第9話 魔法を習得せよ、なのだ!
「申し遅れたな、わしの名前はカイザ・ネリック、元魔術師だ。長い付き合いになりそうだから教えておこう」
「あ、俺はユウって言います」
「吾輩はマルリル・ライネスなのだ!」
「なるほど、覚えておこう。それじゃあ行こうか」
カイザさんは俺たちを外へ連れ出した。街の中が騒がしかったせいか、平原に出ると余計に静かに感じる。
街から少し歩いたところで立ち止まる。
「ここなら大丈夫だろう。早速始めようか」
「はい、よろしくお願いします!」
元魔術師から教えてもらえるのか。どんなことを教えてくれるんだろう。
「まずはこの魔石についてだ。これは簡単に言うと魔力が結晶化したものだ。この石に触れているものは石から魔力が供給されるようになる。
例えば、わしが作っている魔道具に使うと、人が魔力を流さなくても長い間機能し続ける」
なるほど、昨日見た魔法陣と同じ使い道ができるのか。
「次に魔法についてだ。魔法は人に流れている魔力を操っていろんなことができるようになる。
世の中には魔力を操ることに長けている種族がいる。その中でも人間はあまり長けていない方で、それなりの修業が必要になる。
逆に言うと修業すれば筋力や体力のように自分の中の魔力も強くなり、より多くの魔力を操ることができるようになる。初心者のお前さんでもな」
「でも、そうなるとやっぱり長い間修業しないといけないんじゃ」
「そこで、この魔石の出番だ。お前さんの魔力はとても少ないから本来なら最初に自分の中の魔力を高めることが必要だが、魔石を使えばそれを補うことができる。
だから、お前さんがやるのはこの魔力を操ることだ」
この石を使えば、修業の最初の段階を飛ばせるということか。こんないいものが手に入ったんだから、あの時農場のおじいさんを助けてよかった。
「それでどうすれば?」
「まず、集中して魔力の流れを感じるんだ。魔石から魔力が体の中に流れ込んでくるのを感じないか?」
目をつぶって魔石に集中する。何か感じるもの…確かに何かわからないけどエネルギーみたいなものが流れているような気がする。
「感じました!多分ですけど」
「ふむ、なかなか筋がいいな。
では次は、魔力を外へ流れ出す練習だ。左手に石を持って右手で出す感じだ。うまくいけばそよ風のように出すことができる。
そこにある草に向かってやってみなさい」
言われたように、左手に石を持って草に向かって右手に力を入れてみる。なかなか難しいな。
「力を入れるんじゃない、魔力が出ていくイメージするんだ」
一度深呼吸してもう一度試す。流れ出る…イメージ…
慣れないことをしているせいで無駄に体力を消耗している。全身から汗がにじみ出てくる。
あれからどれほど経ったんだろう。俺の後ろからはマルが何かを追いかけて走り回っている音が聞こえる。
めげずにもう一度息を整えてゆっくり目をつぶる。何にも邪魔されないように自分の世界に入っていく。
遮断された世界の中にかすかに揺れる草の音が世界をこじ開けて入ってくる。
「おっ!きた!」
「今はそれぐらいできればいいだろう。上達していけばこんなことができるようになる」
カイザさんが奥にある岩を狙って右手を出す。すると手から透明のボールが発射された。命中した岩は粉々にはじけ飛んだ。
「これがマジックショットだ。自分の中にある魔力を一気に放出する基本魔法になる。ただ魔力を放出させているだけだが、うまくコントロールできれば相手を吹き飛ばすほどの威力がある」
カイザさんが説明している裏で、さっきより大きな爆発音と衝撃が響き渡る。
「おお!こんな感じか!」
どうやら暇を持て余したマルがまねしていたみたいだ。それにしてもその威力はなんだ。
「ふぉふぉふぉ、さすがだな」
「ていうかお前は魔法使えてただろ。何で一緒にやってんだよ」
「吾輩は初めからシャドウボールから練習してたのだ。こんな風に教えてもらうのは初めてなのだ」
「まあ今日のところはこのぐらいにしておこう。しっかりコントロールできるようになったらまた教えてやろう。それから2人にプレゼントだ」
そういってマルにはチョーカー、俺には腕輪を渡された。
「こんな高そうなもの受け取っていいんですか?」
「構わんさ。お前さんのものはただの腕輪に魔石を埋め込んだだけのものだ。常に魔石を手に持っているわけにもいかんだろう。肌身離さずつけておけ。
そしてあの子には魔力を読み取れなくする阻害魔法が入っている。ここにいるのなら必要だろう。わしのように他人の魔力を読み取ることのできる者もおるからな。
その子の魔力を漂わせながら歩くのは危険だ。お代はいらんから持っていくといい」
「そうなんですね。ありがとうございます」
なんか変な気づかいだな。この人何者なんだ?
「最後に、魔法はイメージ次第で様々なことができるようになる。気が向いたらいろいろ試してみるといい」
かなりいいことを教えてもらったな。これで俺も魔法デビューだ。
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