第15話 怪しい部屋に潜入、なのだ!
「よし、行くか」
辺りが薄暗くなったころ、作戦決行に向けて動きだす。俺たちは館の裏に回り、扉に手をかける。
おもむろにドアを押したり引いたりしてみる。が、開かない。
もうそろそろ予定の時間なんだけど。もう少し待ってみるか。
「開かないならこうすればいいのだ」
「ちょっとま…」
マルが扉に向かってシャドウボールを打った。ドアどころか壁ごと吹き飛ばしてしまった。
「開いたのだ!」
「『開いたのだ!』じゃないだろ!俺たちは潜入しに来たんだぞ。今ので明らかにばれただろ」
仕方ない、このまま中に入ろう。周囲を警戒しながら怪しい扉を目指す。なぜか人の気配を感じない。
何事もなく目的の扉の前に着いた。ドアノブに手を当てて、初めて会った時に感じたキルトスの魔力を思い出す。確かこんな感じ…
始めて魔法を教えてもらった時と同じようにゆっくりと魔力を流す。ドアのロックが外れ、自然とドアが開いていく。
開いた!扉の先は階段になっていて地下に続いているようだ。禍々しい雰囲気が強くなっていく。
慎重に階段を下りていく。奥から薄明かりが揺らめいているのが見えてくる。
ゆっくり覗いてみる。地下室は小さい素朴な部屋になっていた。誰もいなさそうだ。とりあえず証拠になるものを探そう。
棚にあった書類を漁るとあの転移魔法の描き方が書かれた紙があった。それから箱の中には魔法陣に使うであろう魔石があった。これが証拠になるかな。
「これは…」
机のほうを探していたマルが何か発見したようだ。マルが持っているものを見ると、家紋のようなものがついているネックレスだ。禍々しい感じはこれからしてくる。
「何か知ってるのか?」
「この紋章は魔王のものなのだ。これを持ってるということは、魔王とつながっているということなのだ」
これは確実に証拠になる。あとはここから出るだけだな。
「よくもやってくれたな」
階段の方からキルトスの声がした。
「すべてこいつから聞かせてもらったよ」
無理やり腕を引っ張り前に突き出した。そこにいたのはボロボロになったアリスさんだった。
「私は貴族なんでね、こういう事態に気を使っているんだ。こいつが変に酒を進めてくるもんだから、怪しくて仕方なかった。この腕輪の力を使って問いただせばいろいろ吐いてくれたよ」
「ごめんなさい…私の気が弱いせいでこんなことに…」
アリスさんはそう言い残し、床に倒れてしまった。相当苦痛に耐えてきたんだろう。
「何から何までクズ野郎だな」
「私からすれば作戦の邪魔をした君たちのほうがクズ野郎だがな」
俺は短剣をキルトスに向ける。証拠を持ち出せば俺らの勝ちだが、逃げるにしても出入り口はキルトスの後ろにある階段しかない。どのみちやるしかなさそうだ。
「おっと、やる気か?真向にやりあっても私が君たちに勝てるわけがないんでね、すでにトラップを仕掛けている」
キルトスが俺たちに向かって手を出す。俺たちの足元の魔法陣の光が俺たちを包み込む。俺らの体が一気に重くなる。
暗くて見えなかったが床に魔法陣が書かれていたみたいだ。
「くそ、なんだこれ!」
「ハイパーグラビティートラップだ。一時的に重力を上げ、身動きをとれなくすることができる」
起き上がろうとするが全く体が動かない。マルももがいているようだが無理そうだ。
「本当はせっかくのゴールドランクの奴だから捕まえて高く売ろうと思ったんだが、もう生かしておくことはできないな」
キルトスがナイフを取り出し近づいてくる。何か脱出する方法はないか?急いで頭をフル回転させるが何も思いつかない。
「これでおしまいだな」
キルトスがナイフを振り上げる。その瞬間後ろからアリスさんがキルトスの腕にしがみついた。
「貴様!なにをしている!」
アリスさんを振り払い、ナイフで切りかかった。
「キャッ!」
そうしている間に効果が切れたらしく、身動きが取れるようになった。
「マル!あいつを殴り飛ばせ!」
「わかったのだ!」
気がそれている隙にキルトスを殴り飛ばした。
飛ばされたキルトスは壁に衝突し、ナイフを落とした。すかさずナイフを拾い上げ、キルトスに向ける。
「お前の負けだ。このままギルドに突き出してやる」
「くそっ、貴様が邪魔をしなければな…」
そういってアリスさんのほうを見る。血は出ているがかすり傷のようだ。
「主に歯向かった罰はわかっているな。命令だ、『ここで死ね』」
その瞬間、アリスさんの腕輪が強く光った。
「な…なんてことを言うのだ!やめるのだ!」
「ふん、やめるもんか。これはあいつの自業自得だろう」
アリスさんの腕輪を握ってなんとか外せないか試す。
「ダメなのだ!無理やり取ったら死んでしまうのだ!それをとれるのは主だけなのだ」
くそっ、どうにかできないか…そういえばこの前、ウォーリムさんが腕輪について言っていたな。
『その腕輪にもその子の魔力が流れている』
だとしたらメイドの腕輪にはキルを巣の魔力が流れているはず。だったらイチかバチか…
俺は落ちついてキルトスの魔力をまねて流してみる。
「命令だ、『お前を解放する』」
俺が命令すると腕輪の光が弱まり、腕輪が床に落ちた。
「やった!できたぞ!」
まさかこんなことができるとは思ってなかった。とにかく、助けられてよかった。
「なんだと!ふざけたことをしてくれたな。次あったときはただじゃ置かないぞ」
キルトスがゆっくり立ち上がり、階段のほうに向かう。
「ただじゃ置かないのはあなたのほうですよ」
謎の人影がキルトスの行く手を阻んだ。何者だ?
「もうこれ以上の失敗は許されないといったでしょう」
「まだ私はやれる!金さえあればどんなことだってできるんだぞ」
「何と言おうとあなたは信用を失ったんです。信用できない人をうちにおいておくわけにはいけないんでね」
そういうとキルトスに向けて魔法を打ち出した。
「なぜだ!私はこれほどまで忠実に従ってきたというのに!」
キルトスの訴えは空しく、次第に体とともに消えていった。
「さて、役立たずの始末は終わったことですし、次は…」
ゆっくりとこっちを見る。キルトスとの関係を見るとこいつは魔族だろう。戦って勝てるとは思えない。
「おや、そちらのお嬢さんは…」
男はマルをじっくりと見つめる。マルはとっさに俺の後ろに隠れた。
「なるほど、事情が変わりました。ここは私が引くとしましょう。ではまた」
そういって闇の中に消えていった。なぜか知らないが命拾いしたようだ。
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