第17話 吾輩のお父様、なのだ!
目を開いたら薄暗い広間にいた。暗くてよく見えないが、部屋の奥に椅子に座っているでかい人がいる。その横に数人の人影が並んでいるのが見える。
「お父…様…」
「久しぶりだな、マルリル」
地鳴りのような低い声が響き渡る。この人がマルのお父さん?どういうことだ?
「よくも私の計画の邪魔をしてくれたな。数少ない人間の協力者も失うことにもなってしまった」
マルはひどく怯えている。いつもはやる気満々なのに、こんなマルは初めてだ。
「お前の事情なんて知るもんか。俺たちはやりたいようにやっただけだ」
「人間には用はない、黙っていろ」
指先から雷が放たれる。激しい痛みのあまり声さえ出すことができず、その場に倒れてしまった。
体が言うことを聞かない。
「ユウ!なんてことをするのだ!」
「お前はいつでもそうだな。人間ごときにまで仲良しごっこか?あきれたものだ。あいつに似て何もかも甘すぎる。私の言うことを聞いていればいいものを」
「お前みたいなやつの言うことなんて聞きたくないのだ!」
また雷を放った。薄れた意識の中にかすかな悲鳴が聞こえる。
「お前は力もない、魔族としての尊厳もない出来損ないだ。だが、そんなお前にも私の血が流れている。今からでも遅くない、私の力になれ」
「い…嫌なのだ!吾輩が魔王になって世界を変えるのだ!」
「お前が魔王だと?ふざけたことを言うな!」
指先をマルに向ける。このままじゃ本当に死ぬぞ!
「出来損ないのお前は早めに消すべきだったな」
「ちょっと待て!」
力を振り絞って立ち上がり、マルの前に立つ。
「お前、マルの家族なんだろ?なんでそこまでするんだ」
「まさか私を知らないのか?」
「あいにく、この世界に来たばかりなんでね」
「いいだろう、冥土の土産にするがいい。我が名はヴォイド・ライネス。魔王にして、この国を統べるものである!」
魔王だって⁉じゃあマルは魔王の娘?
「まずはお前からだ。安らかに眠るがいい!」
「させないのだ!」
マルがシャドウボールを放つ。だが、横にいたやつらの一人がいとも簡単に弾いた。
「お前からがいいか?マルリル。そんなに母親のところにいきたいのか」
「うるさいのだ!お母様は吾輩を守るためにお前に殺されたのだ。こんなところで死ぬわけにはいかないのだ!」
こいつらの家庭事情どうなってるんだ?父親が母親を殺した?魔王はこれほどまで鬼畜なのか。
「だがどうやってこの場をしのぐ?もう守ってくれる奴はいないぞ」
「吾輩も子供じゃないのだ。吾輩一人でもやってやるのだ」
何でこいつはいつも無茶なことをするんだ。ふざけやがって。
俺は言うことを聞かない体を無理やり動かし、マルの腕をつかむ。
「ユウ!大丈夫なのだ⁉」
「お前は何のために俺をこの世界に連れてきたんだ?この世界でも役立たずのまま終わるわけにはいかねえよ」
マルの手を借りてゆっくり立ち上がる。
「なんだ人間、腕輪の力で身代わりにでもされたのか?」
「あいにくこの腕輪は出来損ないでな、力のないこいつにとってお似合いの出来だ」
「ではなぜ前に出る?降参でもして『味方になるので許してください』とでもいうのか?人間の仲間がいるといろいろやりやすくなるからな。歓迎するぞ」
ガハガハと豪快に笑う。
「どいつもこいつも下に付けて利用とするな。人間も魔族も大して変わらない」
「私をあのクズ共と一緒にするな!だったら、マルリルの下僕としてここで死ぬのか?だったら望み通りにしてやろう」
マルのほうを見てみる。マルは不安そうで今にも泣きだしそうだ。俺はゆっくり息を吸ってはっきり答える。
「下僕じゃない、”友達”だ。お前を倒し、こいつを魔王にする」
「ユウ…!」
「俺は誰の下にも付かないし言うことも聞かない。でも友達の頼みだったら話は別だ。お互い平等だからな。
それに俺もあいつのことが気に食わねえ。やられたまま死んでたまるか」
俺はマルに笑って見せた。マルは少し驚いたようだったがいつものやる気に満ち溢れた表情に戻った。
「この状況で私に宣戦布告するとは。面白い、ではお前の力を見せてもらおう。お前たち、新四天王の力を見せてやれ」
横に控えていた四人が前に出てきた。まさか、四人がかりでやるわけじゃないよな?
