ベッドを見ると、マルが体を起こして目をこすっていた。
ユウが安心した顔でこっちを見ているのだ。吾輩は夢を見ていたのだ。
「あれから3日も寝てたんだぞ。お腹空いたろ、ちょうどご飯できたところだ。食べるか?」
さっきできた料理を机の上に並べる。マルは何も言わずトコトコと歩いてきて椅子に座った。
あれから…そうなのだ、吾輩は泣いたまま寝ていたのだ。なんか少し気まずいのだ。
「おいしいのだ」
「それはよかった」
どうやら味覚はあるみたいだ。あれだけの事があったから精神的にやられてるかと思ったけど、最悪な状態にはなっていないようだ。
なんだか安心する味なのだ。とってもおいしいのだ。
「また釣りにでも行くか?あの仕事の納品もまだだし…」
マルはご飯を口にかきこみ、一息ついた。
ユウも吾輩に気を使っているのだ。このままじゃダメなのだ。
「ごちそうさまなのだ!いっぱい食べたから元気なのだ!今度はたくさん釣るのだ!」
「本当に大丈夫なのか?もう少し休んでも…」
「大丈夫だから早く行くのだ!命令だ、『早く釣りに行くのだ』」
「どういう命令だよ。わかった、行くよ」
元気よく走っていくマルを追いかける。どうやら無駄な気遣いだったようだ。
起こってしまった過去は変えられないけど、この先は吾輩にはユウがいるのだ。だから大丈夫なのだ。
気を取り直してあいつが魔王になる方法を考えるか。
吾輩は仇を取るためにあいつを倒して、お母様が目指した世界を作るために吾輩が魔王になるのだ。
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