第12話 無事に送り届けよ、なのだ!

「いつまで待つのだ~暇なのだ~」


ベットの上で転がりながら駄々をこねている。


「いい加減にしてくれ。明日だって言ってるだろ。少しぐらいおとなしくしてくれ」


騒がれるとこっちまでイライラしてくる。いっそのこと殴り飛ばしたいが腕輪があるから何もできない。


「そうなのだ!この館を探検するのだ!」


「余計なことはするな。どうせ面倒なことになるんだからやめてくれ」


「いやなのだー!暇すぎて死ぬのだー!」


「だあー!わかったから静かにしてくれー!」


もう我慢の限界だ。どこからそんな声が出ているんだ。このままじゃ鼓膜がいくらあっても足りない。仕方なく館探索に向かうことにした。


「おおー!いろんな部屋があって面白いのだ!」


書斎、食堂、大広間、部屋という部屋を次々に開けて見ていく。さすが貴族の家、どこの部屋も豪華にできている。相当お金がかかってそうだ。


「すごいのだ、面白いものがたくさんあるのだ」


「あんまり気安く触るなよ」


「あっちに面白そうなのがあるのだ」


走っていった先は他よりも頑丈そうな扉だった。変な装飾がされていて禍々しい感じがしている。


「このドア硬くて開かないのだ」


「そりゃ鍵くらいしてあるだろ。いい加減あきらめてくれ」


ゆうことを聞かず何としてもあけようとしている。さすがに力づくで引き離そうとした。


「困りますな、勝手にうろついてもらったら」


振り向くと、さっきいた貴族が後ろに立っていた。


「えっと、キ…キットブスさん!」


「キルトスだ!こんなところで何している?」


「えっと、ちょっとトイレに行こうと思って」


「トイレなら反対側だ!分かったらさっさと行って部屋でおとなしくしていろ!」


やっぱり怒られた。結構暇つぶしできたし、いいだろう。この後、全然収まらないマルをなだめながら時間が過ぎるのを待った。


しばらくするとメイドさんが夕飯の案内をしてくれた。一段とうまい夕食を食べてふかふかのベッドで寝ぐっすり眠った。




日が昇り、出発の時間になった。俺らとキルトスは別々の馬車に乗った。行きの馬車より明らかに乗り心地が違う。


ここからが俺らの仕事だから気を抜かないようにしないと。相変わらずマルはすぐに寝ていた。


馬車に揺られながらぼーっと外の景色を眺める。


「おい!なんだあれ!」


いきなり御者が大声で叫んだ。窓から顔を出して前を見るとやばそうな人が道を封鎖している。


「なんだあいつら?」


「キルトス様を狙ってるんだ!貴族を誘拐して金目のものを要求してくる輩がいると聞いていたが、まさかうちの馬車が狙われるなんて…」


なるほどな。こっからは俺たちの仕事ってことか。


「いくぞてめぇら!」


物騒な格好をした輩たちは掛け声とともに俺たちの馬車の方へ走ってきた。


「マル起きろ!戦闘だ!」


「お?吾輩の出番なのだ!」


馬車からに飛び出し、戦闘態勢に入った。


「あ?なんだあのガキは?」


「ガキじゃないのだ!もう起こったのだ!」


マルのシャドウボールが二人、三人と倒していく。だが数人倒したところで人数で押し切られ、取り押さえられてしまった。


さすがにマルの怪力とはいえ、数人の体格のいい男相手にはかなわなかった。


「くっ…離すのだ!」


あとは戦えるのは俺だけだ。でも、戦い方なんてわからないし…そうだ、ショックボール!モンスターに対しての効き目しか聞いてないけど、人には効くのか?


迷っている暇はない、やってみるか!スイッチを押してあいつらの中に放り込む。


破裂音と共に一気に強力な魔力が放出された。衝撃波のような違和感のようなものが体の中を貫通していき、一気に鳥肌が立った。


「うおっ、なんだこれ⁉」


一瞬怯み、マルから手が離れた。ここであれやってみるか。短剣に集中して魔力を流す。そしてこれを飛ばすように思いっきり横に振ってみる。


剣から斬撃が飛び出し、輩どもに胸に傷をつけた。意外とできるもんだな。


「ぐはっ、何しやがる」


いい感じにできたが、傷は浅いようだ。だが、マルが解放できればそれでいい。


「マル!動けるか?」


「助かったのだ。次は吾輩の番なのだ!」


マルは近くにいた男の腕をつかみ、ぶんぶん振り回した。魔道具屋で買ったベルトの効果「筋力上昇」が効いているな。周りの奴らを巻き込み、ふっ飛ばしていった。


「これで片付いたのだ」


全員地面にたたきつけられた衝撃で立ち上がることはなかった。これで任務完了だ。


「それにしても、お前の背が低くてよかったな。おかげで斬撃が当たらずに済んだ」


「全部倒したのは吾輩なのだ。何なのだあの斬撃は。弱すぎて話にならないのだ」


「ほう、見た目のわりになかなかやるじゃないか」


馬車から顔を出したキルトスが言い争っている間に割って入ってきた。


「よくやったな、それじゃ早く行くとするか」


なんかあっさりしているな。もっと感謝してくれてもいいだろ。まあ仕事で後からお金もらえるしいいか。ともあれ、これで無事につくことができるだろう。

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