「すまないなマルリル、お父様の指示だ。悪く思うな」
「あいつらもマルの知り合いか?」
「四人とも吾輩のお兄様とお姉様なのだ。とっても強いのだ」
マジかよ。今思えばここは敵地、たとえ倒せたとしても援軍はいくらでもいるだろう。打開策なんて何も思いつかない。
考えているうちに四人が一斉にいろんな魔法の弾幕を容赦なく撃ってきた。俺はとっさの思い付きで魔力を放出させて魔力の壁を作った。
だがそれも簡単に破られ、弾幕が俺に向かって降り注ぐ。
「ユウ!大丈夫なのだ?」
何とか生きているが、ダメージが大きすぎる。これじゃ立つので精いっぱいだ。
「何をしている、妹といえども裏切り者だ。手加減は必要ない、ここで消してしまえ」
次の魔法を撃つ準備をしている。腹が立った勢いで強気に出てみたが、この強さじゃ無理があるな。もうどうしようもない。
「お嬢様に手出しはさせません」
ルイスさんが俺たちをかばうように前に出てきた。
「ルイスさんが戦うなら俺も…」
「ダメです。私には僕の腕輪が付いています。どんなに戦えようと、あの方の命令一つで命を奪うことができます。あなたはお嬢様と逃げてください」
ルイスさんは俺たちに向かって魔法を唱えた。次第に床に魔法陣が浮き出てきた。
「転移魔法です。あの家につないでいます」
「ルイス!やめるのだ!」
「私は元より奥様の僕。奥様が最期まで守ってきた宝物を見殺しにできません」
「そんな…ダメなのだ!ルイスも一緒に来るのだ!」
マルがルイスさんの手を引っ張り、魔法陣の中に入れようとする。
「私が時間を稼がなければこの魔法陣が使われることになります。お嬢様のその言葉が聞けただけでとてもうれしいです。奥様のようにやさしいですね」
ルイスさんマルを抱きしめる。
「初めて会った頃は少々不安でしたが、召喚されたのがあなたでよかった。改めて、お嬢様をお願いします」
ルイスさんが俺にマルを渡すと次第に魔法陣の光が強くなる。それを阻止するかのように四天王から弾幕が飛んできたが、ルイスさんの魔法ですべて防いだ。
「やってくれたなルイス。覚悟はできてるんだな」
「はい、私は奥様の僕、たとえ旦那様が命令されようと、この場を動くことはありません」
「では仕方ない、お前ほどの力を失うのは惜しいが、魔王の名を穢した落とし前はつけてもらう。命令だ、『死ね』」
ルイスさんの腕輪が強く光り始める。
「ルイスーーー!!」
暴れるマルを無理やり抑え込み、魔法陣の中にとどめる。魔法陣の光が強くなるとともにルイスさんの後ろ姿が光の中に消えていく。
光が弱まり辺りを見ると、そこは見覚えのある木漏れ日が差しこんでいる森だった。目の前には俺たちの住んでいる家がある。
「何やってるのだ!ルイス、早く来るのだ!」
消えていく魔法陣に向かって叫び続ける。
「早く戻るのだ!戻ってあの腕輪を解除するのだ!」
「無茶だ、あの腕輪は魔王の魔力が流れているんだろ?俺じゃああの魔力をまねできない」
「何言ってるのだ!早く行かないとルイスが死んじゃうのだ!」
「いい加減にしろ!無理なもんは無理だ!それに戻っても今の俺たちの力じゃ勝てない!ルイスさんに助けられた命を無駄にする気か!」
「そんな…ルイスが…」
マルが大声で泣き叫ぶ。厳しい言い方になったが戻ってもどうにもならないのも事実だ。
俺は泣き叫ぶマルを抱き寄せる。今の俺にはこれぐらいしかできない。こんなに悲しく感じるのはなぜだ?
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