第18話 お母様の日記、なのだ!

あれから日が落ち、ずっと泣いていたマルは疲れて腕の中で眠ってしまった。


マルを抱えたままどうしようもない考えがループする。




俺がもっと強かったら…



どうにかできる考えが浮かんでいたら…



キルトスを追い詰めなかったら…



農場のおじさんを助けなかったら…



あの街に行かなかったら…






マルに出会わなかったら…








あれが最善策だった、仕方がなかった。


本当にそうだったのか?


…ダメだ、しっかりしないと。家の中に運ぶためにマルを持ち上げる。


ふと、魔法陣のあった方に目を向ける。なんだこれ?拾い上げて月明かりに照らしてみる。


どうやら日記のようだ。ルイスさんが俺たちと一緒に転移させたんだろう。


マルをベッドの上に寝かせ、俺は椅子に座る。俺は眠れなかった。眠れるはずがない。何もすることがなかった俺は無意識に日記を開いていた。






初めて生まれた女の子。この子の名前はせっかくだから私の名前から付けようかしら。私の名前がマリーだから…マルリルなんてどうかしら。とってもかわいらしい名前。この子だけは私が育てるわ。いったいどんな子になるのかしら?楽しみだわ。



すっかり大きくなって元気に遊ぶようになったわ。子供の成長は早いわね。ルイスもかなり手を焼いているようね。子供は元気が一番だわ。このまま健やかに育ってほしいわ。



マルリルがルイスの事をばかにしているところを見かけたわ。ここは親として私がしっかり教えてあげないと。種族が違うからって差別をするのはよくないわ。どんな種族とも手を取り合っていかないと。まだマルリルには難しいかもしれないけれど、いつかきっとわかる時が来るわ。



あの人ったらもうマルリルに戦い方を教えるって言ってきたわ。まだまだ子供よ?いくらなんでも早すぎるわ。私は反対したんだけれども、強引に連れていかれちゃった…あの人は一体何を考えているのかしら?



マルリルの顔を見るとあざができていたわ。話を聞くとあの人に出来損ないだといわれて殴られたんだとか。かわいそうに…明日はいっぱい甘やかしてあげる。それにしてもやっぱりあの人のやり方は納得がいかないわ。



私が仕事をしていると、仕事場にマルリルが入ってきたわ。あまり入らせないようにルイスに言っていたのだけれど、マルリルがわがままを言ってしまったみたいだわ。大量の本に興味津々だったのだけれど、マルリルが読めるような本はここにはないわ。私が魔法についての本を少し教えてあげたらとても喜んでくれたわ。喜んでくれてなによりよ。



マルリルがやっと魔法を使えるようになったと喜んでいたわ。あんなにうれしそうな笑顔が見れて私も幸せよ。よく頑張ったわね。何かご褒美を考えてあげないと。何がいいかしら…




マルリルが兄弟げんかをしてきたわ。どうやらあの人のまねをしてマルリルの悪口を言ったらしいわ。注意をしに行ったのだけれど、あの人が育てたせいか、乱暴になってしまっているわ。この子もそんな風になるのかしら。いや、絶対にさせないわ。




あの人が『お前のせいで出来損ないが生まれたんだ』と言ってきたわ。それを聞いていたマルリルがあの人に反抗したのだけど、それに怒ったあの人は本気でこの子を殺そうとしていたわ。私がかばってあげられてよかった。私のために怒ってくれたのね。優しい子に育ってよかったわ。ルイスが『無茶をしないで下さい』と怒っていたけど、この子は私のすべてなの。わかってちょうだい。




日に日にマルリルへの暴力が激しくなっているわ。ここにいたら体がもたないわ。私と一緒にここを出ましょう。きっと幸せな毎日が待っているわ。だから安心してね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る