第16話 のんびり釣り日和、なのだ!

静まり返った部屋の中に血を流して横たわっているアリスさんに駆け寄る。気絶しているだけで息はあるみたいだ。


この前採ってきた薬草を使って応急手当てをした。明日の朝一で病院に連れて行こう。


夜が明けると俺たちはアリスさんを病院に預け、急いでアルベールに帰りウォーリムさんに報告に行った。手に入れた証拠品の提示と起こった出来事をすべて話した。


「そうか、キルトスは謎の男に消されたのか」


「もう少しで俺らもやられるところでしたよ。もうこんな仕事はもう嫌ですよ」


「それは悪かったね。君たちにこの仕事を任せたのは君たちがキルトスの作戦に加担する可能性を確かめたかったんだ。正直大きな賭けだったが、いい結果に終わってよかった」


俺たちは全然いい思いはしなかったけどな。愚痴を飲み込んで今回の分の報酬をもらう。


「魔族とは対立の関係にあることがわかったが、引き続き私の仕事を受けてもらうよ。変なことをしないように監視するためにね。これからもよろしく頼むよ」


これでギルドマスターからの仕事は完了した。ゴールドランクの仕事だけあって多くの報酬をもらった。




それから数日間、特に何事もなく過ごしていた。ブロンズランクの仕事を淡々とこなし、ご飯を食べて寝る。平和な日常だった。ふと、思い出したようにマルに聞く。


「お前、こんなことしてていいのか?魔王になるとか何とかいってたろ。なり方とか知ってるのか?」


「知らないからユウを召喚したのだ。ユウがなり方を知ってるんじゃないのだ?これも魔王になるのに必要なことじゃないのだ?」


現在、受けている仕事は『街はずれの川での魚釣り』。魚料理の研究をしたいからたくさん持ってきてほしいという依頼だ。


「こんなことが魔王になるために必要なことに見えるか?これじゃただの休暇のおじさんだぞ。魔王のなり方なんて知るもんか」


「そうだったのだ⁉今までやってきたのはなんだったのだ」


「ただ生活するためにやっていただけだ。おかげでうまい飯が食べれてるだろ」


そう言って魚を一匹釣りあげる。これで十匹目だ。


「吾輩は魔王になるのだ!どうやったらなれるのだ!」


「そんな暴れたら魚が逃げるぞ」


もうちょっとで釣れそうだった魚が逃げていく。今のところマルは二匹しか釣れておらず、圧倒的に向いていない。


「魔王のなり方か。とりあえず強くなればいいんじゃね?あとは強い仲間、四天王とか?」


「そうか、それなのだ!仲間を探しに行くのだ!」


「簡単に言うなよ。お前は魔族なんだぞ。ついてくる奴なんてそういないだろ」


ここは人間の国。いろんな種族がいるとはいえこんなところで探してもマルに協力してくれる奴はいないだろう。


「まずは自分が強くなることだな。ほかの魔法も少しは覚えてくれ」


そう言ってまた一匹釣りあげる。


「お前はさっきから釣りすぎなのだ。何でそんなに釣れるのだ」


「魚に合わせて竿を引くだけだろ」


「そんなのわからないのだー!」


また暴れたせいで寄ってきた魚が逃げていく。何でこんなに不器用なんだ。そうしているうちに、こっちに逃げてきた魚が釣れた。それを見てマルが膨れ上がる。


「もうこれぐらいでいいだろ。腹も減ったし帰るか」


マルの籠の中には魚は一匹もいない。俺のほうはもういっぱいだ。立ち上がって釣り竿の片づけを始める。


「ここにいましたか、探しましたよ」


気づかないうちに目の前にあの男が立っていた。


「お二人ともお迎えに上がりました。私と一緒に来ていただきます」


「まずい、逃げるぞ!」


俺は前日買っておいたショックボールをあいつめがけて投げ、全力で走る。


「そうはいきませんよ」


どんどん地面に巨大な魔法陣が浮かび上がっていく。あいつ、ショックボールが効いてない⁉


「申し訳ありませんがこのまま連れて行かせてもらいます」


辺りが強い光で包まれる。こいつ相手じゃての出しようがない。このまま連れていかれる!

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